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【掌編小説】リレー小説④(これってひよこの挑戦状?)#電車にゆられて(wsd983320987さんからの続きで)


「切符をくれ、生き返る切符をくれ」

 カラカラと水車が鳴っている、女性はいつのまにか消えている。どこかでつぶやく声がした。

「……生き返っても良い事はないかも……」

 俺は涙を流しながら動けない、誰かタスケテくれ、俺を生き返らせてくれ……

 水車の近くに石像がある。まるで涙を流したように濡れている。

wsd983320987さんより続きを書かしていただきました。



「切符を拝見」
その場に崩れ落ちていた俺に、聞き覚えのある声がした。

 顔をあげるとさっきの駅員がまた手袋をした白い手を差し出している。

 水車とそばにいた女性の姿はなく、あの平屋の場所でもない。目の前にあるのは海からのキラキラと反射した光に照らされた改札。そして相変わらず書類を片手に目深に帽子を被った駅員だ。

「お客さん、切符を」

「えっ、あ、はい、切符だよね」
 さっきまでのことはなんだったんだろう…… でも、まだ俺は生きてるよな。立って寝てたのか、俺? なんにせよビックリさせんなよ。

 無造作にポケットを探ると切符らしきものが手にさわる。
いつ、切符を買ったんだ? さっきはなかったよな。

 切符、乗車予定がある人には必ずあるはずの切符。
あの女は「地獄行きの片道切符」っていってたよな。
「死ぬ権利」っていってたよな。
俺が…… 俺が犯したことを知ってたよな。
ポケットから出せないよ。 出せないよ。

「お客さん、切符、お持ちですよね」
 駅員はわざと顔を見せないように俯いたままそう言ってくる。

「いや、忘れたというか…… どこにいったかわからないんで」

「いや、いや、▼▼さん お名前はちゃんとここにありますよ」
 駅員は白い手袋の指で持っている書類を指さした。

「違う、俺の名前じゃないよ。それ俺じゃないです」

「よろしいですかな?」
 後ろから声がする。シルクハットをかぶった老人だ。さっき電車にのったんじゃないのか?

「宜しければ一緒に参りましょう。なにかご心配をされてるようだが、大丈夫。電車にのればすぐに杞憂だったことがわかります。海をみながらのんびり行きましょう。ほら、私の連れも待ってますよ」
 
 改札口に目をやると老人を待っていた羽の付いた帽子の女性が手を振る。眩しい笑顔が俺の不安や恐怖をほぐしてくれているようだ。

 ポケットから切符を出し、駅員に渡した。切符には『大境⇒〇〇』
俺の田舎の駅の名だ。なんだ、田舎に帰るつもりだったんだ。どうも今日は頭がはっきりしない。まあいいや。

 ホームにオレンジと白のツートンの電車が入ってくる。老人と女性が先に乗り、俺は後から乗った。車内は俺達以外には乗っていない。向かい合わせの4人掛けの座席に俺達は座った。

 電車はゆっくりと動き出した。窓からは空と海との境界線が分からないほど輝く青が眼に飛び込んでくる。
俺の前に座った女性は眩しそうに帽子のつばを少し下げたあと「綺麗ね」と言った。

「ほんと、きれいっすね」俺は彼女を見ながらそう言った。少し誤解してくれないかなと思ったくらい彼女は美しい。乗ってよかったじゃん。

 電車にゆられて暫くは彼女ばかりを見ていた。俺の視線を彼女も気付いているのか、目が合う度に微笑んでくれる。

 いい女だ…… ちぇっ、またか、俺もなあ……

 急に車内が暗くなる。あー、トンネルか。

 車内灯が随分と遅れて点いた。

 目の前に座っていたはずの老人と女性がいない。

 え、どういうことだ。なんか、マズいんじゃないのか?
俺は車内を見渡したが誰もいない。血の気が失せていくのがわかる。茫然としているところへ隣の車両から来たのかさっきの駅員が通路を歩いてきた。

「駅員さん、いや、車掌さん? 乗ってたんですか」
「ああ、お客さんが最後でしたんでね、私も今日はこれで帰るんですよ」

「さっき一緒に乗った二人いたでしょう? トンネル入って、暗くなった瞬間に居なくなってさ、どこに行ったのかと思って」

「トンネル? ああ、さっきね、あのお二人ならもう降りられました」

「降りた? 駅なんか止まってないよ、まだ」

「お客さん、電車にゆられてまた、居眠りしてたのでしょう?」
「えっ、そんなはずは、いや、そうかな…… そうだな、夢見てたんだろうな。はは、今日は変な夢ばっかり見てるよ。 すんません」

「いえいえ。では、あともう少しで着きますから」

「ああ、そうですか。しかしこのトンネル長すぎないですか? どこら辺なのかな、今?」

「トンネルを抜ければ、すぐにお客さんの行きつく場所ですから。もうしばらくは電車にゆられて。これが最後なんですから……」




秋 様の企画に

ひよこ師匠さんが乗られて

日出詩歌様がお書きになり

 wsd983320987さんが繋いで、私が書かせて頂きました。ホラーからコメディにしようと思ったんですけどなんかそのままで到着してしまいました。それならwsdさんで終わりでよかったじゃん…… 

Black Gryph0n Insane

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