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【エッセイ】三省堂書店神保町本店―父との思い出

たまには自分のこととか書いてみてもいいかな、と思って。

私は子どもの頃から父と気が合わないのを感じていました。
何というか父は悪い人ではないのだけれど、過分に権威主義的でまるで上司が家にいるような感じなんです。

父は子どもと遊ぶのが苦手だったようであまりどこか連れて行ってもらった記憶はないのですが、数少ない2人で出かけた場所が神保町の三省堂書店本店でした。

小学校3年生くらいの頃かな。
日曜日に「本屋に連れて行ってやる」と言われて車に乗ると神保町の三省堂書店本店に着きました。私はそれまで町の本屋さんにしか行ったことがなかったので「こんなに大きな本屋さんがあるんだなあ」と驚いたのをよく覚えています。
他にも都内には大型書店がたくさんありますが、父は学生時代に通っていたという理由で三省堂が好きでした。父は仕事のために経済の本なんかをよく読んでいて、他には推理小説、中でも内田康夫さんや綾辻行人さんなんかの本が好みのようです。

いつも「好きな本を2冊買ってやるから見てきな」と言われるので階段を上がったり下がったり、本を少しめくってはまたうろうろ、うろうろして1時間近く悩んでいた気がします。
私は小さな頃から読書好きでしたが、本音を言えば本は図書館や学校の図書室で借りられるのでマンガが買いたかった。
でも父が「マンガかあ」と言いだしそうな気がして折衷案として本を1冊、マンガを1冊買うことに決めていました。
マンガはコナンとか、りぼんに載っている少女漫画なんかをよく買っていたような気がします。

本は悩んで表紙を見てぱらぱらめくってみて決めていたのですが、ここで出会ったいい本がたくさんありました。
ドイツの作家ミヒャエル・エンデの遺作「誰でもない庭」とか、ソ連内のホロコーストについて描いたロシア児童文学の「重い砂」とか、あとは今でも大好きな高楼方子さんの本なんかも確かここで買った気がします。たぶんだけど……

今思うと、小学生は大人が考えるより色々なことを知っていますよね。
私は実は児童書がけっこう好きなのですが、司書としてはあまり趣味を活かす機会がなかったので残念です。

帰る時にいつも自動販売機で「好きな飲み物を買ってやるよ」と言われるのですが、ジュースはちょっと子どもっぽいかな、と思ってなぜかよくミルクティを買っていた気がします。
お洒落っぽいし、大人のような感じがしたからです。

高学年になってある日父に「中学生になったら、本屋は1人で電車で行けるだろう?」と言われて私は「うん」と答えてしばらく車の中で寂しい気分でいました。それで2人で本屋に行く習慣は終わりになりました。

私は実際はそれから1人で神保町に行くことはなく、大人になるまでこの町からは足が遠のいてしまいました。
(実はこの15年後くらいに女子アイドルオタクになり、神保町秋葉原方面に通いまくることになりますが、それはまた別のおはなし……)

それ以来父と出かけた記憶が全くないのですが、でもこれはいい思い出。
今三省堂は建て替えをしているらしいので、完成したら久しぶりにまた行ってみたいなあ。








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