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踊り部、喜ぶ 【お話/エッセイ】


部長である渡がパンパンと手を叩くと、鏡に向かっていた男子部員5名がクルッとターンし、爪先立ちでスススと集合した。

「踊り部の精鋭達よ、朗報だ!」
「部長、もしや…」
「櫻葉が踊り部への入部を正式に受けてくれた」

おおお~✨踊り部の面々が目を輝かせる。

「櫻葉、こちらへ」

僕は扉の陰で羞恥心と闘っていたが、ついに観念した。

「櫻葉先輩!ようこそ!」
「ようこそ、踊り部へ!」

さりげなく股間を手で隠し、顔を上げる。
拍手に迎えられ、タイツに身を包んだ僕は彼らの前に進み出た。

「諸君、よろしく。皆の足を引っ張らぬよう、練習に励む所存だ」
「よく言った!その心意気や良し!」

渡が言い終わるのを待たず、踊り部員達は握手を求めにワッと僕の両手に群がった。おかげで前がガラ空きだ。

「櫻葉先輩が来てくだされば百人力です!」
「櫻葉先輩の優雅な物腰に美しいポージング、あなたは僕らのお手本なんです!」
「これでコンクール優勝も夢ではない!きっと審査員達も釘付けになることでしょう」
「ハッハッハッ、踊り部諸君、文字数制限がなくなった途端すごい喋るじゃないか」

「ん?ちょっと待て。コンクールだと?まさかこのコスチュームで?」

僕は首がもげそうな勢いで渡を振り返った。
腕組みしながら奴はにこやかに頷いている。
はめられた…。


「そして、さらなる朗報が舞い込んだぞ!」

踊り部の面々が一斉に渡を見る。

「なんと、我らの物語が『武川蔓緒さんのお気に入り10選』に選ばれた!」

「なんですトット!?」(こびと部兼)
「それは本当ですか?部長!」

彼らのざわめきは、やがて嗚咽へと変わっていった。

「諸君、コンクールにその感謝の想いをぶつけようではないか!」
「はい、部長!」


興奮する彼らの横で、フッと目を閉じる僕。
謀ったかのようにラヴェルのボレロが鳴り響く。

タン・タタタ…タン・タタタ…タン・タン
コンクール…タイツ・タイツ…コンクール…
コンクール…タイツ・タイツ…コンクール…

踊り部の面々は鏡の前に戻り、流し目や物憂げな表情を作りはじめた。しなやかな手足指先の動き。美しいポージングへの飽くなき探求心。そして、タイツ。

僕はそっと眉間に手をやる。

「さあ、踊ろう!櫻葉!」

ああ、踊るさ。踊るとも。
僕は表現することをめないよ。


~了~



夏ピリカグランプリに応募した『鏡の中のボレロ』
武川蔓緒さんが書かれた記事の中で、お気に入り10選に取り上げてくださいました。

しかも、読まれたときの印象などを素晴らしい文章で丁寧に解説していただいております。
素敵なお言葉の数々を頂戴し、とてもうれしかったです😹✨️
書いたときの想いが報われました。

武川蔓緒さん、こんな私の書いたものをご紹介していただき、本当にありがとうございました!

こちらでは、私の大好きなnoterさんでもある穂音さん『神々の甘噛み』も選ばれております!
めくるめく不思議の宇宙へといざなわれてゆく感覚がたまりません。私も宇宙お犬のたてがみになりたい…😻

ダブルでうれしい出来事となりました😊

本編の夏ピリカグランプリ、大盛況の大団円でしたね!
審査員の皆さま、本当にお疲れさまでした。そして、投稿したあとコメント欄に温かいお声をくださり、ありがとうございます。大切に読んでいただきうれしかったです😊

そして、受賞された皆さま、おめでとうございます!🎉

マガジン内全部の作品は読めておりませんが、かつてないくらいたくさん読ませていただきました。
凄い作品ばかりで心が震えました。
ただガタガタ震えながら結果を待つのも…と考え、
夏ピリカの期間中、お祭り気分を思いきり楽しみました🎵
ココア屋でもマスターが夏ピリカに応募するというお話が浮かんでからは、ウフフ🤭となりながら書かずにはいられないくらいのテンションに。

皆さんの作品を読んだことで、また踊り部とマスターとともに青春だ~!って感覚を久しぶりに味わいました。
ありがとうございました😆🌻


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