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産業消滅を阻止する、第三者承継「スモールM&A」という選択肢 事業承継通信社・若村雄介×糀屋総一朗対談1

このままでは、日本の、特に地域の産業は消滅してしまうのではないか。そんな危機感を持ち、ローカルツーリズム株式会社では地域の産業の「創出」だけでなく、「承継」にも取り組んでいこうと考えています。この連載「産業消滅社会」では、事業承継に取り組む人、地域に残したい産業などを紹介していきます。初回は2018年に事業承継通信社を創業し、スモールM&Aに取り組む若村雄介さんとの対談をお届けします。

事業創出だけではなく、事業承継を考えて

糀屋総一朗(以下、糀屋):今日はよろしくお願いいたします。

若村雄介(以下、若村):こちらこそです。まずは僕からお聞きしたいんですが、糀屋さんはどちらかというと今まで、地方で新規事業を生み出すことをやられてきたじゃないですか。事業承継に興味を持たれて、やっていこうと思ったきっかけというのは何だったんでしょうか。

糀屋:おっしゃるとおり、福岡県宗像市の大島で、いろいろと事業に取り組ませていただいているんですが、昨年の1年間だけで大島の宿泊施設が実質2件休業したんです。1件はオーナーの方が高齢で足を悪くして、2階に上がれない。もう1件はご病気で、働けない状態になってしまいました。島の宿泊施設は全部で10件ほどしかないのに、2件がなくなったら2割がなくなったということじゃないですか。これはやばいなと。

大島で事業に取り組んだからこそ、問題点が見えてきたと糀屋

若村:たしかに。しかも高齢の方が1人か2人で営まれているという宿が大半でしょうしね。

糀屋:そうなんです。それで、ちゃんと事業を承継していかないと、産業自体がなくなってしまうなと痛感して……。

若村:それは最近考えられたということですか?

糀屋:この半年で特に思いました。「今あるものをどうやって残していくか」という視点を持っていかないと、と思うようになりました。

若村:まさに大事な視点だと思います。今、日本にある中小企業の6割ほどが後継者がいないと言われていますしね。

糀屋:大島はもっと深刻で、漁業以外の産業はほとんど後継者がいない状況なのではないかなと思っています。このままでは、10年したら大島から産業がなくなってしまうだろうなと危機感を持っています。

そういう経緯で、今年の頭に「産業消滅社会到来の予感」という記事を書かせてもらったのですが、自分でも事業承継という課題に向き合うにあたり、先に取り組んでいる方にお話を聞かせていただいて、掘り下げていきたいなと思ったんです。

「後継者不在」の多さを目の当たりにして

若村:よくわかりました。まず、スモールM&Aを業界視点で見ると、50年前の不動産業界のような、黎明期っぽい雰囲気を感じます。中小企業庁登録支援機関じゃないと補助金を受けられない、というルールが整備されたのも最近ですね。それまでは「口利きしていくら」みたいなブローカーがゴロゴロしていたので……。ようやく少しずつ全体が整いはじめているなという感じを受けています。

糀屋:若村さんはもともとリクルートにお勤めだったんですよね。その頃から事業承継に興味があったのでしょうか?

若村:いいえ、まったくなんです(笑)。不動産、IT、ブライダルといくつかの業界を経験させてもらいましたが、一貫してクライアントに対峙する営業部門にいました。例えば不動産業界にいた時は、街の不動産屋さんから公団、大手ハウスメーカーやゼネコンまで、IT業界にいた時はマンションの一室でやっているようなスタートアップから誰でも知っている超大手まで、さまざまな企業さんと関わらせていただきました。

糀屋:本当にバラエティに富んだ取引先なんですね。

若村:そうなんです。リクルートには17年勤めたんですが、退職して、そのあと1年間ほど海外へ旅したり留学したりとモラトリアム期間を過ごしました。ちょっとやってみたかったのもありまして(笑)。その後はセブ島に移住して留学エージェント会社をつくったりもしたんですが、ある時リクルート時代の後輩と久しぶりに再会して、なにか事業を一緒にやりたいねという話になったんです。

営業力と知識を活かして起業した若村さん

糀屋:留学エージェントとは別にまた起業されたですね。

若村:はい、留学エージェント会社の運営は既に知人に任せていて、その後取引先だった語学学校の役員を一年ほどさせていただいて、その退任が決まった頃でした。 新しい事業を作ろうと思っていたタイミングで共同経営者になる柳隆之と再会したのです。

2人で話していて共通していたのが、「仕事で一番面白かったのは、オーナー経営者のサポートだよね」ということ。中小企業のオーナー経営者って、資金や人材などのリソースが不完全な中で、それでもリスクを取って事業をしている素敵な方ばかりです。自分たちは会社員として複数の業界経験識や、汎用的なビジネススキルを身につけてきたので、中小企業のサポート人材としては動けるなと思ったんです。なのでまずは「オーナー経営者をサポートする」というテーマで考えていました。

自分達としては長く法人営業、営業マネージャーをしてきたこともあり、中小企業の営業部門をサポートするような感じにすればすぐに仕事になる気がしていました。多くの中小企業に「営業力のある営業部隊がほしい」というニーズはありますしね。

糀屋:リクルートで鍛えた営業力があれば、引き合いは大きそうですよね。でもそこを伸ばすのではなく、事業承継の方向に行ったんですね。

若村:そうなんです。起業構想を色々と膨らませている時に、たまたま別の友人が事業承継の勉強をしていて「すごく面白いテーマだよ」と言われてちょっと調べたんです。そうしたらさっき糀屋さんが言っていたように、日本の中小企業はざっと380万社あるんですけど、そのうちの245万人の経営者が70代、その半数の127万社が後継者不在、今後大廃業時代に入るぞということがわかったんです。

糀屋:今、既に言われ始めていますが、かなり大きな日本の課題ですよね。

若村:そうなんですよ。事業を譲る(継承する)側から見ると、親族への承継、従業員などへの承継、それから第三者への承継、これがいわゆるM&Aですね。もしくは誰にも承継せずに廃業。この4つの選択肢しかなくて、親族や従業員への承継は今後増えていくことは現実的には考えにくい。廃業を防ごうと思ったらもう、第三者承継以外ないんですよね。

かといって、至るところに第三者承継のサポーターがいるかというとそうでもない。零細企業のM&Aを手伝っている会社というのは相対的に少ないんです。既存のM&A仲介業者では1件の最低手数料が2000万円を超えるような会社が主流で、零細企業だと依頼できません。

だからこそニーズはあると思ったし、社会貢献にもなるし。あと僕たちは金融や法務財務の専門知識はないけど、この分野なら自分たちの営業交渉力を活かせるはず、と思って2018年11月に「事業承継通信社」を立ち上げたんです。

はじめはメディアをやるつもりだった

糀屋:「通信社」という名前は、メディアを意識されているということですか。

若村:まさにそうで、始めは小規模企業の第三者事業承継、すなわちスモールM&Aのお手伝いをしながらも、メイン事業としてはメディアを作って発信しよう、というつもりだったんです。情報発信していきながら、事業承継を手伝い、メディアの方で広告も獲得して……と考えていたんですけど、やってみたら時間もお金も相当かかるなと改めて感じまして。で、一旦広告収入モデルは諦めました。記事はずっと作ってはいますが(笑)。

メディアにもいずれもっと取り組みたいという若村さん

糀屋:拝見しましたが、すごくしっかりしていると感じました。

若村:ありがとうございます。あとはちょうど中小企業のM&Aがトレンドとして盛り上がってくるにつれて、大手の会社が資本を入れてメディアやプラットフォームを作りはじめていた頃でもあったんです。だからその土俵で勝負するんじゃなくて、僕らは実際の事業承継を手伝う方で頑張ろう、と設立して1年で切り替えた感じですね。

糀屋:でもメディアの方を拝見すると、少しずつ更新はされてますよね。

若村:いえいえ、あまりできていません(笑)。実は「事業承継通信」と「M&A通信」という2つのメディアがあるんですけど、実際にスモールM&Aをお手伝いし始めると、忙しくてメディアにはなかなか力を入れられなくて……どこかのタイミングではちゃんとやろうと思ってるんですけどね。

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