【雑感】法制審議会家族法制部会第30回会議(親の責務/親権/監護権)の議事録を読んで

本稿のねらい


2023年8月29日、法制審議会家族法制部会において第30回会議が開催され、そこでは「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(1)」(要綱案たたき台)が示され大いに話題となった。

その第30回会議の議事録(第30回会議議事録)が公表された。

第30回会議では、要綱案たたき台のうち「第1 親子関係に関する基本的な規律」と「第2 親権及び監護等に関する規律」の2点が議論された。

本稿では第30回会議議事録の内容を抜粋しつつ紹介するとともに、筆者の中で、「親権」の理解が進んだように思っていることから、それも紹介する(当たり前といわれるかもしれないが)。


「子の利益」とは


要綱案たたき台においては、父母の責務や親権・監護権について検討する上で、「子の利益」というマジックワードが多く使用されている。

この「子の利益」が何を指すのかは要綱案たたき台や補足説明において説明がないが、「子の利益」を図るためには子どもの「人格を尊重するとともにその年齢及び発達の程度に配慮しなければならないことなど」が必要とされている(要綱案たたき台1頁)。

つまり、「子の利益」が目的で「人格の尊重」や「年齢及び発達の程度に配慮」することは手段である。

1番目として、これはもちろん子の利益の確保の観点ということは再確認したいところでありますが、そのときに、子の利益とは一体何かということが非常に大事になってくると考えております。それで、安全・安心ということが度々言われておりますけれども、それを一つまとめて、この部会資料30-2では子の人格の尊重というまとめ方をしておりますが、もう一つ、可能であれば子の人格だけではなくて、それと重なりますが、人権の尊重という観点をきちんと入れていただければと思います。

第30回会議議事録6頁(戒能委員発言)

筆者の考えでは、「子の利益」とは「父母の利益ではない」ことを裏から言っているだけのように思える。つまり、子どもは父母の持ち物(所有物)ではなく、父母は子どもを1人の人格ある主体として年齢等に応じて適切に扱わなければならないという命題に近いものだと思われる。

なお、「安心」や「安全」は「子の利益を図る」上で前提として必要な条件である。

その上で、子の人格を尊重するなどの場面において、具体的にどうするのかといえば、子の意見を聞くということも選択肢の1つとはなりうる。(1人の人間に関する何らかのことを決めようと思えば、普通は、その人の意見を聞くものである)

子どもの権利条約におけるこどもの意見表明権と子の最善の利益との関係についてお話ししたところでしたけれども、子の意見、意向、心情などを聴くことの先にしかこどもの利益は存在しないというのが権利条約の考え方といってよいと思います。つまり、抽象的なこどもの利益というのがどこかにあって、それを持ってくればいいという話ではなくて、子の意見を聴いてこどもと一緒に考えないと、そのこどもにとっての利益というのは決して浮かび上がってこないわけです。 この考え方の重要性を改めて踏まえますと、今回のゴシック体の(注1)では、こどもの人格の尊重という事項が挙げられておりまして、その点は積極的に評価できる反面で、人格の尊重の具体的な在り方の一つとして、やはり子の意見の考慮ということも挙げられるべきだと考えています。

第30回会議議事録18頁(池田委員発言)

Article 371-1
Les parents associent l'enfant aux décisions qui le concernent, selon son âge et son degré de maturité.(両親は、子の年齢及び成熟度に応じて、子に関する決定に子を参加させる)

Code Civil
※和訳は外務省資料「フランス親権法」6頁に従った

父母の責務/親権


父母には子どもを養育し適切な方向に導く責任(責務)があるとともに、その責任(責務)を果たすため、子ども・他方の父母・第三者に対しそれぞれ所定の権利を有し、かつ、適切にその権利を行使する義務を負う。
これが「親権」の内容であると考えられる。

§ 1626 Elterliche Sorge, Grundsätze
(1) Die Eltern haben die Pflicht und das Recht, für das minderjährige Kind zu sorgen (elterliche Sorge).(両親は、未成年の子を配慮する義務と権利を有する〔親の配慮〕※)
Die elterliche Sorge umfasst die Sorge für die Person des Kindes (Personensorge) und das Vermögen des Kindes (Vermögenssorge).(親の配慮には、子の身上に関する配慮〔身上配慮〕と子の財産に関する配慮〔財産配慮〕が含まれる)

Bürgerliches Gesetzbuch (BGB)

※ "Sorge"は1979年の"Gesetz zur Neuregelung des Rechts der elterlichen Sorge"により"Gewalt"から置き換えられた単語であり、一般に、「配慮」と訳される(法務省大臣官房司法法制部「法務資料第468号ドイツ民法典第4編(親族法)」10頁、外務省資料「ドイツ親権法一覧」)

Article 371-1
L'autorité parentale est un ensemble de droits et de devoirs ayant pour finalité l'intérêt de l'enfant.(親権は、子の利益を目的とする権利及び義務の総体である)
Elle appartient aux parents jusqu'à la majorité ou l'émancipation de l'enfant pour le protéger dans sa sécurité, sa santé et sa moralité, pour assurer son éducation et permettre son développement, dans le respect dû à sa personne.(親権は、子の人格に対して払われる敬意のなかで、子をその安全、その健康及びその精神において保護するために、その教育を保障しかつその発達を可能にするために、子の成年又は未成年解放まで父母に属する)

Code Civil
※和訳は外務省資料「フランス親権法」6頁に従った
2023年10月17日筆者作成

ここでは、通常の債権法における債権債務とは異なり、債権と債務がそれぞれ一対一で対応していないところが様々な誤解の原因だろうと思われる。

父母は、子どもを養育し適切な方向に導くという、ある種自然法的な責任(責務)を負い、子どもは父母に対し適切に扶養するよう求める権利を有すると考えられるが、これは親権の内容とは必ずしも一致しない。

この第1の規律は第2の親権、監護権の権利義務の上位概念として、親権を持たない父母に対しての父母固有の権利義務、これを明記しようという試みではないのかと、そんなふうに私個人的には理解をしています。従来から述べさせていただいておりますが、責務だけではなく義務に加え権利、両面をきちんと明記すべきかなと、このように考えております。

第30回会議議事録9頁(武田委員発言)
※上位概念というより原始概念?親権の有無に左右されない責任(責務)としてなら同意
※権利や義務は誰の誰に対するどのような内容のものかが重要

つまり、次のような関係があると整理できる。

一方では、父母が子に対して負う自然法的な責任(責務)と、子が父母に対して有する扶養請求権は一対一で対応すると思われる。この文脈では、当然のことであるが、父母は子に対して何ら権利を持たず、一方的に責任(責務)を負う。

他方、親権に含まれる義務的要素と扶養請求権は対応しない。

親権に含まれる義務的要素には、子を扶養する義務は含まれておらず、子のために、親権に含まれる権利を適切に行使すべきであるという善管注意義務や忠実義務のような意味合いでの義務を子に対して負っていると考えるほかないと思われる。(ある意味では信託的な様相を呈する)

ここでいう権利とは、上図のとおり、子に対して監護・養育を行うことを第三者(国含む)から妨げられない権利、それが妨げられた場合に妨害を排除することができる権利、そして他の親権者の親権行使に対し意見を述べ反対を表明するなどし是正等を求めることができる権利の3つに大別できると思われる。

親権というのは、なるほど義務なのか権利なのかというと、多分両方ともの側面があって、これは石綿幹事からも御指摘がありましたけれども、こどもを養育して育てていく、身上監護をする、財産を管理するという義務ではあるけれども、同時に幅広い裁量が認められており、他者からは介入されない、あるいは国家から加入されないという意味では、やはり権利としての側面を持ったもの、これが親権というふうに構成されてきたのだろうと思います。

第30回会議議事録16頁(窪田委員発言)
※身上監護・財産管理が父母の親権に含まれる義務であるというのは違和感あるが太字部分は同意

このように考えないと、親権を失った父母が引き続き子に対して扶養義務を負うことを説明できないと思われる。

2023年10月17日筆者作成

その意味で、次の落合委員の発言には誤解があるように思われる。

権利がなくて、なぜ義務が果たせるのか。親が親権のあるなしにかかわらず、例えばこどもを誰かに連れていかれてしまって、それでどうやって自分の義務を果たせるのか。それから、例えば自分がものすごく窮乏していて、あるいは病気でこどもを見るような力がないとき、どうやってその義務を果たすのか。それでも果たせと国家の方が言うのでしたら、これはとんでもないことだと思うのです。日本の法律は家族主義的だと言われています。もしもこの第1をここに書かれているような方向で取り入れていくのでしたらば、この部会は日本の家族主義をいよいよ固定化したと評価されることになるでしょう。私は絶対にそれにはくみしたくないです。

第30回会議議事録10頁(落合委員発言)

親権がない以上、仮に子どもが誰かに連れ去られたとしても、妨害排除請求を行うことができない。現行法上は、親権者に対して、親権の行使を事実上促すことができるに過ぎない。おそらく、ドイツやフランスにおいても同様だと思われる(妨害排除につき、ドイツでは「親の配慮」がフランスでは「親権」が必要だろう)。

なお、落合委員は「ドイツでは、子の保護及び教育は親の自然な権利であり、と書かれているようです。権利であり、両親に課されている義務である、この義務の遂行については国家共同体がこれを監視すると付いていて、家族だけではなくて国家の役割も書かれているわけなのです」というが、これは"Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland"、つまりドイツ連邦共和国基本法(憲法のようなもの)の一節を取り上げているものと思われるところ、同第6条(Art 6)"(2) Pflege und Erziehung der Kinder sind das natürliche Recht der Eltern und die zuvörderst ihnen obliegende Pflicht. Über ihre Betätigung wacht die staatliche Gemeinschaft."(子どもの世話と養育は親の自然の権利であり、第一義的に親に課された義務である。国家共同社会は親の活動を監視する。)とあり、少なくとも国家が子どもの世話を見るのではなく親がそうするのであって、国家は基本的にはそれに介入しないことを謳っているに過ぎない。見方によっては、あるいは権利の発生背景によっては、国家共同社会から、子を養育することを親が託されていると見ることも可能である。「親の配慮」なく、自然法的な権利のみで子どもを保護するための妨害排除請求等が可能かどうかは別論のはずである。

事務局の方たちに、親権とは関係のない親についての規定の外国の例を教えてくださいとお願いしました。そうしましたら、本当に1日ぐらいでフランス法、ドイツ法、イギリス法について資料を作っていただきました。時間がなくて今日はお配りすることができないということなのですけれども、それを見ましても、フランスでも権利及び義務と書かれています。親権を行使しない親の場合でも、子の養育及び教育を監督する権利及び義務を保持するとなっています。ほかにも、やはり親権を行使しない者の権利というのがフランスで何条も挙がっております。それから、ドイツでは、子の保護及び教育は親の自然な権利であり、と書かれているようです。権利であり、両親に課されている義務である、この義務の遂行については国家共同体がこれを監視すると付いていて、家族だけではなくて国家の役割も書かれているわけなのです。

第30回会議議事録10頁(落合委員発言)

だからこそ、共同親権の必要性は高いし(そもそも父母に対して自然法的な義務として子の養育義務が課されているのだとすれば、単に離婚を理由としそれを免れさせることは不合理である)、親権の義務的要素を適切に履行しない(親権を適切に行使しない)親権者の親権喪失・親権停止をより簡便に行うことができることが必要であり、加えて、親権を持たない父母には親権を持つ父母を監督できる制度も必要である。

なお、離婚後共同親権について合意を強調する意見もあるようだが、元々、単に離婚というだけで父母の一方から親権を剥奪し、親権行使にかかる義務を免れさせていたことが誤りである。

暴力的な関係については除くというような議論がされているのですけれども、暴力的な関係だけを排除すれば、それで共同での親権、双方の親権がうまくいくかというのは、人間関係を考えたら、あり得ないわけです。もっと、合意によって協力的にやり得るという状況を何とかして規定の中に盛り込まないと、結果的にはやれないというふうになると思っておりまして、先ほど原田委員なども、それ以外のものは全てオーケー、父母の一方が他方の身体に対する暴力やその他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがなければオーケーということではないのである、ということだと思うのです。ここの書きぶりが非常に何か、考慮要素が、方針として私には納得のいかない、これまでの半年の進め方が、やや欺まんに満ちていると思いました。

第30回会議議事録31頁(赤石委員発言)

このように、親権の「帰属」については、父母の合意マターではない。
ただし、親権の「行使」については原則として父母の合意マターである。
父母それぞれ1人ずつで「合意」の形成が必要である以上、あたかもJVの運営のようにデットロックが生じる可能性があり、その解消方法が問題となる。

2023年10月17日筆者作成

解消方法としては、監護親優先又は裁判所や弁護士会等の第三者判断などがあり得るが、ドイツ・フランスは裁判所を関与させるようである。

§ 1628 Gerichtliche Entscheidung bei Meinungsverschiedenheiten der Eltern
Können sich die Eltern in einer einzelnen Angelegenheit oder in einer bestimmten Art von Angelegenheiten der elterlichen Sorge, deren Regelung für das Kind von erheblicher Bedeutung ist, nicht einigen, so kann das Familiengericht auf Antrag eines Elternteils die Entscheidung einem Elternteil übertragen. Die Übertragung kann mit Beschränkungen oder mit Auflagen verbunden werden.(父母間で、個々の事項について、又は一定の親の配慮に関する事項について合意に至らない場合で、かつ、取り決めることが子にとって重要である場合、家庭裁判所は、父母の一方の申立てにより、その決定を父母の他方に委ねることができる。その決定には制限や条件を付すことができる)

Bürgerliches Gesetzbuch (BGB)

Article 373-2-7
Les parents peuvent saisir le juge aux affaires familiales afin de faire homologuer la convention par laquelle ils organisent les modalités d'exercice de l'autorité parentale et fixent la contribution à l'entretien et à l'éducation de l'enfant.(両親は、その者がそれによって親権の行使の態様を組織し、かつ子の養育及び教育についての分担を決定する約定(convention)の認可を受けるために、家族事件裁判官に申し立てることができる)
Le juge homologue la convention sauf s'il constate qu'elle ne préserve pas suffisamment l'intérêt de l'enfant ou que le consentement des parents n'a pas été donné librement.(裁判官は、その約定を認可する。裁判官がその約定が子の利益を十分に保護しないこと、又は両親の同意が自由に与えられなかったことを確認する場合は、その限りでない)
Article 373-2-8
Le juge peut également être saisi par l'un des parents ou le ministère public, qui peut lui-même être saisi par un tiers, parent ou non, à l'effet de statuer sur les modalités d'exercice de l'autorité parentale et sur la contribution à l'entretien et à l'éducation de l'enfant.(裁判官は、同様に、親権の行使の態様に関して、さらには子の養育及び教育についての分担に関して裁判するために、両親の一方、又は血族あるいは血族ではない第三者によって申し立てられうる検察官によって、申し立てられうる)
Article 373-2-11
Lorsqu'il se prononce sur les modalités d'exercice de l'autorité parentale, le juge prend notamment en considération(裁判官は、親権の行使の態様について言い渡すときには、(次の事柄を)とくに考慮する) :
1° La pratique que les parents avaient précédemment suivie ou les accords qu'ils avaient pu antérieurement conclure(両親が以前に従っていた慣行、又は両親が以前に締結しえた協定) ;
2° Les sentiments exprimés par l'enfant mineur dans les conditions prévues à l'article 388-1 (第388条の1に規定される条件のもとに、未成年子によって表明された感情);
3° L'aptitude de chacun des parents à assumer ses devoirs et respecter les droits de l'autre (両親の各々の、その義務を引き受け、又は他方の権利を尊重するについての適性);
4° Le résultat des expertises éventuellement effectuées, tenant compte notamment de l'âge de l'enfant(とくに子の年齢を考慮して、場合によっては実行される鑑定の結果) ;
5° Les renseignements qui ont été recueillis dans les éventuelles enquêtes et contre-enquêtes sociales prévues à l'article 373-2-12 (第373条の2の12に規定される、場合によっては可能性のある社会的調査及び反対調査において収集された情報);
6° Les pressions ou violences, à caractère physique ou psychologique, exercées par l'un des parents sur la personne de l'autre(両親の一方によって他方の人格に行使される、肉体的又は精神的性質をもつ圧力又は暴力).

Code Civil
※和訳は外務省資料「フランス親権法」9-11頁に従った

親権の喪失・停止のほか、一部停止や部分停止(不当に揉めていた事項については親権が停止する)なども有りうる?

共同親権の行使


要綱案たたき台では、次のとおり提案されている。

第2 親権及び監護等に関する規律
1 親権行使に関する規律の整備
⑴  父母双方が親権者となるときは、親権は父母が共同して行うものとする。ただし、次に掲げるときは、その一方が行うものとする。
ア 他の一方が親権を行うことができないとき。
イ 子の利益のため急迫の事情があるとき。
⑵  親権を行う父母は、上記⑴本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為を単独で行うことができるものとする。
⑶  特定の事項に係る親権の行使について、父母の協議が調わない場合(上記⑴ただし書又は上記⑵の規定により単独で行うことができる場合を除く。)であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権を父母の一方が単独で行うことができる旨を定めることができるものとする。

要綱案たたき台1頁

(1) 共同行使の原則

要綱案たたき台においても、離婚後共同親権の場合にはその親権は父母が共同して行使するものと提案されており、婚姻関係の有無が子の利益に関係する親権の帰属や行使に影響を及ぼすことはまったく論理的ではないことから、離婚前同様の本来的な規律(民法第818条第3項)が設けられることに賛成である。

Article 373-2
La séparation des parents est sans incidence sur les règles de dévolution de l'exercice de l'autorité parentale.(両親の離別は、親権の行使の帰属の規則に影響を及ぼさない)
Chacun des père et mère doit maintenir des relations personnelles avec l'enfant et respecter les liens de celui-ci avec l'autre parent.(父母の各々は、子との身上の関係を維持し、他の親と子との関係を尊重しなければならない)

Code Civil
※和訳は外務省資料「フランス親権法」7頁に従った

§ 1627 Ausübung der elterlichen Sorge
Die Eltern haben die elterliche Sorge in eigener Verantwortung und in gegenseitigem Einvernehmen zum Wohl des Kindes auszuüben. Bei Meinungsverschiedenheiten müssen sie versuchen, sich zu einigen.(父母は、自己の責任と相互の合意に基づき、子の利益のために、親の配慮を行使しなければならない。意見の相違が生じた場合、父母は意見を一致させなければならない)

Bürgerliches Gesetzbuch (BGB)
※ドイツ法では婚姻関係の有無に応じた「親の配慮」のルールはないようである

(2) 共同行使の例外

要綱案たたき台では、共同行使の例外として3つ挙げられており、つまり、①他の一方が親権を行うことができないとき、②子の利益のため急迫の事情があるとき又は③監護及び教育に関する日常の行為については、父母の一方が単独で行使できると提案されている。

赤石委員が御紹介いただいたかと思いますが、連絡は取れるけれども返答をしてくれないというようなときがこれに該当するのか、といったようなことは明確にしていく必要があるのではないかと思いますので、もう少しアの点についても具体化して議論ができるとよいのかなと思います。
(中略)
日常の行為というのが何なのかということは、全てを列挙できないにしても、典型例はある程度示すということ、あるいは問題になりそうな事案についてある程度、可能であれば合意なり方針が示せる方がよいのではないかと思います。

第30回会議議事録27頁(石綿幹事発言)

上記のとおり、父母は、子どものために適切に親権を行使する義務を子どもに対して負うことになるため、「連絡は取れるけれども返答をしてくれない」ような場合は親権の懈怠があると考え、父母の他方が単独で行使せざるを得ないが「親権を行使できない」には文言上当たらないと思われることから、催告に対する応答がないとして父母の一方の親権行使に同意擬制をするなど別段のの対応が必要だろうと思われるし、またそれに対しての一定のサンクション(親権停止等)も構想されるべきである。

監護・教育に関する日常の行為については、基本的には子どもの権利義務に重大な影響や変化がないものをいうと解される。例えば、入退学・入退塾、身体への侵襲や入院を伴う医療行為、父母や子どもの財産に比較して相応に高額な取引行為、比較的長期な海外旅行等を除く行為が挙げられるのではないだろうか。

中には、契約行為は父母の一方(監護親)と事業者の間での契約であり、財産管理の問題ではなく養育費の問題というものも含まれるかもしれない。

ワクチンの接種とか、少し笑われるかもしれませんが、わきがの手術などですね、例えば皆さん、わきが手術なんかは緊急ではないと思われるかもしれませんけれども、中学生や高校生の女の子にとっては非常に深刻な問題で、不登校の原因にもなりかねないような問題です。このような問題を解決するに当たって、日常行為と重大な行為の例示が難しいのであれば、共同親権の場合に監護者を必須とする方法によって解決すべきではないかと考えています。

第30回会議議事録25頁(原田委員発言)
※医療行為は誰が契約主体になるのだろう…

例えば、監護教育ができるからといって学習塾の契約ができるのか、恐らく資料の現状の理解としては、身上監護に関することは監護者が単独でできて、財産管理等のというところに法定代理も含まれるというのが現行法の通説的な理解だと考えられて、資料を作られているのかと思います。そうすると、お金も関わってくるような契約行為というのは監護者が単独でできるのかというようなことがこの資料からでは必ずしも明確ではないのかと思います。しかし、そこは実際上、問題になってくるのではないかと思いますし、身上監護と財産管理等を、どう切り分けるかというのは学説でも議論があるところかと思いますので、この点はもう少し明らかにしていただいた方がよいのかと思います。

第30回会議議事録28頁(石綿幹事発言)
※学習塾も契約主体が謎…

§ 1687 Ausübung der gemeinsamen Sorge bei Getrenntleben
(1) Leben Eltern, denen die elterliche Sorge gemeinsam zusteht, nicht nur vorübergehend getrennt, so ist bei Entscheidungen in Angelegenheiten, deren Regelung für das Kind von erheblicher Bedeutung ist, ihr gegenseitiges Einvernehmen erforderlich. Der Elternteil, bei dem sich das Kind mit Einwilligung des anderen Elternteils oder auf Grund einer gerichtlichen Entscheidung gewöhnlich aufhält, hat die Befugnis zur alleinigen Entscheidung in Angelegenheiten des täglichen Lebens. Entscheidungen in Angelegenheiten des täglichen Lebens sind in der Regel solche, die häufig vorkommen und die keine schwer abzuändernden Auswirkungen auf die Entwicklung des Kindes haben. Solange sich das Kind mit Einwilligung dieses Elternteils oder auf Grund einer gerichtlichen Entscheidung bei dem anderen Elternteil aufhält, hat dieser die Befugnis zur alleinigen Entscheidung in Angelegenheiten der tatsächlichen Betreuung.(共同して親の配慮を行う父母が一時的でなく別居している場合、子にとって著しく重要な事項の決定については、父母の合意を必要とする。一方の親の同意がある場合、又は裁判所の決定がある場合、子の常居所となっている方の親が、日常生活に関する事項を単独で決定する権限を有する。ここで日常生活に関する決定とは、通常、頻繁に生じるものであり、子どもの成長に大きな影響を与えないものをいう。子の常居所となっていない方の親の同意を得て、又は裁判所の決定に基づいて、子が自身のもとにいる場合、その親は、事実上の世話に関する事項について単独で決定する権限を有する)

Bürgerliches Gesetzbuch (BGB)
※別居時の「親の配慮」のルールはあるようである

Article 372-2
A l'égard des tiers de bonne foi, chacun des parents est réputé agir avec l'accord de l'autre, quand il fait seul un acte usuel de l'autorité parentale relativement à la personne de l'enfant.(善意の第三者に対しては、(1993年1月8日の法律第22号)《両親》の各々は、単独で子の身上に関して親権の日常的行為を行うときも、他方と一致して行為するものと推定される)

Code Civil
※和訳は外務省資料「フランス親権法」7頁に従った
※Article372-2は取引保護の趣旨であり親権者内部での問題はこれでは解決しないのでは?

(3) 離婚後共同親権の実際的な意義

上記のとおり、少なくとも①他の一方が親権を行うことができないとき、②子の利益のため急迫の事情があるとき又は③監護及び教育に関する日常の行為は、現に子を監護する親権者が単独で行うことができ、その限りにおいては、離婚後共同親権であることの意義は乏しい。

他方、それら以外については他の親権者への相談〜合意の過程を経る必要があることから、その限りにおいて、現に子を監護している親権者への監督的な意義があるように思われる。

§ 1686 Auskunft über die persönlichen Verhältnisse des Kindes
Jeder Elternteil kann vom anderen Elternteil bei berechtigtem Interesse Auskunft über die persönlichen Verhältnisse des Kindes verlangen, soweit dies dem Wohl des Kindes nicht widerspricht.(いずれの親も、正当な利益がある場合、子の利益に反しない限りにおいて、他方の親に対して子の個人的事情に関する情報を求めることができる)

Bürgerliches Gesetzbuch (BGB)

Column 〜パブコメの位置づけ〜


パブリック・コメントの手続においては、特に試案第2の1(離婚の場合において父母双方を親権者とすることの可否)について、多くの団体・個人から、賛否それぞれの意見が示された。パブリック・コメントの手続は、多数決をする趣旨ではなく、また、寄せられた意見の中には同一の個人が複数通の意見を提出しているとうかがわれるものや、その意見の趣旨が必ずしも判然としないようなものも含まれていることから、その正確な意見分布(意見数)を厳密に集計することは困難であるものの、団体から寄せられた意見においては、【甲案】に賛成する意見が多数であり(参考資料30-1参照)、個人から寄せられた意見においては、【乙案】に賛成する意見が多数(【甲案】賛成と【乙案】賛成の割合は概ね1:2程度)であった。

要綱案たたき台補足説明11頁

今日資料になりました参考資料30-1には、個人の意見というのは少なく抜粋されております。個人の意見は大体85ぐらい載っていたかと思います。検索したので、しっかり分からないのですけれども、(個人)で検索すると85でした。この方たちの意見が、せめてこの割合に沿って抜粋されているのかと思って拝見したところ、非常に甲案に関する個人の意見の方が多く抜粋されていました。100ページまで見たところなので。そうしますと、今のこの暫定的なパブリック・コメントのおまとめにかなり偏りがあると言われかねないようなおまとめではないのかと思います。

第30回会議議事録30-31頁(赤石委員発言)

そもそもこの部会でのパブコメについては、第17回会議で、あるいは繰り返し御説明させていただいていたところですけれども、それぞれの意見対立が大きなところでありますので、きちんと懸念事項を聞きたいということで、多数決ではないという形でさせていただいていると。あわせて、法定の義務的なパブコメではなく、任意の手続として、ここでしっかり委員、幹事の方々に議論していただくために、させていただいたというものです。
(中略)
ただ、個人の方についてはどうしても御自身の体験というものをお書きになっているものもあり、あるいはどちらかに賛成とだけお書きのものもあって、そのまま載せるというのはなかなか難しいということもあった、そういう中で、同趣旨のものについては団体の御意見の中に含めさせていただいているということになって、少しずれる御意見については個人として書かせていただいている、それがその比率と合わないではないかという御意見はあるかもしれませんけれども、そういう形で我々としては丁寧に整理をさせていただいたということで、御理解を賜りたいと思ってございます。

第30回会議議事録34頁(北村幹事発言)

パブコメは多数決で、つまり選挙のような形で募集するものではありません。過去の法制審でも、パブコメで示された賛否の件数を、具体的に示して参考にしたことはなかったと思います。飽くまでも部会における議論の参考とする上で内容を吟味するものですので、事務当局が非常に分厚くまとめてくださったので、これで十分ではないかと思います。一応、我々各委員も生の資料を全部拝見できるようになっておりまして、私も少し見てみたのですけれども、中には、個人の意見は特に、趣旨や文章もよく分からないようなものもたくさんありました。それらを全部丁寧に読み込んで、これだけの資料にまとめていただいた事務局の御尽力は大変なものだと敬服しております。 多数決という形になるとむしろとても危険なことが起こると思います。経済力がある人がパブコメ依頼を組織的に行ってしまうことすら起こりかねません。飽くまでも我々は中身を我々は議論の参考にするのがパブコメの利用方法だと思います。件数にこだわられるのは、将来的にはむしろ赤石委員が危惧される方向に行ってしまいかねないのではないでしょうか。貧しい母子家庭が財力に物を言わせてパブコメをたくさん投稿させることは難しいでしょう。飽くまでも我々はパブコメの中身について審議するという対応で、これまでの法制審もやっていまいりましたし、今後もその方がよいと思います。

第30回会議議事録43頁(水野委員発言)

以上

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