おじさんを焼く前に、2カ月間おじさんについて議論した 北九州市門司港・MOJiOJi(前編)
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福岡県北九州市、門司港のレトロな商店街「栄町銀店街」にオープンしたMOJiOJi(もじおじ)。おじさんの顔型で焼いたお菓子を販売するという新しい取り組みです。なぜ、おじさんなの? そもそもどうしてこのプロジェクトがスタートしたの? を、仕掛け人である合同会社ポルトCEOの井上夏樹さん、代表の菊池勇太さんのお二人にローカルツーリズム代表の糀屋総一朗が取材しました。
「新しい地域の産品」を作りたかった
糀屋総一朗(以下、糀屋):ポルトはもともとゲストハウスの運営などをされている会社ですが、なぜお菓子屋さんをやろうということになったんでしょうか。
菊池勇太(以下、菊池):もともとの課題意識として、「地域で何かを生み出している」ということがこの地域にはないなと思っていたんです。京都や別府などもそうだと思うんですが、観光地、その土地で消費することを目的として人が来るような場所だと、まずお客さんが来ないとどうにもならないんだな、というのをコロナで如実に感じました。
そもそも門司港には「これが名物だ」と言えるような地域特有の産品がありません。対岸の下関市では、フグが名物で、コロナで人が来なくなってからは下関で消費することから、域外に出荷することに切り替えて、通販をどんどんやって売り上げを作っていったんです。そういう、特産品のある地域だと「行けないけど買います」という接点も生まれるし、いざ移動が自由になったときにお客さんの戻りも早いように思いました。
糀屋:それは間違いないですね。
菊池:なので、「これが門司港のお土産だ」と言えるものを作りたいと思って模索していて。1件、昔ながらのお店でバナナようかんを作っているところがあったので、そこから事業承継をして残したいと思ったんですが、うまくいかなくて。もう1件、和菓子屋さんが作っている「もじっこ」というお菓子があって、これを残していきたいと考えたのですが、いろんな事情が複雑に絡んでいて結局うまく行きませんでした。それで、自分たちで新しいものを作っていくしかないな、と考えはじめました。
糀屋:地域の事業承継については、僕も今取り組もうとしたり日々考えたりしていますが、特に小規模な事業者さんになると、もうお金の問題じゃないんですよね。本当に難しいと思います。
菊池:残念ながら和菓子は残せなかったんですけど、まだ事業承継していかないといけないなと思っているお店はあります。それで何がいいかなと考えていたんです。で、お菓子の事業を全部井上さん責任者でお願いしますって無茶振りしました(笑)。
どら焼きは却下、では何を焼く?
糀屋:新しいお土産を作ることになって、どうやってまずアイディアを考えていったんですか。
菊池:まず、写真映え、インスタ映えするものじゃないと今の時代人が来てくれないだろうなと考えました。それから、もともと栄町で和菓子屋さんをやっていたお店の場所を居抜きで使わせてもらうので、和菓子をベースにしたいと思いました。あとは買いに来てもらうために、店頭で食べないとおいしくないもの、という制限をかけて企画しようとしてました。それで最初僕は、どら焼きがきてると思って推してたんですよ。
井上夏樹(以下、井上):言ってました。「どら焼きがきてるから!」ってずっと言ってて。
菊池:いや、コンビニでもいろいろ出てるし、絶対来てるんですよ。断面も含めて映えてるし、いろいろはさめて和洋折衷にできるしいいじゃないかと思って。門司港の焼印も押せるしいいなと思って。それでデザイナー含めたチーム3人に「どんなどら焼きにするか」という企画会議をしようとしたら、誰もどら焼きでモチベーションが上がらなかったというか(笑)。
井上:なんであんなに取り憑かれてたんでしょうね(笑)。
菊池:いやほんとに。それで一度まっさらな状態で考えようってことになって、「焼くモチーフが面白いほうがいいよね」という話になったんです。それで北九州在住で、ブロガーのトイロ(toiro)さんにも相談をしてたんですが、トイロさんに「私、めちゃくちゃおじさんが好きなんですよ」って言われたんですよ。
それでいろいろ話してたら、「おじさん焼きます?」っていう話になって。「おじさん焼くのいいかもしれない」と盛り上がってきたんです。トイロさんに「昔、私の娘がおじさんをイラストにしたんだけど、めちゃくちゃ可愛かったんよ〜」って見せられたイラストが、僕は全然かわいいと思えなくて……。
でもデザイナーの女性2人は「めちゃくちゃかわいくない?」って盛り上がってて、正直よくわからない方向に来たな、とは感じたんですが(笑)。それで井上さんに「おじさんを焼くかもしれない」って伝えたら、井上さんも「かわいいし面白いんじゃない?」って言うので、その方向で行き始めましたね。
最初はジャストアイディアで「おじさんを焼く」って決めたんですが、その後「おじさんはなぜかわいいのか」とか、かなりじっくり議論しました。
井上:たぶん2カ月ぐらいはおじさんについて話してたんじゃないかなと思います。そもそも、どういうスタンスでおじさんを焼くのかというところもしっかり決めないといけないなと思って。ふざけているわけではないし、おじさんがかわいいというだけでもダメだなと。敬意を持っておじさんをモチーフにして焼こうという話になりました。どういうスタンスを取るかでもだいぶデザインとかも変わってくるので……そういう意味でかなり詰めましたね。
菊池:世の中にあるおじさんにまつわるものをリサーチしたりとかしてて……
井上:「おじさんのシール買っちゃった!」みたいに、調べれば調べるほどおじさんのことを好きになってきちゃいました(笑)。
菊池:そこに2カ月ぐらいかかったという感じですね。
「初おじ」は菊池さんのお父さん
井上:トイロさんとデザイナーの2人がすごくおじさんで盛り上がっていたんですが、これはどこまで一般の人と同じテンションなんだろう? というのもしっかり考えました。おじさんを焼いたとして、はたして一般の人がどれだけ受け入れてくれるのかな? と……。
糀屋:世の中にない、未知のものを作るわけですから本当にわからないですよね。
菊池:おじさんが図鑑になっているものはあったんですが、お菓子になっているものはあまりなかったかなと思います。調べたんですがおじさんの型を作って焼くお菓子は他に見つからなかったので、日本で初めてかなとは思います。
ちなみにおじさんはスタンダードなおじさん、ちょっとガンコな感じのおじさん、スマートなおじさんと3おじさんを選定しました。おじ焼きの金型を作るのがオーダーメイドで、50万ぐらいかかってしまうので費用感の問題でいまはスタンダードなおじさんだけなんですが、今後増やしていきたいなと思ってます。
糀屋:スタンダードおじさんはどなたがモデルになっているんですか。
菊池:これは実は、僕の父親なんです。菊池正幸っていうんですけど、正幸のことをみんなが「かわいいよね」って言って……僕は全然そのかわいさはわからないんですけど(笑)。
糀屋:じゃあ、今後おじさんのバリエーションが増えていくかもしれないと。
菊池:そうですね。このまま売り上げが上げられるようになったら増やしたいと思います。今だといっぺんに10個しか焼けなくて、一気にお客さんが来てしまうとだいぶ待たせることになってしまうので、できれば増やしていきたいですね。
(構成・執筆・撮影 藤井みさ)
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