韓国近現代美術を代表する画家・張旭鎭~「最も真剣な告白」at 国立現代美術館①~
徳寿宮(덕수궁)に来たのは、なにも雪景色を楽しもうと思ったからではありません。無論、静寂のなかで雅趣に富む宮殿を散策できたのは、貴重な時間でした。
真の目的、それは、国立現代美術館(국립현대미술관 덕수궁)です。
2023年9月14日~2024年2月12日まで国立現代美術館(MMCA; National Museum of Modern and Contemporary Art, Korea)の徳寿宮館(※)では、「最も真剣な告白:張旭鎭 回顧展(가장 진지한 고백: 장욱진 회고전)」を開催しています。
そこで今回から数回に渡り、本特別展と画家・張旭鎭について綴りたいと思います。
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張旭鎭(장욱진/チャン・ウクジン)
張旭鎭(장욱진/チャン・ウクジン、1917~1990)は韓国の近現代美術を代表する画家です。
金煥基(김환기)、朴壽根(박수근)、李仲燮(이중섭)、および劉永國(유영국)と並んで5本の指に入る西洋画家の第2世代であり、モダニスト第1世代でもあります。
張旭鎭は、日本統治時代の1918年1月18日(陰暦1917年11月26日)に、忠清南道燕岐郡で生まれました。幼い頃から絵の才能に恵まれ、高校時代には第2回全朝鮮学生美術展覧会(전조선학생미술전람회)で《お手玉遊び(공기놀이)》が最高賞を受賞しました。
1939年には、武蔵野美術大学の前身である帝国美術学校に進学。1943年に卒業します。
その後、1954年からはソウル大学校美術大学の教授を務めますが、画家活動に注力するため、1960年に退職。それ以降は、徳沼(1963-1975)、明倫洞(1975-1979)、水安堡(1980-1985)、龍仁(1986-1990)などに居住しながら、数多くの作品を生み出しました。
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◆数、画題、サイズの特徴
張旭鎭は、分かっているだけでも730余点の油絵と約300点の墨絵のほか、マジックペン画や陶磁器の絵付けと、作品とジャンルの多様さで知られています。
画題は、韓国人にとって身近な木、鳥(特にカササギ)、太陽、月、家族などに限定されており、そのせいもあってか「童心に満ちた、子どもが描いたような絵(동심 가득한 어린아이 처럼 그리는 화가)」と表現されることが多いです。
それはつまり、宗教画や歴史画のような威風堂々とした絵画ではなく、至って日常的で、初見でもどこかで見たことがあるような(小学校のクラスの壁に飾られていたような)親近感を抱かせます。
親しみやすさは、大きさにも表れています。
当時談論風発したアンフォルメル、モノクローム(単色調の絵画)、民衆美術などの100号以上の作品と比べると、張旭鎭の作品は10号未満(※)。
それらは「女性好みの小ぶりな可愛らしい絵(여자들이 좋아하는 작고 예쁜 그림)」と見做され、万人受けする芸術ではなかったのも事実です。
◆至極単純であり、至極難解な作品
国立現代美術館の学術研究士であるベ・ウォンジョン(배원정)氏曰く、「張旭鎭の絵画は、極端だ(극단이다)」。
実際、張旭鎭の絵は分かりやすい単純な絵のようで、じっくり観察すると家がひっくり返っていたり、木の下に太陽と月が同時に浮かんでいたり、人が宙に浮かんでいたりと、決して容易な絵でないことが分かります。
それでも、張旭鎭はこう言います。
シンプルは、簡明とは異なるようです。
子どもが描いたような単純さと自由の奥には、張旭鎭ならではの深い真理が確かにあり、だからこそ、没後30年を過ぎた今でも、多くの人々を魅了しているのかもしれません。
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■■参考文献■■
ベ・ウォンジョン(배원정). 2023. 「장욱진, 그의 가장 진지한 고백을 보다 (Seeing Chang Ucchin's Most Honest Confession)」『가장 진지한 고백: 장욱진 (1917-1990) 회고전 (The Most Honest Confession: Chan Ucchin Retrospective)』. 国立現代美術館
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