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走れ!走れ!オレたち⑤

地上界その五

 きっかけはあの岸辺だった。
総理官邸から待ち受けるマスコミの前にランニングシャツに短パン、某ブランドシューズのいでたちで嫌がる宝田を横に従え出てきた岸辺は、浴びせられる質問を制し自論をまくしたてた。
「国民の皆さん!!今、日本は、いや、全世界は滅亡の危機に瀕しています!!」
バシャ、バシャバシャ!とフラッシュがたかれ記者たちの驚きの声を聞いた後こう続ける。

 「地球は今、止まろうとしています!もし、そんなことになれば地表にいる我々は勿論、あらゆる生命、文化は破壊、消滅します!!」
バシャ、バシャバシャ、バシャ! え~~~!の声を聞いてから続ける。

「この危機を救うのは、私、岸辺と、この岸辺と皆さん、国民の皆さんの体力、そう!体力にかかっています!!!」
バシャ、バシャバシャバシャ!どういうことだ~!の声を聴いてから続ける。

「この岸辺と健康体の国民の皆さん、お子さんもお年寄りでも走れれば結構!、今すぐ各都市のメインストリートに集合してください!!一刻の猶予もありません!!走れる格好をして集合してください!N〇Kさん!ほかのTV局、ラジオ全部、放送局はこの岸辺の!岸辺の呼びかけを流してください!皆で走るのです。地球を蹴るのです!そうすれば~そうすれば!!!
地球は回る!!!」
岸辺は今だ午後2時くらいに思える太陽を指さしポーズを決めた!!
バシャ、バシャ、バシャ!!フラッシュがたかれたあと、一人の記者が岸辺に質問する。

「総理!!走るってどこに向かって、走るんです?日本中で」
「・・・」
「総理!!」バシャ、バシャバシャバシャ!!
「後ほど宝田教授から説明があります!!」
岸辺は記者たちを押しのけ、同様の格好をさせられた派閥議員総勢45名と一緒に皇居を目指して走り出しだ。

残された宝田は記者たちの質問攻めにあう。
「宝田教授!!そんなことで地球は救えるのですか!?」
バシャ、バシャバシャバシャ!!
「どうなんです?どこへ走ればいいのです!?」
バシャ、バシャバシャ!
宝田はもう、どうにでもなれという表情で答えた。

「救える・・かもしれません。100%とは言えませんが」
「可能性はあるのですか!証明できているのですか?」
「すくなくとも、ぴーちゃんは証明してます」
「ぴーちゃ???なんですか?」
「どこへ走るんですか」「どの方向へ?日本、世界中ですよ!!」
「総理が・・・」
「総理は教授に聞けとおっしゃってましたよ?」
バシャ、バシャバシャバシャ!!!
「今、総理が走って行った反対方向へ走るべきですかね、しいて言えば」
バシャ、バシャバシャ!!

おい!!総理、反対だぞ!、止めろ、誰か止めろ~!!

 総理官邸前のこの一部始終が、かろうじてつながっている放送ネットワークで全世界に流され、あろうことか米国の大統領がジョギングしている様子を編集して流した某巨大ネットワークのニュースが曲解され、人類の歴史上始まって以来の「走れ!走れ!地球を救え」のスローガンのもと、全人類がジャイアントランニングを始めようとしていたのだった。

そんなことで地球が回るわけがない。と、宝田は最後まで言いそびれたままだった。

つづく


走れ!走れ!オレたち①   
走れ!走れ!オレたち②
走れ!走れ!オレたち③
走れ!走れ!オレたち④

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