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イスラエルはもはや西側の国といえるのだろうか?

 筆者は戦争ウォッチングが趣味なのだが、またまた興味深いニュースが飛び込んできた。

 ついにガザでの軍事行動を続けているネタニヤフ首相に逮捕状が請求されるらしい。容疑はおそらく人道に対する罪である。イスラエルはついに「ならずもの国家」の道へ足を踏み入れているらしい。ここまで来ると、もはやイスラエルが西側の国といえるのかは怪しくなってくるだろう。

 世界帝国たるアメリカだが、その力の源泉は大量の同盟国だ。アメリカは同盟国に安全保障と自由市場を与えることによって自分の味方に付け、世界に君臨している。

 ところで、その同盟国にはランク付けがある。公には公表されていないが、誰が見ても明らかなランク付けだ。大きく分けて以下のような状態になっている。

Aランク上位 イギリス・カナダ・オーストラリア・NZなど
Aランク下位 日本・韓国・ドイツ・フランス・東欧諸国など
Bランク サウジアラビア・エジプト・タイ・フィリピンなど
Cランク ウクライナ・インド・ベトナムなど

 Aランク上位はいわゆる「特別な関係」と言われるものだ。アメリカとは不可分の関係にあり、対立などは考えられない。これらの国は安全保障上、アメリカ本国とセットで扱われる。ファイブ・アイズの国だ。Aランク下位はアメリカと密接な関係にあるが、Aランク上位ほどの積極的な参加はしていない国である。
 
 Aランク上位とAランク下位の国の間にはあまり壁がない。どちらも西側諸国の「正会員」である。日本も望めばAランク上位に入ることは可能なはずだ。ところがAランクとBランクの国の間には大きな断絶がある。

 Aランクの国はアメリカと同じ政治体制を持ち、利害だけではなく価値観も共有している。アメリカがAランクの国を守ることは地政学的目的のみならず、自らの政治体制の正しさを守る道徳的責務でもある。同じ自由民主主義を奉じる先進国である。こうした信頼を反映し、NATOや日米安保のような強力な同盟を結んでいることが多い。

 ところがBランクの国はそうではない。アメリカと地政学的同盟関係にはあるが、両者の国としてのあり方は大きく異なっている。Aランクの国は基本的に先進国クラブなので、発展途上国は基本的にBランクに押しやられるだろう。タイのように(クーデターが頻発していることを除けば)お行儀の良い国もあるが、アメリカにとって嫌悪感を伴う政治体制の国も少なくない。イスラム原理主義の独裁体制を取るサウジアラビアが典型例だ。過去に遡ると南ベトナムや李承晩時代の韓国もそうだった。アメリカはこれらの国と正式な同盟関係を結んでいたり、軍を派遣したりしているが、真の意味で同胞とはなり得ないのだ。アメリカが日本やフランスを自国と同列の基準で扱っても大きな問題にはならないが、フィリピンやエジプトの場合は明らかに問題が発生するはずである。

 Cランクの国は一時的に手を組んでいる国である。Cランクの国は同盟国というよりも協力国と言った方が良いかもしれない。現代ではインドが典型例だろう。アメリカとインドは中国に大して協力することを合意しているが、正式な同盟を組む気は毛頭ない。過去に遡ると冷戦後半期の中国や第二次世界大戦中のソ連が挙げられる。これらの同盟が仮初のものであることはみんな分かっていたし、必要がなくなれば直ちに関係は解消された。アメリカと公式の同盟関係には無いため、アメリカがこれらの国を裏切っても約束を破ったことにはならないし、その程度の関係ということだ。

 中間的な国もある。例えばトルコが挙げられる。トルコは当初からNATOに加盟しており、アメリカの極めて協力な戦略的同盟国だった。しかし、Aランクの国かは微妙である。トルコはまだまだ発展途上国だし、西側の基準としては問題がある国内問題(クルド人など)を持つ。その上最近はエルドアンの下で権威主義的傾向が強くなっている。トルコはAランクとBランクの中間の国だろう。

 BランクとCランクの中間はウクライナだろう。西側はウクライナに莫大な支援をしているし、ロシアとの抗争の重要なコマとみなしている。しかし、西側は今のところウクライナを同盟国として引き入れる気はない。気まぐれで兵器を送っているだけだ。NATOはもちろん、EUへの加盟は絵に描いた餅だ。ウクライナの経済状況や政治体制を考えると、到底Aランクの国とは言えない。せいぜいBランク止まりだろうと思う。

 さて、イスラエルはどうか。今まではイスラエルはAランク上位の国だった。アメリカは1967年の第三次中東戦争以降、イスラエルを中東での頼みの綱としている。イスラエルもアメリカに献身的に協力し、両国は極めて親密な関係にあった。政治的な事情でイスラエルとは安全保障条約を結んでいないが、アメリカにとって日本やイギリスと同列で大切な国であることは間違いない。

 ところが、イスラエルはAランクの国でいられるのかは怪しくなっている。イスラエルの政治状況が西側先進国の基準でかなり怪しくなっているからだ。現在のイスラエルはパレスチナ人への差別と弾圧を繰り返すアパルトヘイト国家なのではないかという意見が出始めている。イスラエルの人権状況は中東の中ではマシかもしれないが、西側先進国の中では最悪であることは間違いない。特に最近のイスラエルがパレスチナ国家の樹立を拒否していることも影響している。パレスチナ国家が永久に許可されないのなら、パレスチナ自治区はどういう立場になるのか?イスラエルの領土内の「ゲットー」ということになるのではないか?こうした批判は免れないだろう。

 ガザ地区での大量殺戮も合わせると、イスラエルは南アフリカのような扱いになっていく可能性がある。アメリカとの同盟関係が崩れる恐れはまったくないが、政治体制に関して嫌悪感を持たれる国である。要するにBランク落ちするということだ。南アフリカは冷戦体制下でアメリカの同盟国として扱われたが、西側からは常に問題視されていたし、冷戦が終結するやいなや、西側はアパルトヘイト体制の存続を許容しなかった。

 アメリカの中東政策の問題点は現地に信頼できるパートナーを欠いていることだ。サウジアラビアやエジプト、更にはかつての帝政イランはアメリカと強力な友好関係にあったが、真の意味で価値観を共にしていたわけではない。これらの国の弾圧政策は西側の基準では許されないものだ。ネオコンの考える邪悪な政治体制そのものである。トルコは比較的マシだったが、それでも西側とはまだまだギャップがあることは間違いない。イスラエルもこのままではリスト入りすることは間違いない。アメリカにとってもはやイスラエルは守るべき道徳的価値のある国とはみなされなくなってくるかもしれない。

 それにしてもイスラエルの好戦性はどこから来るのだろうか。南ベトナムや李承晩の韓国は貧しく後進的ということで説明が終わってしまうが、イスラエルはれっきとした先進国だ。おそらく、イスラエルの世界最悪とも言える地政学的状況がそうさせているのだろう。現在のイスラエルはアラブ諸国に大して圧倒的な優位に立っているが、地政学的脆弱性は解消されないままだ。過去に似たような立ち位置にあったのは大変皮肉なことだがドイツである。地政学的な脆弱性が原因で残虐性を強めていったドイツはホロコーストで歴史的な残虐行為に手を染めた。孟子は「恒産なくして恒心なし」と言ったが、地政学的な安定を欠いている国は余裕の無さから時に暴力的になりがちである。

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