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うまくいかないことだらけで転びまくった2022年、でも結果オーライ!?

山を駆ける競技「スカイランニング」「トレイルランニング」の選手であり、「白馬人力車」の事業責任者でもある上正原真人(かみしょうはら・まさと)さんの連載「トレイルランナー、白馬を人力車で駆ける。」。白馬での仕事の様子、競技での海外遠征の様子などを月イチで綴ります。今回は年末にこの1年を振り返り、来年に向けての言葉を綴ってくれました。

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星占い曰く今年は「天下取りの年だ」と言われてたので、いつかなあと待っていたもののその時は来ず……気づけばもう年末。とにかくあっという間だった。怪我で競技やそれ以外でも悩まされた一年だったが、じっくり振り返って来年につなげていきたいと思う。

ちなみにただいま流行り病で自宅療養中。骨は弱いが、こっちの免疫はあると思っていたのに最後にやられてしまった。ちょうど大寒波が到来していて外にも出れないので振り返りをするにはいいタイミングかも。鼻水をすすりながら、よっしゃ振り返っていこう。

選手活動 けがに悩まされた1年

今年のハイライトは何と言っても骨折かな。3箇所計4本というワースト記録を打ち立ててしまった。他にもアキレス腱炎にも長い間悩まされ、今でもうずいたり収まったりを繰り返している。その結果、予定していたレースのうちほとんどを棄権してしまった。他の選手が活躍しているのを見ているしかできないのはとても悔しかったが、今となってはこれも全て必然だったのかなと腑に落ちている。

自転車での転倒などは運が悪かっただけかもしれないが、慢性的な故障には原因があるはずで、それを認識してトレーニングや休息、または生活スタイルまでじっくり考える良い機会となった。最初の頃は「早く治して練習を再開しなくては」と焦っていたが、鎖骨骨折からのアキレス腱炎というダブルパンチを食らったあたりから、もう抵抗しないほうが良いと悟った。

鎖骨には何本ものボルトが…

痛みが引いたからといってすぐに練習を再開せずじっくり休むこと。そしてウォーキングやスロージョグから始めて痛くないことを確認しながら徐々に量を元に戻していく。復帰するときは石橋を叩いて渡るような感覚が大事だと学んだ。あとはやはりコンクリートの上を走るのは向いていないということ。20kmの山行はなんともなくても、5kmのジョグをコンクリートの上で行うとすぐに痛みが出ることがしばしばあった。

練習よりも体のケアに重点をおくこと、焦りは禁物というマインドが備わったのでこれを忘れずに来年こそは継続してトレーニングできるようにしたい。

1ヶ月半の海外遠征

5月中旬から1ヶ月半ほど海外遠征を行った。ヨーロッパで開催されるGolden Trail World Sereise(GTWS) に出場するのが目的だった。世界トップレベルの選手が集まるレースでどこまで勝負できるのかワクワクしていた。コンディションはベストではなかったが、せっかくの機会なのでとにかく全力で挑んで多くを吸収して帰ってこようと思った。

初戦のZegamaではとにかく大会の規模、盛り上がりに圧倒された。まさかトレイルレースで人生最大の音量を聞くことになるとは。学生時代に短期留学で訪れたマルタ島のクラブをはるかに上回る音だった。山の上に集まった大観衆がブブゼラを鳴らしながら鼓舞してくれるあの瞬間は一生忘れないだろう。結果はというと、ボロボロ。後半は歩いてなんとかゴールにたどり着くといった形になってしまった。冬から春にかけて長い距離の練習をあまり積めていなかったこと、暑さに体が順応できていなかったことなど細かい要因は思いつくが、シンプルに世界との圧倒的な実力の違いを見せつけられた気がした。

山のスケールの大きさにも圧倒された!

遠征2レース目はオーストリアでのスカイレース。コースのテクニカルさや標高など好みのコースレイアウトだったのもあり、それなりに良いレースができたと思う。ただこの頃から脛の痛みを感じはじめており、密かに起爆装置が作動していた。

3レース目のMont Blanc MarathonはフランスのChamonixが会場で、この遠征で一番長く滞在した。ランナー、スキーヤー、アルピニスト、クライマー、パラグライダー(パラグライダーをする人の呼び名はそのままパラグライダーで良いのか?笑)など山を舞台に活動する様々な人が集まっておりまさに人種のるつぼだった。谷の両側に無数にトレイルが伸びて、その奥にはヨーロッパ最高峰のMont Blancがそびえたつ。とにかく全てが新鮮でワクワクが止まらない毎日だった。大会と関係なくてもまた訪れてトレーニングに明け暮れたりモンブランもいつか登りたいと思う。肝心のレースはというと脛の爆弾が爆発してしまい、メインであったシリーズ戦には出場できずに帰国することになった。

また、この遠征期間中、上田瑠偉選手と近江竜之介選手と一緒に練習や生活まで24時間共に過ごすことで大きな刺激をもらうことができた。よく環境が人を育てるというがまさにその通りだと実感した。

トップ選手との時間はかけがえないものになった

山などの練習環境もそうだが、一緒に生活する周りの人間もとても影響力が大きい。僕が代表を務めているランニングチーム・Mountain Addicts(後述)のメンバーでもいつかあんな感じで遠征できたらなと夢が膨らんだ。

白馬人力車について

春から本格始動ということで気合いを入れて始めたものの、結局今は稼動できていない。応援してくれている方々や乗るのを楽しみにしていたお客さんにはとても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。浅草で学生のころ引いていた時はなんともなかったのに、白馬の坂はやはり負荷が高かったのか春に背骨を骨折してしまった。自分が引くことができなくなり、考えられる選択肢は人を雇うということだったが、正直そこまでの勇気がなかった。

白馬を人力車でめぐるのは本当にいい体験だと思うのだが、体がもたなかった

遠征から帰国して経済的にも余裕がない状態で無理して拡大するよりも、自分の仕事を探す道を選んだ。競技に専念したいという気持ちとのバランスという点でも悩んだ。事業を拡大していったら選手を続けられるのだろうかと。見切り発車のわがままで支援者には迷惑をかけてしまったがしばらくは競技に専念できる形でのみの活動を考えている。そのうち主となって事業を引っ張ってくれる人を見つけたい。

Mountain Addictsメンバーとの時間

大人向けのガチ練習の場として始めたランニングチーム「Mountain Addicts」だったが、いつの間にかジュニアチームに様変わりを遂げた。でもこれはこれでとてもよかったなと思っている。個性豊かで将来が楽しみなメンバーがたくさんいて、和気藹々と練習している。月に2回の山での練習と週1度のオンライントレーニング、そして長野の子たちは水曜の陸上練習と顔を合わせる頻度も多くなった。

将来が楽しみな子たちばかり

棄権ばかりしている代表に代わって、大人も子供も各地の大会で大活躍してくれて誇らしい。来年はユース世界選手権に出場予定のメンバーもいるのでできたらついていきたいし、5年後、10年後に世界の舞台で一緒に走るのを楽しみにしている。それまで現役を続けるためにもしっかり怪我を治さなくては。

改めて自分をかえりみてみると……

先日、白馬南小学校で講演会でゲストとしてお話させてもらった。「上正原さんの活動や経験、山のこと、少年時代などなんでも自由に話してください」ということだったので悩んだ結果、「夢を追いかけること」というテーマで話をさせてもらった。

小学校で1時間も話すというのは自分にとっては大役だったので、それなりに時間をかけて話すことを考えた。その過程で自分の少年時代について振り返ることができ、自分の特徴を再認識できたのでとても良い機会だった。まず自分は夢を原動力に生きているということ。少年時代はサッカー選手を夢見て、今は世界一の山岳ランナーを夢見て生きている。たぶん現役を引退しても老後も、死ぬ直前まで夢を追い続けている気がする。

そして自身の性格についてわかったこともあった。超集中モードと注意散漫モードの2パターンが存在し、その差がとっても激しいということ。長期的な計画でもそうだし日常生活においても当てはまる。例えば、日常的なところだととにかく忘れぐせが多い。持ち物も忘れるしメッセージの返信も忘れるし、何をしようとしてたかもすぐ忘れる。

また山に行きたいなと思考が散ってしまったり……

財布を取りに家に帰ったのにゴミ袋が溜まってることに気づいて、ついでに持って行こうと袋を縛って新しい袋をセットした頃には財布を取りに戻ってきたことを忘れている。そして車に積んだゴミ袋もゴミステーションに出すのを忘れて夕方戻ってきたときに、あ。と思い出す。今この記事を書いてる間にもあれやらなきゃ、とか、次の休みはどこの山行こう。とかふと思って気づいたらパソコンのタブが10個も20個も増えてしまっている。とにかく考えがピョコピョコ生まれてきてしまい、1つに集中できないのだ。この注意力散漫さは山では命取りになるのでどうにかしなきゃ。

長期的にもそのきらいがあるようで。いろんな計画が生まれて消えてを繰り返している。簡単に言えば飽き性で三日坊主ということ。ただ、たまにどハマりすることがあり、そうなると今度は取り憑かれたようにひたすらに取り組む。これまでだとサッカーや山岳ランニングにどハマりしそれらが夢につながっている。来年は三日坊主になって他人を振り回さないよう、思いつきでの行動を抑える努力をしようと思う。もし半年経ってもその思いが消えなかったらそれはGOサイン!

白馬インターナショナルスクールでの仕事

そんなこんな(何が?)で実は秋から白馬インターナショナルスクール(HIS)で働かせてもらっている。今年の9月1日に開校を迎えて、今は岩岳にある仮校舎と寮をベースに約20名の生徒が学んでいる。自分はそこでクラブ活動や寮生活で生徒と関わったり、学校の施設管理などを担当させてもらっている。自身の中学生時代を思い出して懐かしいなあと思うこともあれば、最近の中学生はこうなのか!? とびっくりすることもたくさん。

学校の特徴はプロジェクト型学習やソーシャルラーニング、サステナビリティ等々たくさんあるが、アウトドア学習について少し紹介しようと思う。自分も白馬の自然に惹かれて移住してきた身なので、より一層の共感を持っている部分だ。自然のなかで学ぶ事や自然について学ぶことのメリットは様々な研究で実証されていると思うのでそちらは調べてもらうとして、ここでは持論をひとつ。

それは、自然という存在は何よりも絶対的であり、これに対応できる能力は万能かつ最強だという考えだ。都会の人工物に囲まれた環境で生活していると自然のありがたみも脅威も忘れてしまいがちだが、我々の生活は明らかに自然の上に成り立っているということを忘れてはならない。ひとたび大雪が降れば都内は帰宅難民で溢れかえるし、ゲリラ豪雨で川が氾濫したら何千世帯が住む場所を失うこともある。はたまた日照りが続けばダムの水が不足して電力不足に陥ってしまう恐れもある。

自然の存在を感じ、触れることは本当に大事だと改めて思う

今時はエアコンもあるし交通手段も発達しいるからそんな原始的なスキルなんて必要あるのか、と思う事なかれ。自然を尊敬し共生する術を身につけることは今も昔も絶対必要だ。そしてこの力があれば自然の上にちっぽけに成り立っている小さな人間社会での生きる術など後からいくらでも身につけることができる。「Nature doesn’t care you 」「There is no bad weather only bad clothing」HISのアウトドア主任のガイド(先生)がよく口にする言葉だ。うまく説明できないがとても心に響く言葉に聞こえた。

もうひとつ、自然と触れることの良いと思う点は癒しである。
利便性と引き換えにやたらと複雑化してきた現代社会では、個人が抱える悩みも多様でディープになってしまった。SNSでいつでも誰とでも繋がれる楽しさは時として逃げ場のない人間関係に囚われることにもなる。また物や選択肢が豊富すぎる環境は貧富の差を産んだり劣等感に繋がったりもする。そんなキリがない悩みも山に登れば……もとい、自然に触れることでふっと消えてしまう。スケールの大きさに圧倒されて自分が抱えている悩みなんてちっぽけだと気づくだろう。嘘だと思う人はとりあえず登山してみてくださいな笑!

実際にどんな活動をしているかというともうそれはたくさん。週4日もある体育に、モーニングミーティングは雪が降っても外で行い、毎学期行われるキャンプは回を重ねるごとにレベルアップしていく。先日のAutumnキャンプではそれぞれが70Lものリュックを背負って2泊3日の山行を行った。雨が降る中歩き続けてテントを張って自炊をして、文明のありがたみを感じるには充分ハードな経験だっただろう。

2023年の目標

まずは選手としてしっかりレースに復帰して結果を残したい。具体的には富士登山競走で優勝することをいちばんの目標に掲げている。海外の有名なレースにも挑戦したいし、時間とお金が許すならワールドシリーズを転戦したい気持ちもある。だが、復活の狼煙をあげるレースとしては日本の富士登山競走がうってつけだと思った。「日本でいちばん高い山をいちばん速く登る男」このかっこいい肩書きがどうしても欲しい。とにかくこれに全集中!!

生活も練習も焦らず、やることとやらないことをしっかり判別して、しっかり体をケアしながら、じっくりトレーニングに励んで、大きな舞台で頂点に立つ! 山あり谷ありだった2022年を糧に、大きな目標を実現していきたいと思う。

うまくいかなかったこともすべて糧にして、2023年もがんばります!

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