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いま、「面白い」があふれてる。白馬の魅力を考察してみた

山を駆ける競技「スカイランニング」「トレイルランニング」の選手であり、「白馬人力車」の事業責任者でもある上正原真人(かみしょうはら・まさと)さんの連載「トレイルランナー、白馬を人力車で駆ける。」。白馬での仕事の様子、競技での海外遠征の様子などを月イチで綴ります。今回は上正原さんの拠点である白馬について、彼なりの考察をしてくれました。

白馬は「面白い」の宝庫

観光地として年間約300万人が訪れる白馬。以前はスキー・スノボのウィンターリゾートとしてのイメージが強かったが、今年はグリーンシーズンが特に熱い。新たな施設やアクティビティが増え、アウトドアのみならずインドアの人まで楽しめる、誰もがワクワクする地になっているのだ。昨今のスキー離れで多くのスキーリゾートが集客に苦しんでいる中、白馬が成功している秘訣を勝手に紐解いてみた。

白馬の観光地としての歴史

白馬連峰の恩恵を受けながら白馬は観光地として発展を遂げてきた。それまで神聖なものとして登ることを禁じられてきたこれらの山々だったが、開国後まずは測量の目的で人々が登頂するようになった。

もちろん、2000m後半の山頂を目指すには相当の計画と準備が必要になる。そのため登山者は麓にある細野(現在の八方)地区の山案内人の家に泊まり、登山の計画を共に練った。そしてこの宿泊スタイルがやがて民宿という簡易宿泊型の営業形態へと発展し、細野は民宿発祥の地として栄えるようになった。

そしてその後スキーが伝来。戦前は山岳部などを中心に自ら登って滑り降りる山岳スキーが普及した。戦後になってリフト開発が進むとスキーの大衆化が広がり、冬のアウトドアアクティビティの代表格として多くの観光客が白馬に訪れるようになった。昭和33年には東洋一の規模を誇るケーブルリフトが完成。深夜から整理券を買い求めてゲレンデに長蛇の列ができるという今では想像つかない現象が起こった。

白馬は古くからスキーリゾートとして発展してきた

このように白馬は登山とスキーで昔から多くの観光客を呼び込んできたわけだが、ご存知の通りスキーブームは過ぎ去り日本各地のスキー場が危機を迎えている。廃業を余儀なくされたり、外国資本に移り変わるスキー場もあとを絶たないのが現状だ。白馬も平成6年をピークに観光客の数は減少が続き、さらにコロナの影響で訪日外国人が一切いなくなりピンチが叫ばれた。

しかし、ここで息を吹き返すのが白馬だ。行動規制が解除された今、待ってましたと言わんばかりに様々なサービスが生まれ、全国から人を呼び込んでいる。その共通項は「おもしろい」消費者も事業者も全ての人が関わり合い、この「おもしろい」を胸にスピード感満載でサービスを作り出しているのが特徴だ。その中のいくつかをご紹介したい。

山を活かした現代版アクティビティ

先人達がそうしてきたように、昨今のアクティビティも地形や自然を活かしたものが多い。しかし、登山やスキー、スノボのような準備もお金も体力も必要なものではなく、パッと思いつきで楽しめるアクティビティが流行っているようだ。山岳ランナーとしては、100%自分の五感を使って山を楽しんでもらいたいところもあるが……都会の人にそれをできる余裕があまりないのは承知なので黙っておく。

コスパ重視で自然が楽しめるサービスの筆頭は「山を見ながら〇〇」だ。山を見ながらサウナ。山を見ながらグランピング。山を見ながら人力車も。それほど山を眺めるという行為は特別なのかもしれない。確かに都会のコンクリートジャングルで仕事と時間に忙殺された現代人にとっては普段の光景とのギャップに驚くことは間違いない。実際に住んでいても365日毎日変わる山の景色は飽きないし、最高の癒しになっているのは確かだ。

人気を集めている白馬EXアドベンチャー

次は体験型アクティビティだ。これは自然を見るだけではちょっと物足りない、という若者や子供連れの家族に人気の印象。登山やスキー、スノボとのちょうど中間に位置しているイメージだ。例としてはマウンテンバイク、スノーモービル、乗馬、熱気球、キャンプ、SUPなどなど。白馬限定といったものはないかもしれないが、逆にないものはないというのが白馬の特徴かもしれない。この小さな村でどんな体験でもできてしまうのだ。

「ゴールデンタイム」を迎えている白馬

なぜこんなにもおもしろいサービスが短期間でたくさん生まれるのか。それは今、白馬がゴールデンタイムを迎えているからだ。あるサービスが人を呼び、そこに集まった人のうちの誰かがまた風を巻き起こす。ある種のバブル到来なのだ。そしてそのバブルを助長し継続的なものにしているいくつかの要因がある。

そのひとつがLINEを活用したオープンチャットだ。オープンチャットとは不特定多数の人が匿名で自由に参加することができる情報共有のグループである。白馬村のオープンチャット「THEDAY. HAKUBA」では「白馬の「今」がわかる」をコンセプトに毎日白馬に関する様々な情報がアップされる。

村で開催されているマルシェ

私が参加したのは今年の3月ごろで、そのころはまだ200~300人くらいの規模だったと思う。今では1500人に到達し、白馬の事業者、飲食店、住民、白馬好きな観光客など参加者のジャンルは多種多様。例えばこのオープンチャットにイベントの告知をすれば、白馬中の家とお店にチラシを配ったくらいの宣伝効果があるだろう。広告宣伝費0円でそれができるのだから、新規サービスがどんどん加速するわけだ。

オープンチャットを管理している佐藤さんは中古スノーボードの販売やオリジナルボードの制作を手がけるモンスタークリフの代表を務めている。白馬で面白い人といえば真っ先に思い浮かぶ人物だ。

「おもしろい」のベースにあるのは昔ながらの助け合い

新しいものが新しい人を呼び込み、目を見張るスピードで発展している白馬。しかし忘れてならないのはこういった発展は、今も昔も変わらない田舎の助け合いの文化の上に成り立っているということだ。いくらバブルと言え、パッと移り住んで何かを始めるのはかなりリスクが高い。それでもその決断ができるのは、村全体がかもしだすセーフティーネットの存在をみんなうっすらと感じているからだろう。

どんどん「面白い」が生まれる白馬。自分も挑戦していきたい!

困ったら誰かが野菜を分けてくれたり、空いてる部屋に住まわしてくれたり、仕事を紹介してくれたりしてくれる。こういった安心感があってこそ大きな挑戦ができる。細野の山案内人が白馬岳を目指す登山者に部屋を貸してあげたように、厳しい冬を生き抜くための助け合いの精神が今もなお息づいている。私はまだまだ支えられっぱなしだが、10年後くらいには逆の立場に立っていられるように頑張ろうと思う。

とにかく、今の白馬は熱いのでぜひ遊びに来て欲しい!

上正原真人
プロ山岳ランナー/白馬人力車代表/Mountain Addicts代表北アルプスがそびえる長野県白馬村で山を駆け巡ったり人力車を引いたりしています。目標は3つ。世界一の山岳ランナーになること。白馬の魅力を人力車を通じて発信すること。山岳競技で世界で活躍する選手を育成することです。

この連載はほぼ月1回更新予定です。お楽しみに!!

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