「現代のラグジュアリー」にフィットした製品をつくり、飲む人との距離をもっと近く SHOCHU X 橋本啓亮×糀屋総一朗対談3
様々な業界で新しい取り組みや挑戦を行っている人たちを、代表の糀屋総一朗との対談を通して紹介する連載「変革者たち」。焼酎の新しい形を提案するSHOCHU X株式会社の橋本啓亮さん(24)の3回目は、もっと一人ひとりの生活になじむブランドになっていくために、橋本さんが考えていることについてです。
「高級」「贅沢」の概念が変わってきている
橋本啓亮(以下、橋本):焼酎が好き、焼酎で面白いことをしたいと会社を立ち上げたのに、いつの間にか目先の売り上げに囚われていたことに気づいて。もっと目の前のお客さんに向き合って、人の手になじむ、生活の一部になるような商品にしていきたいなと今、模索しています。そういう視点から参考にしているというか、すごいなと思っている会社さんがあるんです。
糀屋総一朗(以下、糀屋):例えばどのような?
橋本:mitosayaさんですね。フルーツブランデーをたくさん作られているところなんですが、その会社の作るお酒自体が「フルーツブランデー」ではなく、「mitosaya」と呼ばれていたりと、早速ブランドになっているなと思っています。
日本って、瓶を作る会社がほとんどなくて、すでにある規格から購入して瓶を使うという形になってしまうんですが、mitosayaは瓶からオリジナルで、すごいなと。最低ロットでも3万本からになるので、既存のメーカーもなかなかオリジナル瓶を作ったりはできないんですが、そこも徹底しています。
糀屋:価格も500mlで13,200円。従来のお酒から考えるとものすごく高級ですね。
橋本:そうなんです。すごく攻めた値付けなんですけど、それでも「高い」という不満が出たりはしていないんですよ。それって、mitosayaが「今の時代の高級」の価値観にマッチしているからだと思うんです。
いま、高級、ラグジュアリーと言われるブランドもストリートブランドとコラボする取り組みがすごい増えてきているのもそうですけど、「高級」や「贅沢」が日常の延長線上にあるものになってきているんじゃないかと思うんです。そこを、ブランドをやっていく上で理解していかないといけないなと思ってます。
糀屋:その視点、すごく面白いですね。今までの「贅沢」と、現代の「贅沢」が変化している。
橋本:最近読んだ記事でも、とある社長さんが「昔は年に1回の海外旅行で贅沢をして、それ以外は日常だったけど、今はそれがなくなって日々の暮らしの中に幸せを見つけることが最高の贅沢になってきている」と言っていて、印象に残っています。「幸せの小口化」とでもいうというか。
糀屋:現代の贅沢、「モダンラグジュアリー」ということですね。
橋本:そうなんです。日々の暮らしの中に幸せ、贅沢を見つけるという意味で、mitosayaはそれを体現しているなとすごく感じていて。1本1万円を超えるお酒だとしても、暮らしの中に馴染むようなブランディングをしているんです。パーティーじゃなくて、家で1人、ないしパートナーと2人で良いお酒をしっぽり飲む、という需要にぴったりマッチしているんですよ。
そういうものを自分たちも大事にしていかないといけないな、というのは去年ぐらいに思ったんです。「高級焼酎」と謳っていると、もともと焼酎好きだった方は買ってくれますが、今mitosayaを買うような、新しく焼酎を面白がってほしい20〜40代ぐらいの人には届かないなと感じました。
目の前のお客さんにもっと向き合っていきたい
糀屋:すごく面白いですね。「高くしたら売れる」という視点では解像度がまだ低くて、お客さんが何を求めているのかを知って、もっとブランディングをしっかりやっていくということですね。
橋本:もちろん、「新しいことができない」という業界の課題から逆算していって、「高度数、高価格、長期熟成」で売っていくのも間違いではないんですけど、それは半分正解で、半分間違いというか。目の前のお客さんに向き合わないと、ここから先は成り立っていかないんじゃないかなと感じています。
みんなに受けよう、とは思っていないんです。でも「高級で売ってるブランド」だったり、「マーケティングで売ってるブランド」だとは思われたくない……実態として、今はそうなんですけど、それは絶対に変えていかないといけないと思います。でもWEB広告を出して、それなりに露出していけば、売り上げは上がるんですよ。ブランド構築と売り上げ、毎日そのせめぎあいです。
糀屋:目の前のお客さんに向き合う、トレンドを知るためにはどういった方法で情報収集をしていますか?
橋本:やっぱり飲食店さんですね。「今どのエリアが熱い」といったことも含めて、自分たちが買ってほしい20〜40代のお客さんがどういったお店に行って、何を求めているのか。積極的、意識的に話を聞きに行っています。
糀屋:そういったお店にSHOCHU Xの製品を置いてもらったりなどはしているんですか。
橋本:少しはあるんですが、現状だと9割がECサイト経由です。でも、お店に置いてもらって、実際に商品を見て、飲んでもらうのってめちゃくちゃ大事だと思っているので、もっと卸経由で置いてもらえるように頑張っていきたいなと思います。
糀屋:海外展開などは考えていますか。
橋本:たまたま声がかかったこともあり、いまはイギリスとフランスに少量ですが輸出しています。でもいまの会社のリソースを考えると、大々的に海外展開するようなことはまだ難しいかなと。まずは日本国内で、ブランドをしっかり作っていきたいと思っています。
いずれは自分で酒蔵をやり、焼酎における「獺祭」のような存在に
糀屋:ブランディングに軸足を置いてしっかりやっていくということですが、今後の展開はどのように考えていますか。
橋本:もっと大きくはしていきたいと思っています。そのための基礎固めを今やる、という感じですね。先ほどから言ってますが、今の状態で売上を上げていくのは違うと思うので。メンバーも増やしたいですが、本当に「SHOCHU X」を好きになってくれた人がメンバーとして参画してくれたら理想だなと思っています。
それから、将来的には自分でも酒蔵をやりたいなという思いはずっと持っています。自分たちで一から酒造りに取り組み、造る部分からブランディングをしていきたい。それをやっていかないと、中長期的には「本物」にはなれないと思っているので。
糀屋:どういう思いで作っている、などの造り手のストーリーもますます重要になってきていますしね。
橋本:そうなんです。あとは、日本酒のカテゴリが伸び続けているのは、獺祭の存在があると思っています。獺祭の人気が爆発して、日本酒が一気にブームになったところがあるので。だから「SHOCHU X」は日本酒における獺祭のように、焼酎を代表するような「言い出しっぺ」のような存在になりたいと思っています。
糀屋:それは熱いですね! 今後の展開も楽しみにしています。
橋本:思いはずっとぶれていなくて、あとはやり方だけだと思うので。頑張っていきたいです。
<糀屋の取材後記>
「自分が貫徹したい価値とは何なのか?」を突き詰めることが、人を感動させるプロダクトを作るために必要なのだ……ということを痛感した対談でした。
橋本さんが考えるラグジュアリーとは、 お金持ちだけの特別な贅沢ではなく、日常の中に自然と溶け込む幸せ。ラグジュアリーの現代的な解釈を見出しています。
届けたい人が何を本当に求めているのかに向き合い、それを掴み取り、プロダクト戦略に反映させていく。
とても当たり前のことですが、日々のビジネスの中で競合の動きや、伸び悩む業績などを目の当たりにすることで、たやすくその思い、姿勢がぶれてしまう。それは経営者であればわかってもらえる話だと思います。しかし、それでは確固とした世界観を纏った思想のあるプロダクトは作れません。
まさに自分が大事にしたい価値を見つめることでしか、顧客に選ばれるモノやサービスは作れないのだ……と、今回の対談を通して感じました。
(取材・構成・撮影 藤井みさ)
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