つぶやき物語【淡想1~淡想10】のまとめ(冒頭に中書き①追記)

【淡想11】~は、5/13(月)スタート(o^-^)b ※物語の最初fからお読みの方は【中書き①】を、途中から読まれた方はまとめも併せて、ご一読頂けると大変嬉しいです。
【中書き①】
凝り性の私は、将棋の修行に打ち込んだ時と同様に、勉強もそっちのけで、ピアノの練習に明け暮れる日々。
もちろん家に存在していた事は知っていて、何度か触れた事も有りましたが、すぐに飽きていた様でした。
たぶん『マイ・ライフ』との出会いが鮮烈だったからだと思いますが、結局は弾こうとしなかったのですから、不思議なものですね。
そしてついに、幼少の頃から私を嫌っていた父から呼び出される事態になり、雷を落とされる覚悟で父の元へ向かうのでした。
【淡想11】へ続く。
~・~・~
【前書き】
将棋のプロ棋士になる夢を諦めるも、悔いが残る中で作った将棋部だった筈。
それなのに何故か、音楽に惹かれて行ったのは、TVの音楽番組が全盛だった時代背景のお陰だったのか、若さがなせる業だったのか……。
それまでは余り話す機会が無かった級友と急接近する事で、将棋一色の青春が違った色合いを帯びて来る。
そしてこれがキッカケで、男子校で灰色気味の風景に、華やかな光が差し込む未来の訪れを、この時の私はまだ知らずにいました。

淡想1【旋律の訪れは突然に】
毎週火曜と木曜は、私が部長を務める将棋部の活動日で、食堂2階に有る小部屋へ集まる。
昨年出来たばかりでも新入生が仲間入りし、鼻高々の私は当時アマ三段。
その日もすぐに対局を開始すると、駒音を掻き消す様に突然、激しい音の激流が壁の向こうから押し寄せた。

淡想2【本物が有する魔力】
対局を中断して部屋を飛び出すと、騒がしく鳴る場所へ到着。
壁際の黒い箱と戯れる男子が居て、確か軽音楽部の部長だったと思い出し、ここで弾く理由を尋ねた。
「古くてもグランドピアノは音が違うからね」と、恋人とのお惚気を語るかの様に彼は呟き、静かに微笑んだ。

淡想3【音楽の吸引力】 
学校が片隅に追いやった古い楽器を彼が見付け、使用許可を取ったらしい。
先程の曲について私が問うと、「ビリー・ジョエルのマイ・ライフ」と答えた後、再び鍵盤を叩き始めた。
弾む様に指が躍る印象的なイントロの旋律が、いつしか私の心を鷲掴みにして離してくれない。

淡想4【若さ故の過ち】
部活の日は隣の方へ入り浸る様になった私は、部員たちから酷く罵られる。
しかしグランドピアノから溢れ出るポップな曲の響きは、新鮮な驚きを与え続け、その世界へ引き摺り込んだ。
アリスの『遠くで汽笛を聞きながら』等の流行曲も披露してくれて、次第に彼とピアノの虜。

淡想5【媚薬の果てに】
「弾いてみる?」と声を掛けた彼は、簡単な和音進行から丁寧に教えてくれた。
部活の時間はまるで煙の様に消えて無くなり、気付けば我々とピピアノだけがいつも置き去り状態にされている。
この頃の私は遂に仲間から見放され、長に有らずの大きな烙印を背中に押されていた。

淡想6【掃き溜めに鶴】
私の親は単車屋を営んでいたが、父は出掛けると鉄砲玉で、仕方無く母は朝から晩まで店番の日々。
男ばかり3人の子供たちは、掃除や片付けが好きな筈も無く、家の中はいつも散らかり放題だった。
だがそんな惨状でも、燦然と輝く漆黒の箱入り娘が、何故か鎮座ましましする。

淡想7【淑女の来歴】
口八丁で目立ちたがり屋の父は、何の車種でも大量発注する手法で、地元の営業所で有名人。
在庫は山積みで借金塗れなのに、表彰式に出たいが故の所業で、その場限りの背広を新調三昧。
そこで贔屓にしていたメーカー系列の楽器会社の製品が、副賞として我が家へお嫁入りした。

淡想8【裕福な家庭の象徴】
母が教室に通い始め、ピアノを弾こうとしたが、店番で時間が取れなくなり断念したらしく、蓋は閉じられたまま。
私が使いたいと言い出したので、母は調律を依頼したが、その費用は私の小遣い2ヶ月分。
「今回限り」と言われ、結局は『ご令嬢の嗜み』なんだと思い知る。

淡想9【稀代の虚け者】
家でも触れる様になると、凝り性の私は毎日3時間以上、ピアノと戯れた。
初心者用に編曲された流行歌の楽譜集を古本屋で集め、熱心に眺めていると上手く弾けるつもりになる。
学校でも机に鉛筆で書いた鍵盤に指を這わせ、音楽の甘美な世界に、私は思う存分呆け続けていた。

淡想10【遂に大山鳴動】
友人に教わる事が週2回、熱心に練習したところで、所詮はお飯事に過ぎない。
だから低音量であっても、毎日聞かされる家族にとっては騒音公害だったのは間違いない。
そこで母に頼まれたのか、普段は顔を合わさない父から「話が有る」と、呼び出しを喰らう窮地に陥った。

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