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マロン日記#5【サブスクビンタ】

翌週──

マロンさんにビンタを貰ってから、ずっと彼女のことが頭から離れない。

アパレル倉庫に到着した私は、正門のロックを開けてもらうためにインターホンを押した。

今日もマロンさんはバイトに来るのだろうか?

先週はビンタを貰うことで精一杯だったため、彼女が単発なのか短期なのか、一番重要な事を聞き忘れた──

モヤモヤしながら開門を待っていると、後ろから気配が。

「あ、変な人だ」


振り返るとそこにはマロンさんの姿があった。

「お……おはようございます」

来た! 来た来た来た!

マロンさんが現れた瞬間、私は歓喜にうち震えた。

「おはよ」

「変な人って……」

まぁ、言わずもがな変人ですけれどね。

「アレ、売れた?」

と、マロンさんは小さくビンタするジェスチャーをしてみせた。

そのジェスチャーですら魅力的。朝からゴチです!

「一応売れました」

勿論嘘である。

PI○TAで売るという名目で、ビンタコレクションしているだけなのだから。

仮にそれがバレたらもうBCはないだろう。なので、売れたという証拠となる『アイテム』は、しっかり用意してあるのだ。

私とマロンさんはロッカーに荷物を置き休憩室へ。 

一番奥の席へ向かい合わせで座り、私はテーブルにブラックコーヒーを二つ置いた。

「どうぞ」

「え? いいんですか?」

「勿論、この前の動画五百円で売れたので」

「あ~、じゃあ遠慮なく」

──そう。もしもマロンさんが来た場合、次のBCへ繋げるための『報酬』を私は用意していたのだ。

こづかいの無い私だったが、実は裏金と呼ぶ『へそくり』を密かに貯めていた。

その裏金を一体どうやって手に入れたのか? という声も上がりそうなので、説明しよう。

本業にて、改善提案書なるものを出し、それが採用されるとギフト券やクオカード等の景品が貰えるのだ。

私は提案書を必死になって出しまくり、数十件の改善案を通過させてきた。 

ゲットした景品は金券ショップで換金、その額は8万円ほどになった。 

本来、この裏金はいつか聖域へ行くために貯めていたのだが、何せ私は無休のハードワーカー。あぶく銭はあれど、使う暇が無い。

試行錯誤の末、この裏金はマロンさんからビンタを貰うための軍資金として使おうと決めたのだ。

午前の作業をこなして昼休憩、私はマロンさんと一緒にランチタイムを過ごし、幾つか有益な情報をゲットすることに成功した。

・家庭の事情によるストレス蓄積。

旦那さんが体の弱い事を理由に会社を頻繁に休み、自宅でゲーム三昧。
その事でストレスが溜まるという(お疲れ様です)。

・昼飯or飲料の節約

無休のハードワーカーゆえに昼飯はおにぎり一つ、飲料は水か沸かしたお茶(私も同じなので、これにはとても共感した)。

・三ヶ月の短期バイト契約であること 

一番、有益な情報(大歓喜)。

と、これは大いなる目的を達成するための布石が打てる。

夕方──

本日もコンビニまで送ってくれたマロンさん。これは先週、私に張ったビンタでストレスが少し解消されたのか、それとも──

「あの、マロンさん」

「なに?」

私は、練りに練ったプランをマロンさんに提案した。

【プラン内容】

・三ヶ月の契約期間中、作業終了後にビンタをしてほしい。

・報酬はお昼ご飯&飲料。

・PI〇TAで売れた分の半分を報酬として渡す。


私の提案に対してマロンさんは暫し黙考── 

「……まぁ、別にいいけど。お昼浮くし、おこづかい貰えるし、ストレス発散出来るし」 

よっしゃあ!

私は、期間中ビンタ受け放題の『サブスクビンタ』をマロンさんと契約した。

続く。

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