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山を走り、自然を感じる。秋の「白馬トレラン旅行」のすすめ

山を駆ける競技「スカイランニング」「トレイルランニング」の選手であり、「白馬人力車」の事業責任者でもある上正原真人(かみしょうはら・まさと)さんの連載「トレイルランナー、白馬を人力車で駆ける。」。白馬での仕事の様子、競技での海外遠征の様子などを月イチで綴ります。今回は、この季節にぴったりの「トレラン旅行」について語ってくれました。

行楽シーズンは白馬でトレラン旅行

都心では残暑が続く9月、一方白馬はお盆をすぎてから一気に肌寒くなってきている。秋になるにつれて、紅葉で山が赤く染まっていくのが楽しみな時期だ。紅葉を目当てに登山客が増える秋だが、実はトレイルランニングのシーンも1年で一番の盛り上がりを見せようとしている。白馬でも9月4日に白馬国際クラシックという1500人規模のトレラン大会が開催された。今回は山岳ランナーとして活動する私、上正原真人が自然を楽しめる白馬×トレラン×旅行のプランをいくつか提案しようと思う。

白馬を取り囲む山々とは?

おすすめプラン紹介の前に、まずは白馬とそれを取り巻く山々の全体像をざっくりと紹介したい。

まずはなんといっても、日本を代表する北アルプス。白馬岳、唐松岳、五竜岳など、白馬の西側には2000m後半級の百名山が多数そびえている。トレランの中でも高所山岳をレースの舞台とするスカイランニングにはもってこいのエリアで、私を白馬に引き込んだ元凶とも言える。シンボルでもある白馬岳には年に10回くらいは登ったり駆け登ったりしている。

ただ、身軽なスカイランニングスタイルでいけるシーズンは限られていること、相当な体力とリスクマネジメントのスキルが必要なことは留意しておいてほしい。ちなみに白馬駅から白馬岳山頂まで登って下ってくる往復の最速記録は2021年に私が打ち出した3時間32分。完全に自画自賛だが、登ったことのある人からしたら驚愕のタイムだろう(笑)。

トレーニング後に一息

一方で村の東側には1000m級の低山が連なっている。森林限界よりも下に位置しているため、グリーンシーズンは一面緑で覆われてしまうが、実は整備されたトレッキングルートがしっかりとある。一瞬開けた木々の間からは北アルプスがどんと一望できたりと、隠れたおすすめスポットなのだ。

私は山道を走りたいけどそこまで体に負荷をかけたくない時や、早朝しかトレーニングできない時などによく利用している。特に晴れた朝方は北アルプスが朝日に照らされてランニングの途中で絶景を拝むことができる。ただ熊の出没も多いので要注意!

もう一つ白馬の山の特徴としてあげられるのは、麓の町と山の近さである。2000~3000m級の山々がそびえる場所は日本各地に存在するが、ここまで人が暮らしている場所で山の迫力を感じ取れる場所は白馬くらいではないだろうか。私は家から山頂まで自分の足で行くことができるという点を何よりも魅力に感じている。とはいえ登山口まで10kmくらいは道路を走らないといけないが……(笑)。

街と山がこんなに近いのは白馬ならではの魅力

白馬の山を楽しむモデルプラン

ここからは今からのシーズンにおすすめの、「白馬×トレラン×観光」のモデルプランを紹介する。

1.唐松岳を目指す登山よりのプラン

まず一つ目はちょっと登山よりのプラン。目指す山は標高2696mの唐松岳。麓の八方尾根スキー場からゴンドラとリフトを乗り継げば、標高1600mほどまで簡単に行くことができる。もしくは車で黒菱林道を上れば標高1500mまで上がることも可能だ。

個人的には車で黒菱林道を上ることをおすすめする。なぜならゴンドラが始動するのは早くても午前6時半で、営業開始とともに大勢の登山客が一気に登ることになる。ハイシーズンの好天の日にはゴンドラに行列ができ、登山道も一部で渋滞することになる。しかし、車であればゴンドラの始業時間を待つ必要もなく、もっと早く登山を開始することができる。そのため山の中腹や山頂やでご来光を眺めることができる。晴れた風の弱い日には水面に反射した白馬三山を見ることができる、写真家に人気のスポットだ。

八方池からさらに尾根を登っていくと、本格的な登山スタイルが必要となる。唐松岳山頂までのコースタイムは往復で約10時間。トレランをやっている人はもう少し早く移動できると思うので、朝一で出発すればお昼すぎには下山することができるだろう。

雄大な景色を楽しみながら山を進む

下山したら周辺のお蕎麦やさんや定食屋さんでランチを楽しみ、日帰り温泉で登山の疲れを癒してはいかがだろうか。白馬の飲食店は14時や15時にランチ営業を終了してしまうお店が多いので、先にご飯を食べることを強くおすすめする。

2.行きは走って帰りは電車。ローカル満喫プラン

続いては時代をまたいで白馬を堪能できるプランをご紹介したい。かつての交易路「塩の道」とローカル路線「大糸線」を使ったコースだ。

塩の道は日本海の糸魚川と内陸の松本をつなぐ約120kmにも及ぶロングトレイルで、名前の通り海で取れた塩を内陸に運ぶための重要な交易路であった。街道沿いには宿場町や関所などが設けられ、道沿いにたくさんの賑わいを見せた。現代で言うところのちょうど高速道路とサービスエリアのようなものだろうか。

白馬村内の塩の道はすでにコンクリートで舗装されてしまっているため、かつての趣を感じ取るのは難しいかもしれない。しかし、ところどころに案内の看板があり歴史を学ぶことができる。また、小谷村まで進むと大部分が未舗装のまま残されており、五感で先人たちの生活ぶりを感じ取ることができる。自分もトレーニングでよく走るお気に入りのコースだ。

ただ白馬から小谷に向かって気持ちよく塩の道を走っていると、帰ってくるのにかなり大変な思いをすることがある。下り基調に任せて気持ちよく下っていると気づいたら10km、15kmと進んでしまっているのだ。Uターンして登り返すのはかなりの根性が必要になってくる。

行きはよいよい……となりがちだ

そこでおすすめなのがローカル路線の大糸線。信濃大町の「大」と糸魚川の「糸」を取って名付けられた路線だが、実際には塩の道と同様に糸魚川から松本までを繋いでいる。ローカル路線と言うと赤字や廃業といった言葉が頭に思い浮かぶかもしれない。事実その通り! 大糸線は大赤字であることは隠しようがない。自動車の普及に加え、ここ数年はコロナウイルスの影響で登山客も激減し利用者数は少なくなる一方だ。

しかし、ここで終わらないのがこの地域のすごいところ。持続可能な交通路線としてのあり方を模索している。先日行われた開通65周年のイベントでは多くの観光客と地元民と関係者が集まり大きな盛り上がりを見せていた。なにせ、北アルプスを一望しながら心地いいスピードで進む電車は乗っていて最高に気持ちいい。自分にとっては移動手段というより最高の癒しであるから何としても無くしたくはない。

行きは自分の脚力と体力を頼りに、帰りは文明の発展に感謝しながらローカル電車で戻ってくる。情緒に溢れたプランをぜひお試しあれ。

今年の9月は3連休が2回。まだ予定が決まっていないという人は、白馬を目的地の候補に入れてみてはいかがだろうか? きっと魅力にとりつかれることまちがいなしだ。

上正原真人
プロ山岳ランナー/白馬人力車代表/Mountain Addicts代表北アルプスがそびえる長野県白馬村で山を駆け巡ったり人力車を引いたりしています。目標は3つ。世界一の山岳ランナーになること。白馬の魅力を人力車を通じて発信すること。山岳競技で世界で活躍する選手を育成することです。

この連載はほぼ月1回更新予定です。お楽しみに!!

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