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#30 CCRTシスプラチンvol.4後にまさかの伏兵、それでも甘えちゃいけないと思うこと

ワタシの癌は、身体中に炎症性サイトカインをばら撒くハタ迷惑な性質があったそうで(いったいぜんたい誰に似たんだ?!)、そのために、ずっと炎症マーカーが異常に高かったのだ。
CRPがずっと下がらないので、朝晩でセファメジンの点滴をかなり長いこと投与されていた。
骨盤内の癌を目掛けて照射する放射線治療も、どうしても、周りにある腸を傷つけてしまうため、下痢や便秘か、どちらかの不調に見舞われることが多い。
ワタシの場合は、抗菌薬セファメジンの作用と相乗して、、、とうとう、ワタシの腸内フローラは完全崩壊したらしい…。
ここ1週間、酷い腸炎が続いている。
38度超え高熱から解放されたと思いきや、新たな戦闘が始まってしまっていたのだ、、

が、腫瘍が原因の恐ろしい高熱に、4時間に1回の熱冷まし点滴をおねだりして、七転八倒しながら耐え忍んでいたのだから、腸炎が目下の相手なんて、かわいい、と思わなくてはいけないだろう。

健康な時でも、かなり体力を消耗する腸炎だけれど、病床にあってはなおさらである。
身をもって実感したのが、日に日に減る体重。細る身体。栄養を点滴してもらうが追いつかない。

「万年ダイエットしていたのに、何なのでしょう、」と素朴な疑問を口にしてしまったのだが、先生は、
どんなに貧乏でも、家の家具を燃やすのは最後の最後でしょう?
と謎めいたことをおっしゃった。

なるほど…。

そこまで思い詰めて、ワタシは、私の身体を燃やしてでも生き抜こうとしてくれている訳か。
そう思うとダイエットできるのも、健康な身体という土台があってのものなのだ。心底、実感する。

医療を信じて頑張れるのは、製薬会社に勤めて学ばせてもらったことが大きいけれど、登山家の凄まじい復活劇は、その信念を揺るぎないものにしてくれる。

究極なのは、松田宏也さんの『足よ手よ、僕はまた登る』だった。松田さんは、中国の高峰ミニヤコンカ(7,556m)登頂直前に遭難。ザイルパートナーを失いながら、19日間もの間、単独山中を彷徨いながら、中国の山岳民に助け出され、奇跡的に生還された登山家である。遭難で、ほとんどの両手指、膝下からの脚を失い、その後の闘病500日、苦しいリハビリを耐え抜いたのち、社会復帰を果たし、一社会人としても、また、義足の登山家としても、見事に復活し、ご活躍をされていく過程を描いているのが、前掲の書籍である。(ちなみに、闘病を休職扱いという制度で松田さんを守ってくれた会社に対して、その後、松田さんは人一倍の努力と献身でもって応え、事業部長、執行役員へと昇り詰める。)

『ミニヤコンカ奇跡の生還』が、絶対絶命の死地からの生還を克明に記録した極めて壮絶な本で、読む順番とすればコチラが先ではある。

僕が今まで山で学んできたことは、自分の運命を左右するのは、自分の意志でしかないということだ。岩壁を攀る間、僕の背後には死と絶望があり、目の前には生と希望があった。生と希望を着実につかみ、最高点に達する支えとなるものは自分の強い意志でしかなかった。

松田宏也『足よ手よ、僕はまた登る』

松田さんの、500日の闘病生活に比べれば、ワタシのコレなんぞ、ごくごくありふれたものなのだけど、ここでも一番に感動したのは、医療の有り難さだ。
人を治す、ケアする、背中を押す。
再起に向けて、励まし、応援する。
その声を糧に、立ち上がる、身体。

誰の人生だと思ってるんだ。自分の人生じゃないか。甘えてて、いったい何ができるんだ。

松田宏也『足よ手よ、僕はまた登る』

入院5ヶ月目、初めて外出許可が得られた日、松田さんが目的地に選んだのは中国大使館だった。生命を救ってくれた彼の国の人に感謝を伝えるためだった。
必死の努力で車椅子を卒業し、歩行が叶うようになれば、中国へと答礼の旅に出て、命の恩人たちを訪ねられている。

多くの医療者の献身的な治療とケアを杖にして、松田さんは、一級障害者となりながら、その不屈の精神をもって、自立し、見事に復活を遂げられるのだ。
救われた人、というのは、一層強くなるのかもしれない。数多の快復への祈りを受けて、感謝する生命もまた、ひときわ輝くのだろう。

世は三連休の最終日。病院は24時間365日。看護師さんをはじめ多くのスタッフの方々が今日も働いておられる。電車も、バスも、タクシーも、電気も水道も。エッセンシャルワーカーの方の努力で、社会は回っているのだ。
ワタシの答礼の旅は、残りの一生をかけて行うことになるのだろう。将来の目標に加えておく。自分との、約束だ。

写真は、埼玉県の日和田山。前職大変お世話になった先輩も、癌サバイバーで、大腸癌と脳腫瘍のリハビリのために登られて来たとのことで、お写真をくださった。週末は、行政の国際交流協会のボランティアで日本語を教えられているとのこと…!
ひたすらに、頭が下がる…。



 




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