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<地政学>世界最悪?韓国の地政学について語る

 前回はアナトリア半島に位置するトルコの地政学について語った。今回は半島繋がりでお隣の国・韓国について書いてみようと思う。

 トルコと韓国は経済規模も似ているし、どちらも半島国家だ。それにもかかわらず、韓国の地政学的立場は恵まれているとは言えない。むしろ世界の中でもかなり悪い方だろう。朝鮮半島については何度か記事でも触れてきているが、今回は韓国の地政学的条件に絞って解説したいと思う。

踏んだり蹴ったり朝鮮半島

 トルコの場合は周辺に強力な国が無く、自然の障壁によって隔離されているため、ユーラシア大陸の中心部に面していながら島国のように振る舞うという特権を享受してきた。しかし、韓国は半島国家という特徴が悪い方向に出てしまっている。

 朝鮮半島は日本と中国という自国よりも遥かに巨大な大国に挟まれている。しかも両国との間に緩衝地帯はほとんど存在しない。となると、朝鮮半島の地政学的立場はポーランドのようになってしまう。これは東アジアのシンプルな地理的構造も原因だ。日本と中国はそれなりに安定してまとまっている国であり、両国の抗争の場となる箇所は朝鮮半島くらいしか存在しない。見方によってはポーランドよりも悪いかもしれない。ポーランドは平地が続いているので良くも悪くも国境が変化しうる。冷戦時代のようにドイツが分裂したり、現在のようにロシアが後退するようなシチュエーションもあり得る。ところが朝鮮半島周辺の地政学的構造はは動かしようがないため、東アジアで争いの場となるのは朝鮮半島と決まってしまうのだ。

 例えるならば、欧州や中東は多種多様な箇所で争いが起こるのに対し、東アジアは一点に圧力が集中するような構造になっている。これが朝鮮半島の不運の原因である。朝鮮半島は陸から中国に攻められ、海からは日本に攻められるという大変不利な地理になっているのである。

中規模国の悲劇

 朝鮮半島に関する地政学的関係の悪さは国の規模も関係している。筆者は度々地政学的記事で国のサイズと生き残りの容易さは異なってくるということを述べた。小国は確かに弱いかもしれないが、一方で大国に敵視されるリスクも少ない。小国は小国なりの生き残り方があり、うまくやった場合は都合の良いポジションを手に入れることができる。

 小国の生き残り手段は大国に恭順することだ。争点は「大国に恭順するか」ではなく、「どこの大国に恭順するか」である。中規模国との大きな違いはここだ。第二次世界大戦を見ても、チェコやハンガリーはすぐにドイツに恭順した。バルト三国はソ連に対する反感が強かったが、これはソ連よりもドイツの方が親近感が湧いたからだ。その証拠として独ソ開戦後にバルト三国の住民は積極的にドイツに強力している。しかし、中規模国のポーランドは自主独立にこだわったため、悲惨な運命を辿ることになった。

 韓国も同じだ。小国は大国に恭順してその一部として振る舞うことで地政学的な安全を得ることができる。しかし、韓国はこれを行うにはいささか大きすぎるので、プライドの観点からこれを良しとしないだろう。これは台湾と比較すれば分かる。台湾は小さすぎて自国だけでやっていけないことが分かっているので、日本やアメリカの手を借りるのに抵抗がない。日本統治時代に関しても台湾は韓国ほど怒っていないようだ。これは自主独立のプライドの有無が大きいのではないかと思う。

 韓国人はプライドが高い。民族主義的傾向が強いとも言われる。これは地政学的条件と無関係ではないと思われる。台湾にとって大国の傘下に入るのは当たり前だが、韓国にとってはプライドが傷つく出来事だったのだ。だから韓国人の歴史観は自主独立への傾倒が見え隠れする。長年中国の冊封体制下にあったが、これを快く思っているわけではなく、民族の独立を見出そうという動きが存在する。日本統治時代に関しては言うまでもない。

 大国なら自力で生存できるし、小国は躊躇なく大国に恭順すれば良い。しかし、中規模国の場合は中途半端になってしまい、悲劇的な運命を辿ることがある。韓国もそうした要素を多分に持っているだろう。

朝鮮半島の歴史

 地政学的実体としての韓国が生まれたのは1945年であり、それ以前の朝鮮半島の歴史とは地政学的な性質は異なるだろう。ただ、歴史的実体としての朝鮮半島を考察するために、軽く触れておきたい。

 朝鮮半島に対する脅威は3つの方面からやってきた。一つは西方の中国であり、もう一つは東方の日本だ。やや変則的だが、これに北方の満州方面が加わる。

 朝鮮半島は大国として振る舞うことはできなかったが、中国に飲み込まれるほど弱くはなかった。中国は何度か朝鮮半島を攻撃しているが、完全に制圧できたことは少ない。隋は高句麗遠征で敗北しているし、唐も新羅を直接支配できたわけではない。これは朝鮮半島と中国の間に海があり、陸では細いところでしか繋がっていなかったのも原因である。当時満州はまだ中国領ではなかった。したがって朝鮮半島はそれなりの自律性を保つことができた。

 朝鮮半島は日本からも攻撃を受けている。古代の日本は三韓征伐として朝鮮半島に進出していたらしい。中世になると倭寇の襲撃に苦しめられた。近世初期にも秀吉の朝鮮出兵があった。この戦争は大河ドラマで触れられることは決して無いが、近世の東アジアの戦争としては大規模で、日本軍と明軍の間で激しい戦争が繰り広げられている。

 モンゴル帝国と清朝は朝鮮半島を攻略しているが、これは北方の系譜にいれるべきかもしれない。近代以前の北方民族は本当に強かったのだ。

 近代になると日本は急速に工業化を進め、東アジアに名だたる大国になった。朝鮮王国は自らの身を守るためにロシアに接近したが、日露戦争の結果万事休すになった。朝鮮王国は戦わずして日本に併合され、植民地支配を受けることになった。

南北分断

 1945年、大日本帝国は降伏し、東アジアは東西両陣営によって分割される。大日本帝国の領域のうち、日本本土・台湾・韓国はアメリカが取り、満州・北朝鮮はソ連が取ることになった。この時、朝鮮半島は分断された。この分断は見方によっては大陸と海洋という東アジアの分裂を象徴する存在になった。

東西対立の西側の境界は鉄のカーテンと呼ばれる。東アジアの場合は鉄のカーテンよりも遥かに領域が狭いため、分断も遥かに激しかった。38度線は世界で最も緊迫した国境線であり、経済格差も世界一大きい。資本主義と共産主義、自由主義と権威主義、海洋国家と大陸国家がここまで暴力的に隣接する地域は他に存在しないだろう。韓国と北朝鮮は同じ人種と言語を共有すること以外は対極といっても良い。

 東アジアは分裂しており、大陸側と海洋側は朝鮮半島の狭い領域で接するだけだ。それゆえ朝鮮半島にかかる圧力はものすごいものになる。韓国は世界一成功した資本主義国だが、北朝鮮は世界一失敗した共産主義国だ。なんとも対照的な半島である。朝鮮半島の地政学的性質がこれほど悪い形で発揮された例はない。相争う両陣営の間で引き裂かれるというシチュエーションはポーランド並みに運が悪いだろう。

 朝鮮半島は日本・中国・ロシア・アメリカの4つの大国の争うバトルアリーナである。これは国家の陥る地政学的状況としてワーストケースだ。現在ではウクライナとシリアが該当する。地域大国に囲まれ、地域の中央に位置する国の宿命と言っても良い。

韓国の地政学

 さて、ここで論じるのは大韓民国の地政学だった。韓国の地政学は世界でもあまり恵まれていない方だろう。

 まず、韓国は自国を上回るパワーを持つ日本と中国に完全に挟まれており、勢力拡大の余地が無い。韓国の国力はそれなりに大きいが、それを活かす場所が存在しない。したがって、韓国が何らかの大国として名乗りを挙げることは無いだろう。

 また、朝鮮半島は緊張が緩和しているとはいえ、バトルアリーナであることには変わりないので韓国は常に北の脅威に晒されている。日本の緩衝地帯として韓国は共産圏に立ち向かう運命を与えられており、韓国の若者は兵役に行かざるを得ない。

 韓国の大きさは中途半端だ。そのため、自主独立の願望が強い。台湾や香港とはわけが違う。韓国は常に日本に歴史問題を仕掛けているし、アメリカに対してもそこまで快く思っている訳では無い。韓国は定期的にバランス外交と称して中国や北朝鮮に接近し、その度に失敗している。韓国は小国ではないので、大国一辺倒になることができないのだ。

 とはいえ、韓国は北朝鮮よりはマシだ。一つは自主独立に北朝鮮ほど強くこだわらなかったことだ。北朝鮮は中国やソ連を天秤にかけ、複雑な地政学ゲームを戦ってきた。見事な手腕かもしれないが、国家の繁栄にとっては大きなマイナスとなった。もし北朝鮮が素直に中国の衛星国になっていれば、改革開放で今よりも遥かに豊かになっていただろう。しかし、北朝鮮はプライドの問題から独自路線に向かい、経済破綻と国際的孤立へ向かった。これに比べると韓国は米軍駐留を受け入れているので北朝鮮ほど軍備に力をいれる必要がない。韓国・アメリカ・日本の連携は北朝鮮・中国・ロシアの連携よりも遥かに親密であり、お陰で韓国の負担は減らすことができた。

 同じく重要なのが経済力だ。韓国は世界一成功した資本主義国であり、繁栄を謳歌している。韓国の国力は北朝鮮の40倍であり、通常戦争になればまず負けることはない。ただし、核兵器は厄介な存在である。核兵器のせいで韓国は北朝鮮に軍事侵攻して無条件降伏に追い込むという選択肢が取れない。1990年代に米韓が北朝鮮に侵攻しなかったのは大きなミスかもしれない。ただ、そうなれば中国が激怒しただろうから、やはりバトルアリーナとしての朝鮮半島の性質が核問題を産んだと言えるだろう。なお、韓国はアメリカの親密な同盟国なので、韓国の核保有の意義を論じる必要は乏しい。

 核問題は厄介だが、北朝鮮の存在には一つだけメリットもある。それは韓国と中国の緩衝国となりうるのである。北朝鮮が大人しくなれば韓国は中国との間に軍事緊張を抱える危険性が無いので、米中対立の矢面に立つ必要が無くなるだろう。ただ北朝鮮は大人しく緩衝国になってくれる国ではないことに注意だ。

今後の地政学的展開

 朝鮮半島は不安定であり、今後も地政学的紛争が続くことは間違いない。今後の韓国が抱えうる問題について考えてみよう。

 まず韓国にとって問題になるのは世界最悪の少子化だ。韓国の特殊合計出生率は0.7であり、一世代ごとに人口が三分の一になっていく。韓国の一学年は北朝鮮よりも少なくなっている。これが韓国の国力にどのような影響を与えるかは未知数だ。

 それ以上に問題になるのは北朝鮮の崩壊である。北朝鮮がどのような展開を辿るにせよ、地政学的に重要な争点になることは間違いない。韓国がどのように北に進出するのかは全く予想がつかないだろう。北朝鮮を巡って中国と韓国の間で争奪戦が発生することは目に見えている。

 韓国が勢力を拡大できるとしたら、中国が崩壊して戦国時代になるという状況しか思いつかない。ただ、このシナリオの実現性は高くないし、歴史的に中国大陸に韓国が進出したことはない。

まとめ

 朝鮮半島は東アジアの中央に位置する半島国家であり、日本・中国・ロシア・アメリカの4つの大国のバトルアリーナとなっている。したがって朝鮮半島は苦難の歴史を辿ってきた。

 韓国史には興味深い特徴がある。「黄金期」がこれと言って存在しないのだ。エジプトであれば古代が該当するし、フランスであればナポレオン時代、イギリスであればヴィクトリア朝など色々思いつくだろう。しかし、韓国には本当になさそうだ。戦後の韓国は驚異的な経済成長を見せているが、南北分断の現状を考えると黄金期とは言い難い。では高麗や李氏朝鮮が黄金期かというと、そこまでではないだろう。韓国は一度も帝国を築いたことがなく、大国に支配されないだけで精一杯なのだ。

 朝鮮半島の国が地域大国になったことはない。東アジアの地理的関係はかなり固定化されているからだ。朝鮮半島はポーランドのような帝国を持ったこともない。かといってウクライナのように国家の存在が曖昧というわけでもない。「勝利」とは大国を手球にとって自主独立のプライドを守ることを意味した。失敗すれば大国への隷属を余儀なくされるか、戦場となってしまう。

 それでも韓国は朝鮮半島の宿命から少しは逃れられたと言えるだろう。韓国は日本やアメリカとの関係をそれなりに緊密に保ったため、軍事的・経済的なメリットを享受することができた。韓国は中国やロシアの脅威に直接晒されることがなく、それなりに安全になっている。それでも北朝鮮は厄介な問題であり続けるだろう。

 韓国の劣等感にまみれた歴史は、中途半端な規模感、大国に挟まれた位置、固定化された地理的関係、の3つで説明がついてしまう。大国の呪縛から逃れるほど強くはないが、大国への依存を心地よく感じるほど弱くはない。しかもその状況が長年変わらないのだ。これではプライドが高くなるのも当然だろう。なんとも不運な境遇の国である。

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