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書く時間 筆とアオハル

「書く!」時間通りに、鳴った審判の笛と共に、競技はスタートした。

亀浜うさぎ、17歳。
書道部の晴れの舞台…全国書道大会に今年、彼女たちの高校は初めての出場を果たした。

大きな筆に、たっぷりの墨をつけ、彼女は一気に書き上げた。

袴をつけ、抱える様に大きな筆でパフォーマンスする。書道部の晴れの舞台だ。

思えば、15歳の春。
部活を決める時期。彼女は、どの部に入るか、まだ決めかねていた。

彼女は、理数クラス。
学年で1クラスだけある、一年時からの理系クラスだ。このクラスだけが学年で離れたすみにあった。

ある日の事。
「何してるんだ、身なり整えて?」
「ちょっと、3組に用事あるんだ」
「なるほどね、そりゃ、あの階に行けは女子いるからな。出会いもあるかもしれないしな」
「ちょっと男子!何よ、いつも、その発言。ここにもいるじゃん!」
「どこに?」
そう言って、男子は、いつも、その少数派の理系女子をからかっていた。

「ああ、うるさいなあ。ねえ、うさ、午後からクラスマッチじゃん。二年生のバスケ見に行かない?体育館でやってるんだって」
「いいよ」
そして、体育館。
「見て見て、あの人、書道部の高杉先輩。カッコいいよね。文系で書道部。そして文武両道でスポーツもいつも、ヒーローなんだって」
「そうなんだ」
うさぎが、何気に観てたその試合。
運命の試合終了間際。
高杉先輩の決めた決勝のゴールを観た瞬間、うさぎは、簡単に恋に落ちた。

「決めた!私、書道部入る!」
「え?一緒に帰宅部で塾行くって言ってたじゃん?」
今度は振り返って、柴山ひなに言った。彼女とは高校入ってから同じクラスになった。彼女らは、柴山の事を柴犬かってる柴山だからシバと呼んでいた。
「ねえ、シバも入ろうよ」
「ダメダメ、私、数学オリンピック目指して、忙しいのよ。何それ、今どき、字、書く事なんてあんまり無いのに書道しないわよ」
「年賀状とか。結婚式の招待で書く場面ありそうじゃん」
「わたし、LINEで済ますし、なんなら結婚式もしない。めんどくさくない?」
うさぎのクラスには、確かに、ガーデンウェディングに憧れるような女子はいなかった。
そして、一人で入部届けを出したうさぎ。
なんか、空気の違う世界に迷い込んだ気分…

それはともかく高杉先輩に会えるし、まあ、いっか。

一週間のテスト期間を終え、いよいよ、今日から本格的な部活動が始まる。
「じゃあね、わたし部活行ってくる」
「やっぱ、入ったんだ。じゃね」
彼女が部室に行くと、何やら、女子部員達がしゃべっていた。
しかし、気に留めずに、練習前のストレッチ。そして、ウェアに着替えて校庭のランニング。
なんで、書道なのに、この体育会系の練習。
まあ、元来、まじめなうさぎは、黙々と練習をこなして、書道の腕前もそれなりに上達していった。

そして、ゴールデンウィーク明けのある日だった。
いつもの様に部室に行くと、女子達が盛り上がっていた。
「やっぱり…そうよね。怪しいと思ってた…」 
「ずっと前から噂だったじゃん。まさか、大学行ったら結婚するんだって確定情報」
「噂は、知ってたけど、マジ、憧れてたんだけど…相手がさとみ先輩じゃあねえ」
「お似合いよね」
「え?誰と誰?」
うさぎが聞くと、その相手は、まさかの高杉先輩…
うさぎの恋は、ほぼ、1ヶ月で壊滅した。

そう、情報過疎地域の理系までは届かない情報だった…

しかし、うさぎは、自分の青春を書道にかけた。せっかく入った部活だもの。

そして、翌年。部長になったうさぎは、全国大会に。

「書く!」
笛と共に、見事な、書を書き上げた。
亀浜うさぎ17歳。
彼女の青春は、始まったばかりだ。

#シロクマ文芸部

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