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episode2-4:調教(4)<ようこそ新しい世界へ>

(3)からの続きです

目が覚めた。ソファーの上だった。

爽快な気分。

レイさんの家だ。

時計を見るともう11時。

レイさんはパジャマを着てもうコーヒーを飲みながらトーストを頬張っていた。

「あ、起きた?おはよう。なにか食べてく?」

僕はこの家の雰囲気に慣れてきたのか、すこし図々しくなっていた。

「おはようございます。すみません、なにかあるものでいいんで食べさせてもらっていいですか?」

レイさんは、

「オッケー。コーヒーとトーストと、目玉焼きでいいかな?」

と明るく、でもおだやかな笑顔で応えてくれる。

「ありがとうございます」

と返事をしながら、頭の中はまだまだ整理がついていない。

昨日のこと。そしてそのときのレイさんの表情・・・。

そのレイさんと、今のレイさんは本当に同じ人物なのか・・・。

そんな思いが頭の中をぐるぐると動く。

レイさんは「あれ、ルイくんおとなしいやん。やっぱり夜で疲れたんやろ」

と冗談を飛ばす。

僕は「いえいえ・・・」と苦笑いしながら、夜の営みと今のおだやかな時間のギャップに違和感を持ち続けていた。

そんな僕におかまいなく、レイさんは自分の食事を終えて、キッチンに立つ。そして、

「はい、できたよー」

と、喫茶店のモーニングに近いレベルのおいしいトーストと、コーヒー、そしてサニーサイドアップに焼いた目玉焼きを出してくれた。

そうだった。夜はやるだけやって疲れて、倒れるように寝ていたんだった・・・。

とんでもなくおいしく思えたのは、カロリーを一気に、そして大量に消費したあとの、事実上「事後」の食事だったからなのかもしれない。

夢中になって出された食事をいただいていた僕を、レイさんは静かに見守っている。

そして、「ごちそうさまでした。おいしかったです!」と僕がいうと、

レイさんは、

「じゃ、これから準備して仕事にいくから、ルイくん先に帰ってね」

といった。

僕もいったんは家に帰って頭の中を整理したかったので、

「あ、はい。準備したら帰りますね」

といい、身じたくをした。

帰る準備を整え、

「じゃ、ありがとうございました。お邪魔しました」

と家を出ようとする僕に、

「してほしくなったら、すぐに呼ぶからね」

と耳元でささやいた。

僕は、

「はい。大学が休みの間はそちらに行けると思います。ヒマなんで」

と返事し、レイさんの家を出た。

マンションのエントランスを抜け、マンションと雑居ビルの並ぶ街並みを地下鉄の駅に向かって歩く。

「この違和感に慣れることが必要なんだな・・・」

と自分に言い聞かせる。

これまでの地味で退屈だけど、心の平穏は保たれていた生活。

そんな生活が表面上変わるわけじゃない。

だけど、これからは楽しいことが多いだろうけれど、それに伴う心の不安定さとも付き合っていかないといけない。

だけど、今日のような違和感に対して鈍感になっていけるのならば、この生活も悪くないのかもしれない。

ひとまず、レイさんにいろんなことを教えてもらいながら、レイさんの相手をしよう。

こうやって、この年の夏、天国でもあり、地獄と言えなくもない生活が始まることになった。

(To Be Continued)




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