大泉凌平

人生のどん底なんてねぇよ、人生は底なし沼なんだよ

大泉凌平

人生のどん底なんてねぇよ、人生は底なし沼なんだよ

最近の記事

ある夏の出来事

 あなたはいつから神を信じていますか。そう聞かれたとき、人はなんと答えるのだろう。おそらく、多くの人がそんなものは知らないと言う。人には神を信じるようになったきっかけも無いし、神が本当にいるかどうかの証明すらもできない。それなのに、多くの人が困ったときには神頼みをするし、年の瀬には神社を訪れる。かくいう私も神を信じる。ただ、こんなことを言って理解してもらえるかは分からないが、私には神を信じるようになった明確なきっかけがある。あの夏の出来事、いや、あの夏から今でも尾を引いている

    • タクンタ・エスコバル3

      タクンタは大宮と横浜を往復するようになった。毎月入ってくる1000万円を使って、建築事業を立ち上げ、路頭に迷っているゴロツキ達を吸収していった。金にならないシノギだったが、タクンタは手を抜かなかった。彼には経営の才覚がないし、建設業の知識もない。ただ、タクンタはその弱い部分をさらけ出すことで、人望を得ていった。  「ヒロキ、海幸会のやつらの尾行に気をつけろよ。園森が尾行されている」  「兄弟も気をつけてくださいね」  「ああ」 タクンタはヒロキと共に、居酒屋で焼き鳥を食べて

      • タクンタ・エスコバル 2

        「園森、ダーウィンの進化論って知ってるか?」 ベントレーの後部座席に乗った柴山が、ネオンにきらめく街を眺めながら尋ねた。  「知りません。自分、まともに学校に行ってなかったので」  「いままで、地球にはいろんな種類の生物がいただろ?人間はもともとサルだったっていうし、ペンギンはもともと、空を飛べたらしい。つまり、生物は等しく進歩しているわけだ。何億年という歴史の中で、自然界の生き物たちは殺し合いを繰り広げながらも、進化して絶えず種を存続させてきた。」  「は、はぁ…」  「そ

        • タクンタ・エスコバル

          マフィア大学の犯罪コミュニケーション学科の拳闘サークルに通うタクンタはサークル活動の一環で暴力団組織を立ち上げた。組員の数は少ない駆け出しの暴力団だった。タクンタは喧嘩が弱かった。細身で同じ極道を生きる者たちにしばしば下にみられていた。しかし、彼の忍耐力と行動力だけは裏社会の誰にも負けないほどのものであった。 「それで、シノギはどうしていくつもりなの?」  「ガンジャを密売しようと考えています」  「どうやって販売するの?流通ルートは?製造方法と場所は?」 元十藤会拳下組の組

        ある夏の出来事

          ゴールデンウィークはゆっくりと

          4月30日、午後22時、流行りの邦ロックが流れるカラオケ店のフロントで突如として吐き気に襲われた。アルバイトをしていた私は、客数の少ない店内で、もう一人のバイトの女性と世間話をしているところだった。何か悪いものでも食べたのかなと記憶を掘り起こしてみたが、思い当たる節はなかった。どうせ、一時間もすれば治っているだろう。そう思っていたが、秒速で吐き気は増していった。ただ、心配をかけたくなかったので平静を装った。  「ちょっとトイレに行ってきますね」と、言ったところで私の意識は遮断

          ゴールデンウィークはゆっくりと

          危険と煙草を呑みながら 最終回

          バリからジャカルタへと飛び立った。地球の青さを感じさせるような雄大な空の足元を飛行機で駆け抜けた。窓からみえるエメラルドグリーンの海が、床に散らばったガラスのように日差しを反射させて、キラキラと光っていた。  日本に帰るための便まで八時間くらいあったため、空港でお土産を買ったりご飯を食べたりして過ごした。料金が高かったのがちょっと難儀だったものの、余ったインドネシアルピーを消費するにはもってこいだった。ジャカルタ市内で時間を潰そうと思ったが、キャリーケースを転がしながら市内を

          危険と煙草を呑みながら 最終回

          危険と煙草を呑みながら part6

          もうどれくらい歩いたのだろう。2.3時間は歩き続けている気がする。硫黄の臭いが強くなってから時間が経つ。周りの人間によると、まだ火口にはつかないらしい。雨は降り続けていた。高度が上がったからか、風が強くなってきた。四方八方から、体を揺らしてしまうほどの風が吹いた。私は一生懸命に歩いた。泥水の上に釘でも打ち込むかのように、しっかりと足をつけた。あと少し歩いたら休憩しようと思いながら急な坂道を上り続けていた。最初にもらった懐中電灯は電池切れになり、使い物にならなくなっていた。前を

          危険と煙草を呑みながら part6

          危険と煙草を呑みながらpart5

          インスタントコーヒーを飲みながら、煙草を吸った。煙草とコーヒーを啜ることが毎朝の日課になっていた。今日はイジェン火山に向かうツアーの初日であった。リュックサックに二日分の着替えと煙草と軽食などの最低限の荷物を詰めると、タクシーをチャーターして待ち合わせ場所のカフェへと向かった。カフェには既に、同じツアーを申し込んでいるドイツ人の男性が待っていて、ものの十分もしないうちに残りの外国人とガイドも集まってきた。今回のツアーメンバーは全部で7人だった。ギリシアからきた男二人やアメリカ

          危険と煙草を呑みながらpart5

          危険と煙草を呑みながら part4

          14時5分にテンバサール国際空港に足を着けた。窮屈な座席に二時間も乗っており、肩こりと腰痛に悩まされていた。ジャカルタの空港でタクシーにぼったくられた私は、拙い日本語で観光客をだまそうとしているキャッチをしている人たちを無視し、事前に予約してあったタクシーに乗って、レギャンにあるホテルに向かった。雨季が迫っているバリ島の湿度は高く、じめじめとした暑さだった。日差しが強いわけではないが、一時間も歩けば、汗によって、シャツが背中に張り付いていた。ホテルに到着すると、フロントでチェ

          危険と煙草を呑みながら part4

          危険と煙草を呑みながら part3

          モナスを後にすると、軍事博物館や東南アジア最大のモスクである、イスティラクルの大モスクを通って、ガンビル駅に向かった。モナスにいるときに、三人でモスクに入ってみようと言っていたものの、金曜礼拝の日であったため、非ムスリムである私たちは、入ることができなかった。私も、フアンも、ケイも行きたい場所がなかったため、とりあえず電車に乗ろうということになり、汗の臭いが充満した満員電車に乗って、コタ駅で降りた。当時、インドネシアでは、G7が開催されており、コタでは、それに伴った様々なイベ

          危険と煙草を呑みながら part3

          危険と煙草を呑みながら part2

          起きたのは朝の十一時だった。ホテルの朝食サービスは終了しており、空港で買っておいたパンを食べると、リュックを背負って外に出た。昨夜、ふっと湧き出てきた、友達を作りたいという欲望を叶えるためには、まずは人がいる場所に出なければならなかった。そのため、タクシーに乗って、ホテルから最も近い、路線バスの停留所に行った。中心街に近づいていくごとに、ビルが増えていった。しかし、そんな近代化した街の様子とは逆に、道を歩く人々の服装はあまり整えられていなかった。バスの停留所は下町にあった。多

          危険と煙草を呑みながら part2

          危険と煙草を呑みながら

          日本航空の空の旅は快適だった。Netflixと睡眠を交互に繰り返しながら、およそ八時間のフライトを乗り越えた。ジャカルタの国際空港である、スカルノ・ハッタ空港に到着したのは午後六時だった。はじめての海外旅行だったため、日本語がどこにも見えず、どこからも聞こえない空間に興奮した。 これが海外か。 一人で来ていたものの、心細さはなかった。新しいものに刻一刻と触れている状況に気持ちが高揚しているだけだった。税関の手続きを済ませ、日本のお金をインドネシアの通貨であるルピアに交換すると

          危険と煙草を呑みながら

          寿司、強欲、大麻

          寿司というものは魚介類を余すことなく、使った飲食業である。そのため、チェーン店では価格競争を制するために、いかに安価な魚を仕入れるかということに力がそそがれていた。大手回転ずしチェーンの「シャブ三昧」は売り上げ状況が芳しくないことに頭を悩ませていた。主に、東南アジアから代用魚を仕入れていることが業界ではマストであったが、シャブ三昧の代表 ベロベロはアフリカルートの開拓を狙っていた。 「社長、アフリカで代用魚が盛んな国は以下の通りでした」 部下のツァルケンシータ晋平はipad

          寿司、強欲、大麻

          ディストピア3-4

          我々は気づくと、購買の常連客のようになっていた。何かを買うわけではなく、ただ購買のおばちゃんと話すためだけに我々は訪れていた。どうしてかと聞かれるがわからない。純粋におばちゃんとの会話を楽しんでいたという理由でもある気がするし、セントラルエリアという自分たちのたまり場にたまたま、購買があったという理由でもある気がする。 私はこの日も、放課後になるとおばちゃんと話をした。すると購買のあるスペースにこんな張り紙があるのを見つけた 囲碁将棋部の○○君が全国大会に出場! 「おばちゃん

          ディストピア3-4

          ディストピア3-3

          一日のすべての授業が終わった。やっと終わったという感じである。中学の授業は退屈である。大学のように自分で学びたいものを学ぶわけではない。文科省が指定した教科を粗雑に学ぶため、時として厳密性に欠くことがある。そのため、私にとっては中学のときの勉強が好きになれなかった。  同じクラスの嶋立や原島たちと自動販売機があるセントラルエリアに向かった。セントラルエリアにはもともと、学食があったのだが、現在は取り壊されており、コンビニの三分の一程度しかない購買と複数の自動販売機があるだけの

          ディストピア3-3

          ある男の話

          ヒロキの家庭は決して裕福な家庭ではありませんでした。彼の両親は海賊をやっていて、あまり良質な育児をされずに育ちました。五歳になったヒロキは世間のことを冷めた目で見るようになり、自分のことを助けてくれる人はいないという考えに陥ってしまいます。そのため、彼はキムチを売ることで生計を立てようと考え、ある日から町の一角で大麻のキムチを売り始めます。そのような生活を5年ほど続けていた、ある夏の日に、「うんこ伊藤」と名乗る人物が彼の許を訪れます。 ヒロキ君は最初から大麻のキムチを売って