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マロン日記#1【アパレルで出会った女神様】研究レポート特別編☆

2015年──

国道をバイクでひた走っていた私は、頬を伝う涼しげな風に季節の移ろいを感じた。

夏の終わり、某有名アパレルメーカーの倉庫で週末に短期バイトをすることになった私。

期間は3ヶ月、商品をピッキングする作業なので比較的簡単だ。

しかし、私の体力とメンタルは限界の域に達しようとしていた──

約二年間、無休のハードワークに加え、こづかい無しの制限生活。(こづかいが無いのは自業自得なので仕方ない) 

唯一のライフワークである『一期一会ビンタ』も、交渉がうまくいかずに失敗続きの日々。

あぁ……頬っぺたに刺激を迎えたい。

思いっきり、ビンタされたい。

倉庫に到着した私は、食堂脇に設置されている喫煙室でタバコをウマウマしながら、席に座るバイト連中を眺めていた。

その時、席の片隅でスマホをいじっている一人の女性に目を奪われた。

長い黒髪をポニーテールでまとめた、ピンクのアイシャドウが妖艶な美人──

スマホを触る指も長く、美しい手をしている。

彼女が放つ雰囲気は、どことなく威嚇的で、バイト連中を遮断しているかのように見えた。

近づきがたいし、話しかけたら、「……は?」って顔されそうだな。

でも、打ち手としてのスペックはかなり高そうだ。

彼女にビンタを貰えたら……。

そんなことを考えながら作業開始。バイトはホワイトボードの前に集められ、ピッキングの担当区域を作業主任が振り分ける。

「××××さん」と、作業主任は、私の名を呼んだ。

『『はい』』

ん?

同時に返事?

後ろを振り返ると、そこには先程休憩室で気になったアイシャドウ美人が立っていた。

「ごめんごめん、二人とも同じ苗字だったね。じゃあ、すらいむさんはA~Cの区域に行ってもらって、マロンさんはD~Fに行ってください」

マロン? マジか、そんな偶然が……。

私は驚愕した。なんとアイシャドウ美人は、私の親戚と同姓同名だったのだ。

作業主任から指示を受けた私とマロンさんは、指定された区域へと向かった。その途中、マロンさんが「同じ苗字だったんですね」と話しかけてきた。
派手な見た目とは相反して優しい口調である。

「苗字どころか、僕の親戚と同姓同名ですよ」

マロンさんにそう返すと、
「すご……なんか運命感じちゃった」
と、笑顔を見せた。

運命──

彼女の言葉が現実になるなんて、この頃の私はまだ知るよしもなかった。

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