見出し画像

走れ!走れ!オレたち⑥

天上界その五

 天上界、方位盤付近は大変な騒ぎになっていた。理由は二つある。ひとつは干支の離脱による時の停止の話が天上界全体に広がり、忘年会を中止した神々が皆集まり対策本部を設置、各担当神が仮設テントの設営や炊き出しのための資材と食料搬入、防災備品の配布など大忙しであったこと。
 
 ふたつめは干支の集合を命じられた伝令が、干支の役割を果たす動物全体に集合を掛けたため、九支が集まる予定が地上界全部の干支の動物大集合になってしまい、ワンやらコケやらニョロやらキキッやら、なんて鳴いてるのかわからんのやら、とにかく何百億もの動物が天上界入口に殺到、マイナンバーの照合に手間取っていたからだった。(照合をしなければ干支の役目を持つ本物か?ただの動物かわからない)とにかく大混雑だ。

 方位盤の守衛館の入り口で大年神は、衛兵から足跡発見の報を聞いたあと扉の隙間から衛兵達と、武官と女官のあんなことやこんなことを覗き見で堪能したあと、咳払いで武官に自分が来たこと告げた。身支度を整えた武官は首筋の♡マークを悟られないように襟で隠しながら大年神の前に進み出た。

 「この度の事、すべて武官の私の職務怠慢より発した災い。覚悟はできております。ご処分を」と申し述べた。

 「武官よ、今はお前の処分など後回しでよい。それより、お釈迦様よりの命を受け、この方位盤をすぐに回さなければならぬ。」
武官は自分の処分が後回しと言う事よりも、方位盤を回すという大年神の言葉に驚きを隠せない。
「この巨大な石板を回すなどとは、いかなる術をもってしても不可能なのでは?そもそも方位盤はお釈迦様の元玉座、回ろうはずがございません。」
「回す方法はあるのだ」大年神は諭すように言う。
「お釈迦様の法力を願うので?」
「違う」
「では何をして」
「干支をすべて方位盤にあげよ。干支を卯から寅に向かい、つまり反時計回りに走らせるのだ。干支のすべての力を使わなければ方位盤は動かぬ。そして今、方位盤は止まっているも同然。干支の命すべてをもってして動かぬやもしれぬ。その時にお釈迦様の法力を初めていただくのだ。しかしこれは我らの歴史でも一度として行われたことのない苦行。その結果は誰にもわからん」
大年神は武官の♡マークを気にしながらも努めて真面目に話した。
「では早速、干支を方位盤に」
「うむ、すぐに始める。お釈迦様もまもなく御着きになる。」

 武官は衛兵に干支をすぐに方位盤に集合させよと命じた。ところが大集合している動物達の中で干支として確認されるのは羊(例の臭いでわかる)辰(竜だからわかる)そしてお釈迦様と共に向かっている寅さんとうーちゃんだけで、あとの干支は動物群の中に居て誰が誰だかわからないでいる。
 武官は「干支よ~パスポート持ちの干支よ~返事をしろ~」と動物群にハンドマイクで声をかけたが、一斉にひひーんとか、もーとか、ワンとかコケとかニョロよ~とかキキィーとか、そもそも鳴かないとか、前述の通りでうるさく特定ができない。

 「大年神様、干支が、干支がわかりません」武官は助けを求める。
「うーん」大年神は少し考えたあと武官に命じる。

「ここに来たすべての動物たちを方位盤に入れよ、そして走らせるのだ」
「全部ですか?」
「そうだ、群れに必ず干支はいる。ならばそれで用は足りる」
「承知!」
俄然やる気の出た武官はハンドマイクで動物群に言った。
「お前たち、全部、方位盤に入れ、そして走るのだ!鶏は飛ぶな!足で走れ!にょろは(蛇)這え!とにかく大年神様のスタートの合図で一斉に走るのだ!よいか!」
干支を含む動物たちはいっせいに方位盤になだれ込む。そして超超すし詰め状態ではあるものの、集まった動物すべてが方位盤に入った。寅さんとうーちゃんはまだだったが、もう、時間がない。
「よい!寅と兎は後から入る。それまでお前たちの命の炎を燃やすのだ。今こそ己の法力を発せよ!ゆけぇ~!!!」
大年神が扇を振る。方位盤の上の動物達はいっせいに走りだした。

天上界でのジャイアントランニングがスタートした。

つづく


走れ!走れ!オレたち①   
走れ!走れ!オレたち②
走れ!走れ!オレたち③
走れ!走れ!オレたち④
走れ!走れ!オレたち⑤


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?