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黄金の橋

彼女の手は

温かくて柔らかくて

強く握ってしまうと

壊れてしまいそうなほどだった

雨上がりの夜更け過ぎ

蒲郡クラシックホテルのある

高台から坂道を降りたら

すぐの場所に

竹島へと渡る橋が

架かっている

竹島橋はライトアップされて

金色に照らし出されていた

昼間はなんの変哲もないただの白い橋が

夜の闇と光の演出により

そうして雨上がりという

シチュエーションも相まって

ガラッとその雰囲気を変えていた

ロマンチックでもありどこか怖い感じ

橋の下では黒々とした

海が生き物のように

うねり弾けては暴れていた

昼間の様な安心感や穏やかな

海ではない異質な気持ち

夜空にはまだ雨雲が浮かんでいて

隙間から星々がきらりとこちらをのぞいていた

風が吹いて潮の香りが

鼻腔を刺激する

彼女とは三月に籍を入れたばかりだった

まだお互いの距離感になれてはいなくて

手を繋ぐのもなかなかに恥ずかしくて

だけれど夫婦になったの

だからとわけのわからない

理由で僕は僕を鼓舞しながら

彼女の手にそっと自分の

手を合わせにいった

暗闇の中昼間とは

打って変わって

人のざわめきは

今は鳴りを沈め

竹島をつなぐ橋には

僕達二人しかいない

指が触れれば

不思議な事に

体が熱くなるのは

どうしてなのか

付き合って一年が経ち

籍を入れて

一緒に生きていこうと誓った

その時もまだ僕はドキドキを

味わっていた

彼女と手を繋ぎ歩いていく

神聖であり信じ難くもあり

心はきっと

夢の中のまま

ずっと浮き足立っていたんだ

今でもまだ信じられない

感覚だ

互いに何かを話す訳でもなく

雨上がりの橋をただ静かに

歩いていく

竹島の手前にある鳥居の

前までゆっくりと

僕らは手を繋ぎ歩いて

そうしてまたホテルへと

引き返していった

4月の夜更け過ぎ

黄金に輝く橋の上

僕の心臓の音は

弾ける波音よりも

高らかに熱っぽく

全身を巡っていく

彼女の手は温かい

そうして柔らかくて

あの夜の感触や音

昂りや靴音

竹島を見ると思い出す

くすぐったくなる

記憶の音色

あの日あの瞬間

あの場所でしか

味わえなかった

不思議な感覚を

僕は忘れない

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