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<地政学>難攻不落?要塞国家アフガニスタンの強みと弱み

 世界の歴史や国際情勢に詳しい人の中には知られている、ある難攻不落の国家がある。それはユーラシア大陸の中央部に位置する内陸国家のアフガニスタンだ。アフガニスタンは脅威の歴史を誇る。日本やタイと並んでアジアで植民地化された無かった国家だが、それだけではない。アフガニスタンは自国に軍事侵攻をしてきたイギリス・ソ連・アメリカを実際に打ち破っているのだ。超大国の墓場とも言われる、アフガニスタン。今回はその地政学的な強みと弱みについて見ていきたいと思う。

アフガニスタンの歴史

 アフガニスタンはユーラシアのへそとも言える国だ。ユーラシアの中央部に位置し、ある意味で最も沿岸国から遠い位置にある。山岳によって交通が難しく、大帝国による開発を受けたこともないからだ。一般的に言われる貧しい内陸国の特徴が最も色濃く出ている国といえる。

 アフガニスタンの国土は急峻な山に囲まれており、それなりに風光明媚である。こうした地域の民族は勇猛果敢な山岳民族が多い。コーカサスやバルカン半島の民族に合い通じるものがある。

 アフガニスタンは中央アジア・イラン・パキスタンに隣接しており、どの地域とも共有する特徴を持っている。インド亜大陸と中東と旧ソ連の境界地帯である。公用語はペルシャ語の変種であるダリー語だ。最大民族のパシュトゥーン人はパキスタンともまたがる民族で、両国は多くの民族や部族を共有しており、歴史的に関係が深い。アフガニスタンの残り半分はタジク人やウズベク人といった中央アジア系の民族だ。

アフガニスタンの歴史

 アフガニスタンは内陸ユーラシアと沿岸部の文明地帯の境界に位置する国だ。古来からこの地は文明の十字路となってきた。ただし、色々な文明圏が交錯するからといって、豊かというわけではない。むしろアフガニスタンはどの文明圏から見ても辺境とも言える。この地には遊牧民が住んでおり、長年文明からは遠ざかってきた。

 インド亜大陸にとってのアフガニスタンは中国にとってのモンゴルのような存在だった。アフガニスタン方面に陣取った遊牧民(多くはトルコ系)は幾度となくインドを征服してきた。デリー・スルタン朝やムガル帝国もそうだ。インドの安寧を揺るがす存在はいつでもアフガニスタンだった。マラータ王国が全盛期を迎えた時もまたアフガニスタンとの戦争に敗北して頓挫している。

 アフガニスタンが脚光を浴びるのは19世紀の半ばだ。当時のユーラシアではイギリスとロシアの間でグレート・ゲームと呼ばれる勢力抗争が起こっていた。ロシアは軍事力で中央アジアを征服し、イギリスは同様にパキスタンを征服していたので、アフガニスタンは両国の緩衝地帯となっていた。

 イギリスはアフガニスタンを支配下に置こうとしたが、結果としては失敗した。第一次アフガン戦争ではイギリスの駐屯部隊が襲撃され、1万6000人がたった1人の医師を除いて全滅した。第二次アフガン戦争ではなんとかイギリスはこの国を保護国にすることに成功したが、第三次アフガン戦争でイギリスは駆逐され、アフガニスタンは完全な独立国になった。

 その後は不安定な時期を経て王政が続くが、1973年のクーデターでアフガニスタンは地獄に落ちる。王政を追放して大統領になったダーウードは1978年にクーデターで殺害され、共産党政権が生まれる。しかし、この共産党政権でもクーデターで大統領が暗殺され、アフガニスタンは内戦に突入してしまう。1979年に今度はソ連が自体を収集するために首相を暗殺して直接支配下に置こうとするが、ますます反政府運動が盛り上がり、泥沼のソ連・アフガン戦争が始まる。ゲリラ戦の末、最終的にアフガニスタンはソ連軍に勝利した。

 アフガニスタンはソ連軍を駆逐した後は無政府状態になる。1989年から1992年までは共産党と反政府ゲリラとの内戦が続いた。1992年から1996年まではゲリラ同士の生産な争いが起こった。1996年から2001年まではタリバンが国土の主要部を支配し、残るゲリラ組織の北部同盟と内戦を戦っていた。

 その後の戦争はよく知られている。タリバン政権は国際テロ組織のアルカイダを匿い、アメリカから敵視されるようになった。アフガニスタンを基地にしてアルカイダは9月11日のテロを実行した。他にもタリバンは女性差別問題や大仏爆破問題で世界中から嫌悪されており、タリバン殲滅に反対するする人は少なかった。アメリカはアフガニスタンに侵攻して新政府を打ち立てたのだが、これまたうまく行かなかった。2021年にアメリカ軍は撤退し、カブールは陥落、再びタリバンが政権を奪還した。

アフガニスタンは強いのか?

 さて、イギリス・ソ連・アメリカの3つの世界最強国を打ち破ったアフガニスタンは世界の歴史の中でも異彩を放っている。ベトナムをも越えているのではないかという勢いだ。アフガニスタンは最強国家なのだろうか?

 ここで重視すべきはむしろ戦いの種類である。ひとえに強さといっても、正規戦とゲリラ戦では違うし、攻撃戦と防御戦でも全く異なる。この峻別が大事である。

 豊かな国は総じて正規戦・攻撃戦が強い傾向にある。正規戦では大量の飛行機や戦車が必要であるため、工業大国でないと話にならない。もちろん新兵器を開発する技術力や、それらを輸送するインフラも重要だ。アメリカのような先進国は自国から遠く離れたところでハイテク戦争を戦っている。19世紀においてもヨーロッパの国は世界中に船で出向いて植民地を建設していた。

 一方で貧しい国は防御戦・ゲリラ戦が強い傾向にある。典型例は中国やロシアだ。これらの国は技術的に遅れており、国力に比して正規戦に弱い。日清戦争や日露戦争を考えてみれば良い。高度に機械化された近代戦を戦うには人海戦術では難しい。しかし、防衛戦となると人海戦術は結構有用であるようだ。貧しい国は絶対的な人口が多いし、地勢を知り尽くしているため、先進国の優位を相殺できる。人命に鈍いことも強みになる。

 アフガニスタンはこうした傾向がかなり極端に出ている。アフガニスタンはユーラシア最貧国であり、正規軍は大したことがない。アフガニスタンの軍がイランや中央アジアに進出して大暴れなんてことは不可能だ。しかし、ゲリラ戦に関しては異次元の強みである。アメリカはあれほどの資源を投入しながら、アフガニスタンを征服できなかった。タリバンはただアフガニスタンの建国を妨害すれば良かったので、簡単なことだった。

 また、アフガニスタン自身が経済資源に欠いていることも征服を難しくしている。アフガニスタンにはいちいち物資を持ち込む必要があるし、征服しても得になる資源は何もない。こうなると征服のコストは大きく、リターンは小さくなる。

 しばしばアフガニスタンはポーランドのような大国の緩衝国として悲惨な運命を辿ったかのように言われる。これは確かに間違いではないが、アフガニスタンの本質からはズレている。アフガニスタンは地域の中央に位置するのではなく、どの地域からも端っこに位置している。したがって思いの外に重要度は低い。だからどの国もアフガニスタンを征服しなかった。現在のアフガニスタンはタリバン政権が樹立されているが、イランにせよ、ロシアにせよ、本当にどうでも良さそうだ。どの勢力も入れない山岳地帯のようなものだろう。

アフガニスタンの弱み

 筆者はアフガニスタンが地政学的に恵まれているとは思わない。むしろデメリットの方が目立つ。それは山岳国という形態に付随するものだ。山岳国は外敵の侵入を難しくするが、同時に交易も難しくする。軍事的には難攻不落な要塞だが、経済面では後進地域になってしまう。これは島国とは異なる。島国は軍事的にも経済的にも大変有利な位置にあるからだ。

 アフガニスタンはユーラシア大陸の国では最も貧しい。アフガニスタンに匹敵する貧困国はアフリカの内陸国とハイチくらいだ。後は内戦中のイエメンだろうか。アフガニスタンは昔からユーラシアの最貧地域であり、今後もそれが改善される見込みはない。

 ただでさえ内陸の山岳地帯であるアフガニスタンは、大国の支配下に入ったことがないが故に遅れを取ることになった。確かに独立を貫くことは民族の誇りからすると素晴らしいのかもしれないが、開発面ではマイナスである。北方のタジキスタンやウズベキスタンは民族的にアフガニスタンと近いが、経済水準は大きく異なっている。これらの国はソ連支配下で大規模な開発がなされているからだ。中央アジアは地理的理由でロシアさまさまであることを分かっているので、反露運動は下火である。同様にペルシャやインドの文明圏からもアフガニスタンは孤立している。経済面に着目すると、アフガニスタンは浮いてしまったのだ。

 というわけで、アフガニスタンはユーラシアで最も「内陸」の国だ。他の内陸地域、例えばチベットとか中央アジアとかは全て帝国の手によって開発がされている。独立国モンゴルにしてもソ連の強い影響下にあった。アフガニスタンもソ連に接近していた時期があったが、戦争によって無駄になってしまった。アフガニスタンはユーラシアの不毛の地としてこれからも貧しくあり続けるだろう。

まとめ

 アフガニスタンは伝統的にユーラシア大陸の中でも貧しい後進地域であり、近代化には完全に取り残されている。アフガニスタンは地形と文化の影響で侵略者に大して難攻不落の要塞になっており、征服は難しい。これはアフガニスタンに征服するだけの価値が無いことも影響している。

 アフガニスタンが今後も侵略される恐れは低い。中央アジア諸国はタリバンを敵視しているが、自国に入ってこなければそれで良いと考えている。中央アジア諸国はアフガニスタンよりも遥かに先進的なので、中央アジアの若者がタリバンに触発される恐れは低い。北のロシアはアフガニスタンに関与する意志も能力もない。ロシアは中央アジアが安定していれば問題がないし、この国が優先すべき地域は他にたくさんある。アメリカやその他の西側諸国は二度とアフガニスタンに関わりたくないと思っているはずだ。その証拠にカブール陥落以降、アフガニスタンはほとんど西側メディアで関心に登らない。イランは伝統的にアフガニスタンへの関心が低く、貧しい後進地帯としか思っていない。

 アフガニスタンに強い影響を及ぼす国が2つある。それはパキスタンと中国だ。今後米中冷戦が始まるとすれば、両国が同盟関係に向かうことは容易に想像がつく。タリバンはパキスタンへの依存度が高く、中国とパキスタンの勢力下に入るだろう。

 ただ、そのことによって西側が何かダメージを受ける訳では無い。どのみちこの地域には西側のパワーは及ばない。だから、放っておいても何も問題はないだろう。おそらく今後のアフガニスタンは数十年にわたってイスラム原理主義のやばい国と国際社会から思われながらも、自主路線を辿るものと思われる。

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