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同人小説の手直し方法(備忘録)

小説の手直し、どうやった?

 この前、初めて他人が手に取る可能性のある同人誌を刷った。
 割と最速早割使うにはカッツカツだったけど、金で買える時間はある+作業から逃げたい心理で色々調べてるうちになんか自分の中でまとまったので書き物にしておきます。
 よしんばまた刷るとしても数年は後だろうしそのころにはPC買い替えてそうなので。あわよくばほかの同人字書きにも役立てば幸い。
 これは「同人誌」「紙に刷って頒布する」前提なので、普段の書き散らしにこんなことせんでいい。このnoteもしてません。あとお仕事レベルだと参考にもならんと思う。あくまで趣味の範囲のお話。


推敲・校正・校閲の自家定義

 まず、ここで使う語句の定義としてよく出てくる類語の区分けから。
 正式なものではないけどこんな感じで区分けすると、するべき作業にフォーカスしやすかったり進捗見やすかったり作業漏れ防止出来たり切る作業決めたりできていいと思う。メリット長いな。

・推敲

 語源は「詩の表現迷ってたら官僚行列にうっかり迷惑かけちゃってさぁ大変! だけど官僚様も詩人だったからアドバイスくれた上に不問にしてくれていい酒飲んだよ!」って漢文。よかったね。
 ここでは語源通り、文表現の修正レベルミクロな話とします。
 推敲に必要なのは、選択肢を広げることと広げた中から選ぶこと。
 発散と収束のステップであり、正解はなく、基本的に終わりはないです。
 ある意味自己満足でもある世界。ただ、ここに掛けた時間は自分の納得感に直結しやすいと思う。

・校正

 この前は大体ここの作業範囲として、文末表現被りの修正~文字組み後の見栄え修正をしました。
 ここでは上の推敲と比較して、段落の修正レベルマクロな話とします。
 ググればわかるけど校正には大まかな正解があり、どこまで従うかor破るかの話。いわゆる日本語文法、単語誤用、てにをは、重複表現とかがこのレベル。ツールが活躍するので素直に頼ろう。

・校閲

 いわゆる話題に上がるような校正は実際ここのレベル。
 文章全体を見て、文脈上の矛盾から文化上の不整合までを見つけていく。
 文章の修正レベルメタな話になるので、これが発見されると大工事になりがち。基本的に一気読み印刷して赤ペン持って読む、がセオリー。
 たまに「半分」が3回も出て百分率すらできないおバカ執筆してたりで爆笑できるのもここ。冷や汗も出る。

各レベルの作業スパイラル

 どの作業も並行して、あるいはスパイラル的に進行する。書いてる途中でもある程度やってるよね、をうまく整理すること。時折致命的な作業漏れがある。紙は訂正できないので泣かないように漏れ潰ししよう。

・-n次推敲~0次推敲

 ちょっと書き詰まった時なんかによくやるやつ。あとは意識的に作業の終わりと始めで前のところやっておくと、文章に温度差が出なくていい感じ。

・-n次校正~0次校正

 「なんかうまく文章続かない」「突然手が止まってうんともすんとも」ってときはこのレベルの作業をしよう。
 具体的には、直前の文章~該当段落単位で校正作業。てにをはや文法上ストレートじゃないところを直す。2文に分けたり、数文節(意味区切り)単位で入れ替えると続きもスッと出てくることが多い。

・-n次校閲~0次校閲

 ネタ詰まり起こしたときとかにやるやつ。資料読んだり専門じゃない分野で調べものしたりして無限に時間を吸うアレ。
 この時調べた資料はリンク先とか残しておくといい。あとで見直したりネタ広げたりしたくなった時に役立つ。なんかレポートみたいだね……。

・1次推敲

 章や短編1話、その時の話題にオチが付いたらやる。書きあがり直後のメンタルだとそんなに指摘は出てこないので、さらっと見直して目についたところだけでOK。

・(1次校閲)

 もし、この先に関わる重大な部分や世界設定に関わる数字を出したりポッと思い付きのオチを使ったりしたら。
 すっ飛ばすと続く話が全部没になったりオチが台無しになったりするのでサボらないこと。うっかり忘れたときは「これはファンタジィ!!」って叫ぼう。

・1次校正

 分割投稿とかしてるならその時に。してないなら文字数ベースか段落ベースである程度溜まってきたらやる。
 これは、主に文末被りをどのくらい直すor直さないを判断するときにまとまった文章量が必要なため。てにをはとか文法系は見つけ次第都度直そう。
 逆に、文頭下げはネット横書きだとやらないこともあるので、そういった体裁部分は紙にする時ほどやらなくていい(どうせ環境で崩れるし)。

―――ここから先は紙とか展示前提―――

・2次校正(と終わらない推敲)

 まずはツールとかWeb使ってチェック。次に発表媒体に流し込んで体裁チェック。
 直し中に自動で推敲も始まると思うので、推敲に時間を取られ過ぎずに終わらせることを目標にする。人力チェックは辛いし限界あるので素直にツール使おう。
 体裁については他人によりけり。私は改行位置でぶった切られちゃうところは一太郎の機能で直したり字詰めしたりしたけど、書き換えまではほとんどしてない。そりゃあ誰だってK極御大じゃあないですしおすし。
 音読修正はこのタイミングに効くと思う。口がうまく回らないところは、文の接続が大概マズイ。-n次校正~0次校正と同じで、意味区切りの入れ替えや前後含めた文章の修正で8割方直せます。

・2次校閲(と無限推敲との闘い)

 一気読みする時間取ってやれ。出来る限り紙媒体でやれ。
 で、推敲したくなる時あると思うけど、校正レベルの修正(文法上のミスや接続詞修正)以外はなるべく止まらない。あるいは気掛かりになってしまうなら紙面に書きだして忘れること。
 紙でやるメリットは、直しネタを原稿に直書きできる・紙めくりのタイミングで思考が区切れて文章全体の齟齬が見つけやすくなる・学生時代を思い出すの3点から。3番目は後で詳しく書きます。

・推敲推敲推敲

 2次校閲で見つけた部分の手直しがメイン。きっとここまで書いても途中で推敲してるだろうけど、なんか気掛かりなところがあったら〆切までのんびりやろう。
 ここまで来れば、最悪〆切来ても出せるレベルの原稿になってるはずなので心に余裕がある。はず。

推敲に必要なもの

 語彙力……、と言ってしまうのは簡単だが一朝一夕に身につくもんでもないし、そうやって急場身に着けた語彙は大概文章中で浮く。もう泣くしかない。普段からつけよう。
 とはいえ、身についている語彙でもいざ文章を書いて逆引き的に探すとうっかり出てこないときもある。そんな時に使える手段はあればあるほどいいのでメモ。

・単語+シソーラス/同義語でググる

 一番お手軽。出てきた単語をもう一回ググって実文も見てこよう。

・英語に訳して英英辞書引いて日本語に戻す

 割と盲点になりがち。一度別言語に訳すと単純シソーラスより幅が広がる。上でうまくいかなかった時用。

・ChatGPT

 雑にまとめれば、後ろにでかいワードクラウド持ってて文法わかるボット君なので、うまく使えば共起表現をいっぱい出してくれるはず。

・コロケーション/連語辞典

 どっちかと言えば普段の勉強用。“単語” site:aozora.gr.jpでググってもいい。
 余談だけど文章書きたいって思った人は、本読むよりこういうの入れたほうが効率良いと思う。(今まで読んだ文量で書けねえって言ってるのに、ちょっと読み足したところでどうしようもないという話)

校正のメンタル

 定義にも書いたが、校正はある程度の正解ゾーンがある。言語は使われている限り生モノで揺らぐけれど、「一般的」を定義できるし外れるほど読みづらくなる。たまにそうじゃない作家いるけどあれ例外。
 とはいえこれは同人活動。"敢えて"逸般的な表現をすることもある。リズムを取るために「~のような、~のような。」って書いたって間違いではない。この文章の二重否定だって、全部削れば味気ない。特に心情表現であれば、ある程度口語っぽく崩れていたりアンビバレントや動揺や許容を表現するために二重否定を使ったり。それもありなのだ。
 なので、わかったうえで選ぶを徹底すること。残せば読者の負担が増える事実を無視しないこと。目を背けずちゃんとお勉強しましょう。
 昔どっかで添削のポイントとして「のように・という・こと」は大体省けると聞いた覚えがある。めっちゃ出しがち。「ということなのである」とかね。かといって削り過ぎて体言止めばかりでも読みづらいです。ちゃんと書きなはれ。
 平均・標準・一般的な文章は素晴らしいんだぞ。その上でどこまでやっても自由だけど、じゃあどうする? と選択し続けるので割と負荷の強い作業です。推敲に逃げず歯ァ喰いしばんな。

校正に使ったツール

 上で書いたように実は負荷の強い作業でもあるのでツール使いましょう。
ここで稼いだ体力を校正の本作業に使おうね。あと、ツールは容赦なく一般論を叩きつけてくれるので知らなかったことがあれば勉強にもなります。

一太郎

 同人作家にやさしいぼくらの味方、一太郎。入稿データ作成に使うだけじゃもったいないよ!
 組版だけでなく、文章チェック字数カウント句読点平均表記ゆれとかの校正機能もあってめちゃくちゃお世話になった。2019版だけど全然現役。でも助かったからお布施してもいいかもしんない。
 PDFのフォント埋め込みもするっと自動。たまに出したいメニューがヘルプ通りにやっても出てこないけどご愛敬(たぶん非IT向けの親切が私向けじゃない)。

Novel Supporter

 プログラマーもできる小説家が作った小説推敲補助ソフト。ググったら出てきたんだけどとてもいい。今回とてもお世話になりました。
 ハイライトしてくるところが痒い所に手が届くし、たぶんいじれる。どの機能も面白いし助かったけど、画数ヒートマップ文長ヒートマップは白眉。こそあど確認文末重複確認は、文章自体のハイライトで出してくれるので非常に見やすい。こそあどの距離離れすぎてるなぁとか文末4連続は直そうとか。色々手直ししてから、時系列分析使って「これでいいね?」って自分に問えばOK。
 ググると作成者のインタビュー記事も出てくるから、どんな意図で作られたか知りたいならDL前に読んどくといいかも。

校閲ってどうやるの?

 そもそもそこからだよ我々。
 推敲や校正は学校の授業を応用していけるが、校閲なんて想像もつかない? なーんてことはなく、授業でやった「これはどうして段落が分かれているんでしょう」「この時の主人公の思いが読み取れる文章はどこでしょう」って教科書に線を引かされたアレ。あれそのまんま校閲作業に使えます。だから紙に印刷しようってわけ。きっとずいぶん昔なはずなので、環境を少しでも近付けて思い出しましょうってね。
 校正レベルの話もあるけれど、学校の授業でやってた文章理解のメソッドはそのまま「他人に伝えたいならこう書け」のメソッドでもある。なので校閲のタイミングでは文章理解のメソッドを裏返して、伝えたいことが拾えるならOK。逆に、メソッド通りに読むと誤解するところは要注意。特に一番伝えたい肝・本を出すほどまで入れ込んだ理由・是が非でも伝えたいところは、自分の熱量で目が曇りがちなので丁寧すぎるくらいでいいと思おう。
 作中キャラが誤解するのと読者が誤解するのは別物で、ミステリでもなければ読者の誤解は避けたほうがいい。何故なら誤解を訂正してくれるとは限らないから。あと単純に、騙されたくて読んでるとは限らないので、読者層によっては多大なストレスになります。
 あとはキャラ行動を抜き出してワープ人体構造上無理な行動してないか見るのもいい。やりすぎなくてもいいのでほどほどに。R18ものを書いているときは、濡れ場における手の数足の数その他諸々をよーくチェック。先達がしょっちゅう言ってるのでそのあたりはググろう。
 最後に、
 ・作中の歴史や世界観の表現で齟齬がないか
 ・キャラの心情を時系列的に抜き出したときに飛躍がないか
 ・風景描写などで見えないものを見ていないか
 ・会話やモノローグでキャラが知らないはずのことを話していないか
 この辺りをチェックして完了! お疲れさまでした。

余談:それでも不安な時

 諦めて入稿しな。手元に原稿あると無限に直せちゃうからさ。
 んで浮いた早割分でうまいものでも食べよう。