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走れ!走れ!オレたち⑧

天上界その七

 神々と干支の動物たちとの力走は、諦めかけていた天上界と地上界に再び奇跡を信じさせたものの、次々と力尽き離脱する動物と神たちの数が増えるごとにそれぞれに焦燥感も増していった。そしてあれだけいた動物たちも、もはや数えられる程に減っていた。
 動物たちの数が減ると、いまだ力を振り絞るパスポート持ちの真の干支たちの光り輝き走る姿が見てとれた。その中にはあの羊もいた。相変わらず涎は垂れて顔面だけではなく身体全体がびちょびちょであったがお漏らしはしていない。堂々たる駆け足で見違えるような輝く姿であった。たぶん輝いていたのは涎でびちょびちょのせいであろうが。他の干支も同じようにいまだ力強く走っている。
 
 方位盤はまだ動いてはいない。しかし干支たちは奇跡を起こすため己の法力を命の続く限り使う。その姿に神々は走りながら涙していた。

 方位盤の周りには傷ついた動物たちが手当てを受けながらも、まだ走れると自身に喝を入れ立ち上がろうとするものが少なからずいた。しかしその気概とは裏腹に、迫りくる終焉の闇は確実にこの方位盤を消そうとしている。

大年神も持てる神力を振り絞り、扇を振りながら駆ける。だが、動かぬ方位盤に足は重く、また重く、ついに大年神も立ち止まり膝をついた。
「すまぬ干支たちよ、わが神力も、もはやこれまで…」
振り返れば武官も従者も倒れている。走れ走れの歌声も聞こえなくなっていた。
 その時、西方の空が明るく輝きだした。金色の光は見る見るうちに方位盤全体を照らし、そしてその金色の光の中からお釈迦様と掌の上に乗った寅さんとうーちゃんがその姿を現した。

お釈迦様!! お釈迦様!! 寅さん!うーちゃん!

 待ち望んだそのお姿をむかえた神々と動物たちは、手負いながらも歓喜の声をあげた。
 いち早く掌から飛び降りた寅さんとうーちゃんはすぐに方位盤に上がり走り出す。途中、大年神と武官たち、干支たちの側に寄り、自分たちの非を詫び、またすぐに走り出した。
 すでにここに集う神も従者も動物たちもすべてが寅と兎を責めてはいなかった。
お釈迦様が掌に乗せて二人を運んだことで、愛ゆえの出来事であったこと、そして命がけで天上界と地上界を救うと決意し戻ったことを、言葉なくともすべて悟ったのだ。

十二支が揃い金色の光に包まれた干支たちは力の限り走る。
弁財天が再び、走れ―走れー♪と歌いだす。神々も歌う。

 しかし、方位盤は回りださない。
「お釈迦様!いまだ方位盤は動きません。このままでは時が完全に止まります!」大年神は叫んだ。
お釈迦様はそれに答えず、方位盤を全力で走る干支たちを見つめている。

「武官よ、今は何刻くらいか?」
大年神は足を引きずりながらも側に来た武官に訪ねる。
「無限発条時計は動いていませんが、湧き水をためる桶の数が増えた数からするとすでに大晦日。しかも年越しまではあと一刻あまりかと…」

「お釈迦様、もはや時間がありません。ここはお力を賜り、方位盤を回さねば、年が代わるときに方位盤が動いていなければこの世は終わります。お釈迦様、なにとぞお力を!」
お釈迦様は左の御手首の数珠を見つめたあと、大年神に言う。

「大年神よ、私が力を使うことはできません」
「なぜに?今こそ慈悲を賜らなければこの者たちの願いは…」
「私が方位盤を回すことは、この干支たちの命を奪うことになるからです」
「なんと…」
大年神はがっくりと膝をつく。

 「私はこの方位盤を干支たちの為にわが座を使い作りました。その時すでに干支にこの方位盤の力のすべてを分けて与えています。私がこの方位盤を回すことはその力を一度、干支より取り上げなければならないのです。それは干支の死を意味します。永遠にその一族すべてが消えるのです。ゆえに干支がその力を集中しこの方位盤を回さなければならないのです」
お釈迦様は静かに諭す。

「しかしお釈迦様、干支は揃い、今、すべてを賭して駆けております。それでも方位盤は動きませぬ…どうすればよいのですか!」

「大年神よ、そなた、大切なことを見落としておりますよ」
「なんと!それは何でございますか?」
「干支は全てそろってはいませんよ」
ええ~~!一同が声をあげる
おい!干支を確認しろ!大年神は従者に指示をする。
総動員で方位盤上の干支を確かめた。
鼠、牛、寅さん、うーちゃん、竜、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪
「えーと、全部いますけど…」
「お釈迦様!!全部おりますよ!マイナンバーも照合済みです。替え玉もいません!」

お釈迦様は「ふぅ~」とため息らしきものをついたあと
「まだ、いるではないですか、スーパーサブが」
スーパー?サブ??
「なんですか?それは、誰ですか?」

「もう呼んでいますよ。これへ、方位盤にあがり他の干支と駆けるのです!」
お釈迦様は天界の入り口に向かって御手をあげ合図をしながらそう言った。

一同は天界の入り口を見る。なにやらこちらへ走りくるものがあった。

あれは?誰だ?誰だ?だれだ~?例の昔のアニメのあれのメロディが響く。

あれは…

走り来るその姿は

白銀の猫 にゃー!


天上界完結編へつづく

※お詫び PCトラブルと著者の不注意により最初に投稿した走れ!走れ!オレたち⑦を消去してしまいました。改めて加筆修正版⑦を同時投稿しております。先の⑦記事をお読みいただいた方、コメント、スキなどいただきました方、大変申し訳ございませんでした。宜しければ下記のリンクから加筆修正版⑦もお読みいただけましたら幸いです。


走れ!走れ!オレたち①   
走れ!走れ!オレたち②
走れ!走れ!オレたち③
走れ!走れ!オレたち④
走れ!走れ!オレたち⑤
走れ!走れ!オレたち⑥
走れ!走れ!オレたち⑦加筆修正版

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