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事業承継は「全員が幸せに包まれる」素晴らしい仕事 事業承継通信社・若村雄介×糀屋総一朗対談2

事業承継に取り組む人、地域に残したい産業などを紹介し、これからの日本の産業のあり方について考えていく連載「産業消滅社会」。2018年に事業承継通信社を創業し、スモールM&Aに取り組む若村雄介さんと代表の糀屋総一朗の対談2回目は、若村さんが実際に事業承継の現場に入ってみて感じたことや、事業承継の流れについてです。

前回はこちらから!

ローラー電話営業で承継先を探した初回案件

糀屋総一朗(以下、糀屋):2018年11月に事業承継通信社を創業されて、実際に事業承継の現場に入ってみた感触というのはいかがですか。

若村雄介(以下、若村):やっぱりなんというか……すごく貢献感がありますね。初期にまず2つの案件をやったんですが、1つはリラクゼーション系の会社で経営破綻に近い感じで困っているところがあって、スタッフも抱えてしまっていて。僕らも練習という意味もあって、報酬抜きで引き受けたんです。

それまで民間資格を取る過程や記事作りで勉強してきたんですけど、実践では初めてで、とにかく2人で候補先をリストアップし、そこにローラーで電話営業をかけ、アポを取って訪問して提案しに行って……とやりました。それで結果的には、同業の強い会社に引き取ってもらえました。

もう1つは知り合いでプリスクールを運営しているところがあって、事業自体はすごくうまくいっているけどオーナーさんが体調を崩してしまっていて。大至急ということで、相手先をまたまたローラー電話営業で探したら、最終的に上場企業が引き受けてくれたんです。

最初はとにかく手探りで始めたと若村さんは話す

プロジェクトって最初の相談から最後は契約成立して、引き継ぎまでのレールを敷くところまでですが、この2つの案件で一連の流れを全部経験できました。それで気づいたことは、みんながハッピーになれるんです。売った側、引き受けた側、その会社にいたスタッフの方たちやお客さんも守られるんですね。だから最後、幸せに包まれるんです。これはすごくいいな!と。これをたくさんやっていきたい! という思いになって、そこからは考えもブレなくなりました。

糀屋:幸せに包まれる! 素晴らしいですね。

買い手は数多、売り案件をいかに見つけるか

糀屋:今取り組まれている案件はどのように受託していっているんですか。

若村:基本的には売り手からの相談からがほとんどですね。スモールM&Aのサポートは基本的に、売り手からのスタートです。逆に言うと、「いい事業があったら買いたい」という人は山ほどいるんですよ。だから買い手会社を見つけるのは難しくはありません。

どちらかというと、事業承継できる案件を見つける、探してくる、もっと言うと「相談された案件をちゃんと提案できる状態まで持っていく」、「持って行けていない案件についてアドバイスしながら一緒に整えていく」ということがけっこう多いですね。

糀屋:売り手は売りたいけど、なにから手を付けたらいいかわからない、的なところもありますよね。

若村:そうそう、その通りなんです。昨年までで成立した案件は20件を超えたんですけど、実際にはその20件の5倍以上の会社さんの相談に乗ってきたんですよ。

糀屋:そんなに!

若村:例えばですけど、いつか売りたいけど大至急じゃない、というオーナーさんに対しては、会社の様子を見させてもらう。オーナーが自ら実務を担当しすぎてしまっていて身動きが取れなくなってしまっている会社があればスタッフに仕事を任せ振っていく意識を提案したり。帳簿がグダグダになっていたら、いったんは毎月ごとに締めるようにして、定期的にモニタリングしていきましょうと提案したりとか。経営者の補佐か壁打ち相手みたいな関係になって、比較的関わりができている状態で、実際に事業承継のプロジェクトがスタートするということが増えてきましたね。

人と人の関わり、信用をまず大切にしている

糀屋:そうすると、はじめに考えていた経営者のサポート的なこともしているということですよね。

若村:ビジネス的なキャッシュポイントはあくまでM&Aが決まった時の仲介成功報酬なんですが、時にはその手前からも関わらせてもらう、という感じですね。僕と、共同経営者の柳の2人ともがそれぞれの企業さんに向き合っています。

糀屋:関わりをもってから売却までに平均的にだいたいどれぐらいの期間をかけているんですか。

若村:それは本当に、案件によるという感じですね。例えばですけど、ある地方で10店舗を展開している地元に根ざしたお弁当屋さんがあるんですけど。その市内では知らないものはいない、というぐらいのソウルフードになっているんですね。来年が創業50周年で、そこでオーナーさんは引退して事業を他の方に譲りたいという意向があるんです。

そういう要望をいただくと僕らとしても応援したくて。来年の引退に向けて、資料を整えていきましょう、毎月数字を締めたら一緒に確認していきましょう、というのをこの半年ぐらいやって、実際に毎月訪問して、一緒にご飯を食べながらお話もさせていただいていました。

そうやって続けるうちに、数字に現れない会社の素晴らしさも見えてきました。70代の社長ご夫妻が今後引退しても幸せに生きていけるシナリオも見えてきました。それで今月からM&Aに向けての相手探しをようやくスタートさせた、という感じです。

それから、これもとある町で人気だった国産大豆の在来種のみを使った豆腐屋さんの例なんですが、社長が、とある仲介業者に事業承継を頼んだら、社長の手元にはお金は残らない形になるが仲介手数料は払わなくてよい、というような提案をされていて。ちょっと訝しげに思って弊社にも連絡をくれたんですね。

それで僕が丁寧に状況を聞いていったら、弊社規定の手数料をいただいてもどう考えても社長の手元にもちゃんとそれなりのお金を残すことができるぞと。そこで信頼をいただき、受託して、これもようやく情報が整理できて方針を決めて、売却の相手探しは先月からスタートさせましたが、ここまで来るのには4か月ぐらいかかっています。

糀屋:相手によってはしっかり、ゆっくり時間をかけてという感じなんですね。

若村:そうですね。事情があって至急の時はすぐ相手探しを始める時もありますが、オーナーが高齢の方であっても急いでいない限りはじっくり信頼関係も築きながら準備します。期間的には相手探しに入るまでまず一定期間かけて、スタートしたら3か月から6か月でまとめる、というのがいまのところ平均的ですね。

スモールM&Aは仲介でないとまとめにくい

糀屋:改めて、M&Aの流れを伺いたいのですが。

若村:まずは事業を売りたいという方から相談を受けます。財務資料などから大体の売却目線があったら、資料情報など揃えます。社名がわからない概要情報を作ってそれをもとに譲受に興味がありそうな会社にアプローチをします。

ご興味のある買い手候補さんには秘密保持契約の上で、詳細情報を開示し、色々やりとりを重ね、その後トップ面談。そこで前に進めたいという場合、意向表明というオファーを出してもらいます。それを受けた場合は基本合意という契約を結びます。「婚約」のようなものですね。

そこから独占交渉に入り、デューデリジェンス(編集注:対象となる企業や投資先の価値、リスクなどを調査すること)を経て、結婚、すなわち最終譲渡契約の締結に進みます。

スモールM&Aはお見合い、結婚に似ています

デューデリジェンスは買い手側がやります。買い手側は大きな会社だと、経営企画室みたいな部門が主導、場合によってはその会社の顧問弁護士や顧問会計士がアサインされることが多いですね。売り手側は中小、零細企業のオーナーなのでそういう対応に慣れていないことが多いので、我々が情報を整えたり、サポートしたりすることもありますね。でそのようなプロセスを経て、最終的な契約に至るわけです。

糀屋:若村さんたちは、売り手の代理をしているという感じですか。それとも仲介ということなんでしょうか。仲介となると、売り手と買い手、ある意味利益相反ということもあるのかなと思うんですが。

若村:ほとんどが仲介ですね。案件によっては売り手、買い手のどちらかにつくことがありますが……。今まで数十件に関わらせて頂いている中で感じているのは、規模が小さくなればなるほど、仲介じゃないとまとめにくいな、ということなんです。

糀屋:それはどういうことなんですか。

若村:売り手と買い手に別の会社のアドバイザーがついて進めるM&Aと、仲介がまとめるM&Aは昔から両方あって、どっちがあるべき姿か、みたいな神学論争的な議論がずっとあるんです。僕はこの業界に入る前、仲介として売り手と買い手の双方から報酬をもらってしまったら、利益相反にならないのかなと思っていたんです。

でも、現場経験を積んでわかったんですが、大手同士のM&Aはファイナンス、数字の論理でやっていく感じなので、代理人が売り買いに分かれていていいんですよ。ロジックが大きな割合を占めているので。でもスモールになればなるほどオーナーの感情が大きな割合を占めていくんですね。金額条件以外の様々な要件があって、「この人は信じられるか?」とか、「安心してお客様や従業員を任せられるか?」とか。だから、本当にお見合いに近いですね。

糀屋:面白いですね。

若村:縁談だと考えたときに、売り手側のことをよくわかっているからこそ買い手側に魅力も足りない部分も強く伝えられるし、買い手側のお人柄や、シナジー効果ももよくわかるから売り手オーナーを安心させられる。そう考えると、仲介のほうがやりやすいんですよね。

糀屋:そういうことなんですね。

若村:売り手オーナーにとっては我が子のような事業を人様に譲るという一大事です。買い手側も経験がなければ、それはそれは大きな決断と投資です。進める中では双方が不安に駆られるタイミングも多いです。

それぞれの心に寄り添うからこそ感情の機微が読み取れますし、それをコミュニケーションで埋めて、双方に安心を提供していくことがこの仕事の本質だと思うのですが、大事なコミュニケーションに別の代理人が挟まれることで、伝えるべき温度感も薄くなり、時に情報がコントロールされることもあるんです。

僕達はとにかく誠実にやりたいし、やはりお見合いの要素が強いから、仲人として相互への理解が深ければ深いほどいいお見合いができると思っているので。できる限り仲介、かつフェアな条件で、両方がWIN-WINになるようなまとめ方をしたいなと思っています。会社を譲渡したあとの理念継承や、従業員の扱いや体制など、さまざまなな要素もからんできますしね。

糀屋:仲介業者はこの業界に必要ということですね。

若村:そう思いますよ。仲介をNGにしたら小規模M&Aはまとまらないし、この小規模のM&Aに売り手・買い手に分かれて参入しようとするM&A仲介会社もそうないと思います。上場しているようなM&A仲介会社は、少額手数料の案件はやれないですしね。

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