「キャッシュ・フロー計算書 わからない」「キャッシュ・フロー計算書 作成 わかりやすく」で検索した経理パーソンがなんとなくわかった気になる解説記事

はじめに

先日、こんなアンケートをとったところ200名余りの方からご回答いただきました。
連結キャッシュ・フロー計算書は、いってみれば「財務諸表の表示組替作業」であり、作成によってBS、PLの数値が変わったりはしません(CF作成中にBSの間違いが見つかることはありますが)そのためいきおい作業は最終盤かつ孤独になりがちのため、いきなり担当を振られて意味不明なひともいるかと思います。
細かい定義や調整項目などはさておいて、「いきなり実務でCF精算表を見るはめになった」人向けに概略を説明しようというのがこの記事の趣旨です。

なお、書いている人は公認会計士ではあるものの、このnoteを掲載することによるリスク等を負う立場にはありません。このnoteはあなたのキャッシュ・フロー計算書に対する理解を助けるかもしれませんがクライアントや上司に示す根拠資料にはなりません。ちゃんとした本(例1)(例2)か企業会計ナビとかを根拠にしよう。


そもそもキャッシュ・フロー計算書(CF計算書)とは

CF計算書は、キャッシュ版損益計算書(PL)です。
いきなり飛ばしてきたなと思いましたでしょうか。この調子で最後まで行きます。

企業の期末の財政状態を示すものが貸借対照表(BS)ですね。
企業の期末の状態はBSにあらわれています。
BSだけをもらっても、企業の財政状態はわかるわけです。

前期末のBS → 当期末のBS

に変化する間に、企業には何がおきたのかな?
ということが、ふつうは気になるものです。

BSの中の変動のうち、
・株主資本部分の変動をその性質別に内訳表示したのが株主資本等変動計算書
です。
・そのうち、利益剰余金の変動部分にあらわれる「当期純利益」の内訳を表示しているのが損益計算書です。(という見方もあります)
・そのうち、「その他の包括利益累計額」の変動部分の内訳を表示しているのが包括利益計算書です。
これらはすべて、前期末BS→当期末BS のあいだに何が起きたのか?の内訳表示をしているわけです。

ではCF計算書とは何かなというと、
・BSの中の変動のうち、現金預金(厳密には現金及び現金同等物。ここではぼやっと表現するために「キャッシュ」と呼びます。)の変動を、その性質別に内訳表示したもの

です。つまり、
CF計算書とは、前期末BS→当期末BSのキャッシュの変動は、何が起きているからなのか?を内訳表示したもの
ということです。

CF計算書の性質別内訳と実務的な考え方

では、前期末BS→当期末BSのキャッシュの変動をどういう風に表示しようかな?というときに、各社が好き勝手な科目で表示していたら大変です。そもそもの「キャッシュの変動は何が起きて起こってるのかしりたいー!」というニーズに合致しません。比較可能性のために何らかの共通ルールは必要ですね。
その共通ルールとして定められているのが、次の3つに分けよう!ということです。

①営業CF(営業活動によるキャッシュ・フロー
②投資CF(投資活動によるキャッシュ・フロー
③財務CF(財務活動によるキャッシュ・フロー


この3つの厳密な区分はものの本におまかせしますが、
①営業CF;キャッシュの増減のうち、主たる営業活動をおこなっているために生じたもの
②投資CF;キャッシュの増減のうち、将来の資金獲得のための投資をおこなっているために生じたもの(定期預金、有価証券、固定資産)
③財務CF;キャッシュの増減のうち、営業活動や投資活動を行う元手を維持するために生じたもの(借入金・社債・株式発行・配当など)
という感じだと思います。
が。
この区分が①→②→③の順に説明されていることが、実務初心者を惑わせている一因かと思います。なぜでしょう。
①→②→③の順に説明されると、

「キャッシュの増減のうち、まず①本業で得られたものを計算してー、次に②投資③財務を計算するのかな」

と思ってしまうからです。

逆です。

CF計算書(間接法)作成における基本的な考え方は、
ステップ1 ②投資CF③財務CFをよりわける。(②と③は詳細まで表示する。)
ステップ2 キャッシュの増減のうち、②でも③でもないものが①営業CF

です。

CF計算書(間接法)をみてみると、

任天堂な理由は特にありません

営業CF・・・「○○の増減額」や「減価償却費」など
投資CF・・・「有形及び固定資産の取得による支出」など
財務CF・・・「配当金の支払額」など
とあります。
営業CFの内訳をみても、「得意先から入金されたキャッシュがいくらか」「仕入先に支払ったキャッシュがいくらか」はわからないですが、
投資CFの内訳をみれば、「固定資産の取得のための支出したキャッシュがいくらか」が書いてあるし、財務CFの内訳をみれば「配当金の支払のために支出したキャッシュがいくらか」がかいてある。

おわかりでしょうか。
営業CFは、CF計算書における広大な「その他」区分ということです。
システムの自動集計結果で「その他」があったら、「その他」に変なものが入ってないかチェックしますよね。
それと同じで、CF計算書の作成理解/チェックで優先すべきなのは、「投資CFと財務CFをキャッシュの増減からきちんとよりわけられているか?」という点です。

「キャッシュの変動額」=「BS上のキャッシュ以外のすべての項目の変動額」

ではさっそく、BS上の現金及び預金の変動額を見てみましょう。

正確には現金及び預金=キャッシュじゃないんですがここでは深く問わない

何もわからないですね。数字が右と左に書いてあるだけです。

しかし、幸いにもBSはバランス(貸借一致)します。バランスシートですからね。

キャッシュの額 = ▲BS上のキャッシュ以外の全ての項目の合計値(借方は正値、貸方は負値とする)

キャッシュの前期末と当期末の差額 = ▲BS上のキャッシュ以外の全ての項目の差額の合計値

※正確には、キャッシュとは「現金及び預金から流動性が低いものを除き、有価証券科目から流動性が高いものを加えたり、諸々調整した後の現金及び現金同等物」ですがここでは深く問わない

なわけです。
つまり、「BS上のキャッシュ以外の全ての項目の変動額を性質別に区分していけば、キャッシュの変動額の内訳が作成できる」
ということになりますね。

これがキャッシュ・フロー精算表の発想です。

手持ちのCF精算表を組み替えてみよう

今、お手元にCF精算表がある方もいらっしゃるかと思います。
行にはBS科目(とCF計算書項目)、列には「資産負債増減」とか「資金返済」とか書いてあるんじゃないでしょうか。
これはいったいなんなんだ。
全然広大ではないですが、例として↓みたいになっていると思います。

拡大して見てください

理解のために、今お手元にあるCF精算表の縦列をぎゅっとまとめてしまいましょう。税金等調整前当期純利益、現金預金振替列を除けば列は下記だけです。
1営業CF 2投資CF3減価償却費(※PLのうち、投資または財務CFにかかわるもの)4財務CF

組み替えてみました。

すると、さっきまで表示されていた細かい列は、「営業CFの中の内訳項目」「投資CFの中の内訳項目」「財務CFの中の内訳項目」を表示するために必要なのだということがわかります。

単一のCF区分にだけ影響するBS科目と、いろいろなCF区分にだけ影響するBS科目

では、組み替えた精算表の、BS科目部分を見てみましょう。
すると、BS科目に、
1 単一のCF区分にだけ影響するBS科目
2 色々なCF区分に影響するBS科目
の2種類があることがわかると思います。上記の表で言うと、

1 営業CFのみに影響;売掛金、未収金、買掛金、未払金、未払法人税
  投資CFのみに影響;有形固定資産、投資有価証券、設備未払金、その他有価証券評価差額金
  財務CFのみに影響;借入金

2 繰延税金資産、利益剰余金
です。

 未収金や未払金は営業CFのみにしていますがそうでないこともあるし、前受金のなかに○○が潜んでいて・・・とか、預り金のなかに財務CFにはねるものがあって・・・とか、実務上は色々あるので、CFにはねそう(=投資・財務CF区分に影響する項目が普段は営業CFのみに影響する科目に紛れている)なイベントがあるときは、期中にこまめにイベントリストを作っておきましょう。めんどくさいけど期末の最終段階で貴方を救うはずです!

実務ポイントとして、「1単一のCF区分にだけ影響するBS科目」の方が当たり前ですがありがたいので、なるべくそうなるようにBS科目を整備しましょう。
具体的には、最低限、「設備未払金」(投資CF区分にのみ影響する)は未払金からちゃんと分けておきましょう。そうでないと分けるのにめちゃくちゃ手間がかかります。

投資CF・財務CF(と営業CFの小計以下)に影響するBS科目とそれ以外の科目

営業CF、投資CF、財務CFの区分にまで分けられたところで、各区分内のさらに詳細区分を書いていきます。

え、じゃあそのために全てのBSの増減を全部詳細に分析しないといけないの?と言われるともちろんそんなことはありません。

ここでもう一度、CF「計算書」を見てみましょう。

・投資、財務CFは「〜による支出」「〜による収入」など、直接のキャッシュの動きを書く。
・営業CFの小計以下も、「法人税の支払額」など、直接のキャッシュの動きを書く。
・小計より上の営業CFは直接のキャッシュの動きを書かない(BS科目の増減と、投資・財務CFに関連するPL科目だけ書く)。

つまり、営業CFの縦列の中を、さらに詳細に区分する必要はありません(利益剰余金以外)。BS科目の増減を書くだけですからね。

一方で、投資CF,財務CFの詳細内訳は「直接のキャッシュの動き」を書かなければなりません。つまり、BS科目の増減だけでは対応できないのです。
そのため、
投資CF、財務CFに関連するBS科目は、BS科目の増減内訳を詳細に分析する必要がある
のでした。

【補足1】
もし借入金もない、有価証券の購入もない、固定資産の増減もない、ないないの会社では、(たぶん法人税の支払だけはあるので)BS増減を羅列し、その合計を営業CFとしたCF計算書になると思います。この場合、精算表を作るまでもなく、BS増減をそのまま羅列していけばCF計算書ができてしまいます。
(果たしてこのCF計算書を作ることに何の意味があるかと言うと意味がないような気もしますが)

【補足2】
実は上記に加えて有形固定資産の増減だけがある子会社は結構あると思います。その場合は、有形固定資産・設備未払金・減価償却費・除売却損益・減損損失・利益剰余金という有形固定資産関連の支出・収入に関連するBS科目とそれ以外に分けて、①有形固定資産の取得による支出②有形固定資産の売却による収入③その他 の3項目しかない簡易キャッシュ・フロー計算書ができます。これは親会社がざっくりキャッシュ・フローを把握するためには結構有効な気もします。

さきほど、BS科目には「1単一のCF区分にだけ影響するBS科目 2色々なCF区分に影響するBS科目」の2種類があり、2はそれぞれの区分に分けなければならない、と言いました。

その上で、それぞれの区分ごとにさらに詳細な内訳(増減区分)が必要かどうかは、
(1)投資CFに影響するBS科目 → 投資CFの内訳記載のため、詳細な増減区分が必要(なことが多い)
(2)財務CFにだけするBS科目→ 投資CFの内訳記載のため、詳細な増減区分が必要(なことが多い)
(3)営業CFの小計以下に影響するBS科目→ 投資CFの内訳記載のため、詳細な増減区分が必要(なことが多い)
(4)それ以外 → 詳細な増減区分不要(システム上の自動振替でOK)

ということになります。

上記で、(なことが多い)と書いてあるのは、例えば設備未払金(有形)などのBS科目を用意している場合、それは「有形固定資産の取得による支出」という個別のCF計算書項目特化型の科目になっているからです。
この場合は詳細は不要です。
勘定科目設定の際は、なるべくCF作業に有用で、でも日々の記帳の実務的な観点から妥当という線を探っていきたいところです。

営業CFの小計以下ってなんだよ。と思われたかもしれませんが、法人税・利息は営業CFであっても「〜による支出」「〜による収入」などのキャッシュの動きそのものを書かなければいけないので、何を書かなければいけないか、という区分上においては投資CFや財務CFと同じ扱いとなります。

BS科目とキャッシュ・フロー計算書の関連まとめ

1 BS科目は、
  1 単一のCF区分にだけ影響するBS科目
  2 色々なCF区分に影響するBS科目
 に分けられる。

実務ポイント 
 ①もしBS科目をうまく設計するなら、なるべく1の科目が多くなるようにしよう(設備未払金・未収利息・未払利息・未払消費税・未払法人税など)
 ②2の科目で普通にないイベントがある場合は記録しておこう(預り金、前受金など)

2 それ以上の分析が必要かどうかは下記の通り。

 営業CF(小計より上)に関連するBS科目は、BSの増減のみでOK.
 投資CF,財務CF,小計より下の営業CFに関連するBS項目は、さらに細かく増減を把握する必要がある(ことが多い).

実際にやってみよう

先ほど、営業CF,投資CF,財務CFだけに区分した精算表を、もう一度もとに戻してみます。

すると、「わけわからん」と思っていた列が、内訳を表示するために必要な列だった、ということが、なんとなくわかった気になる・・・かもしれない。

システムの仕訳設定をチェックしてね♪と言われたあなたへ

いきなり「CF、システムの自動仕訳設定をチェックしておいてね」といわれたことはないでしょうか。ないか。ある人もいるんだ。
チェックって、何をチェックしたらいいんだ!と思われたと思いますが、ここまでの整理から、最低限下記をチェックすればいいのかな?ということがわかると思います。

①本来は営業CFだけでなく投資CF、財務CFにも関連するBS科目の増減が、全額営業CFになるような設定になっていませんか?あるいは、BS科目の増減とCFの区分の設定が誤っていませんか?
②投資CF・財務CFの増減に関連するBS科目の増減が、自動設定になっていませんか?(ただ、「設備未払金」のように、投資CFの「有形固定資産の取得に関する支出」という詳細項目特化型の科目もあるので、その場合は自動設定でもOKです)

とかですね。
その他にもあると思いますが、最低限上はチェックしておきたいところです。

なぜ連結CF担当は固定資産に苦しむのか

連結CFといえば固定資産増減。固定資産増減といえば連結CF。
先ほどのアンケートでも、固定資産はいやな項目の中に入っています。ではなぜ連結CF担当は固定資産増減に苦しむのでしょうか。

(答)
投資CF関連項目であり、詳細が必要な項目なので増減を細かく把握する必要がある。
一方、詳細な増減項目ごとの金額は子会社の方しかわからない。
そして子会社の人はCF精算表への理解が薄い(これは当たり前)→「増減が期末残高に合えばいい」という発想で、てきと・・・実態と違う増減列に増減額を入力されることがある。

最終的に連結すると合計値が合わなかったり建仮への振替が合わなかったりとにかく合わなかったりするが、固定資産の増減理由というものは基本的に子会社マターである。
最終的には子会社の勘定明細まで見に行ってつぶしにいく必要がある(こともある)。

というところかと思います。

投資有価証券、借入金、リース債務などもある意味同じこと(詳細が必要な項目なので増減を細かく把握する必要があるが子会社に情報がある)ですが、こちらはお金まわりなせいか、また件数が少ないせいか、比較的増減把握が容易なことが多いように思います。あとCMSがきっちりしているグループだと借入金まわりはするっといくかもしれません。そうであってほしい(ガンダーラがあってほしい)。

おわりに

タイトルにもあるように、こちらは「わかった気になる」記事です。
「わかる」ためには、「はじめに」の再掲になりますが、本とか企業会計ナビとか読もう!

本1 https://amzn.asia/d/hwIzDGm

本2 https://amzn.asia/d/8aXIxMU

企業会計ナビ https://www.ey.com/ja_jp/corporate-accounting/theme/cash-flow

また、最終的に出来上がったCF精算表があってるのかな?のチェック項目は、こちらの國見先生の記事の“Ⅴ.連結CF計算書のチェックポイント”部分が有用かなと思います!

おわり。



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