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「ファシリテイテッド・コミュニケーションとは何か」:FCの分類基準をめぐる問題

ファシリテイテッドコミュニケーション(FC)とは何か

ファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)という語は、ややこしい。その定義は語を使う人や場面により異なっていたりする。その定義の多様さとややこしさには、いくつかの要因があるように思う。時代を経てFCが無効であると明らかになるにつれ、FCという語がが無効なコミュニケーション介助法を意味するようになったのがひとつ。もうひとつは、FCに類する無効なコミュニケーション介助法が、名称や形態を変え次々に出現した経緯が関連している。あともうひとつ、有効な補助代替コミュニケーション(AAC)とFCのような無効なコミュニケーション介助法の形態が一見似ていて、見分けるのが困難な場合が多いことだ。

FCの歴史

のちにFCと呼ばれるようになる(無効な)介助法は、オーストラリアのビクトリア州でローズマリー・クロスリーにより開発された。クロスリーは、この介助法を使うことにより、コミュニケーションや知能に障害のあるとされてきた子供達が実は正常な言語コンピタンシーがあったり、標準以上の知能を有するのが明らかになると主張した。まもなく、クロスリーの無効な介助法を通して性被害等が捏造されるようになり、初期からFCは問題視された (Heinrichs, 1992; Jacobson et al., 1995)。当時のFCは、コミュニケーションに障害のある人が、ファシリテーター(介助者)に身体を支えてもらうなどのサポートを通して、キーボードやコミュニケーション・ボード(文字盤など)の文字、絵、物体を指していくコミュニケーション介助法と定義されている (Biklen et al., 1992)。

FCはダグラス・ビクレンにより米国に持ち込まれた。FCは全米で注目を浴び、広まった。しかしFCはコミュニケーション介助法としての効果を実証できないばかりではなく、豪州で起こったのと同様に誤った性被害告発等が続き問題視された (e.g., Boynton, 2012)。

その後、多数の研究および系統的レビューが、FCを介して表出するメッセージの発信者は障害者ではなく介助者であることを示した (Hemsley et al., 2018; Jacobson et al., 1995; Mostert, 2001, 2010; Probst, 2005; Saloviita et al., 2014; Schlosser et al., 2014; Wehrenfennig et al., 2008)。FCは障害者の声を捏造し、障害者の権利を侵害し、周囲の人々をも傷つけ、また、有効な介助法へのアクセスを阻害する。FCは無効であり、かつ有害であることが明らかにされた。

FCに類する名称の異なるコミュニケーション介助法

FCの無効性と有害性が明らかになる一方で、FCに類する同様に無効なコミュニケーション介助法が次々に開発された。たとえば、Rapid Prompting Method (RPM) と呼ばれるコミュニケーション介助法。初期のFCは、ファシリテーター(介助者)に主に腕や手などの身体の一部を支えてもらいながら文字盤の文字を指していくという形態だったが、RPMは文字盤のほうを介助者が支え障害者が指していくというものだった。しかし、RPMも障害者がメッセージの発信者となるのではなく、介助者が障害者の身体に触れずに、様々なプロンプト(キューイング)により障害者を指す文字へと誘導していくというFCと同様の問題を孕んだものであった。近年の研究により、RPMを介して紡がれるメッセージも介助者が発信するものであり、FCと同様に無効な介助法であることが明らかになった (Hemsley, 2016; Lang et al., 2014; Schlosser et al., 2019)。

RPMのように世界で無数に生み出されてきたFCに類する無効なコミュニケーション介助法を推進する人々は、「FCとは形態と名称が異なるのだから、これはFCではない」と主張する。一部を挙げると、Spelling to Communicate, Supported Typing, Assisted Typing, Hand-over-Hand, Speaking with Eyes, 指談、指筆談、ソフト・タッチング・アシスタンス、あかさたな話法、など。どれも紡がれるメッセージの実の発信者は介助者である。

そのようなFCと同様の問題を抱えたコミュニケーション介助法を前に、「これはFCだ」という声が上がるとき、その意味するところのものは「これはFCと同様の無効で有害な介助法だ」ということだ。そこに、「いや、FCとは介助者が障害者の手を持ち文字盤の文字を打っていくものだから、これはFCではない」という反論が寄せられるのも、新たな名称を冠したFCに類する介助法が出現するたびに、繰り返されてきたことだろう。

AACとの見分け方

もうひとつのややこしいこと。有効な補助代替コミュニケーション(AAC)として確立している介助法とFCが混同されがちある。AACと無効な介助法であるFCとが混同されるのは、無効な介助法を広めようとする人達が、決まって「このコミュニケーション介助法はAACの一種です」と主張するせいもあるが、有効なAACと無効な介助法の形態が一致しているせいもある。同じに見えるのだ。

たとえば、文字盤を使っていればFCなのかと言えば、全然そんなことはない。文字盤を使ったコミュニケーションは障害者本人がメッセージの発信者であるなら、障害者の自立した情報発信であり、FCではない。介助者が障害者のそばにいて、メッセージの実質的発信者となっている場合は、FC(に類する介助法)だ。障害者がメッセージ内容を紡いでいるなら、有効なAACであり、介助者が紡いでいるなら無効であり、FC(に類する介助法)である。

もうひとつ例を挙げる。聴覚走査法(Auditory scanning)を使っていれば、有効なAACなのかと言えば、全然そんなことはない。「あ、か、さ、た、な」と介助者が読み上げる。障害者が「な」でシグナルを出す。「な、に、ぬ、ね、の」と読み上げる。「の」でシグナルが出され、「の」が確定される。このプロセスを繰り返すことで障害者が自らのメッセージを紡いでいく。ここまでなら有効なAACだ。聴覚走査法をやっているようでありながら、介助者が先読みや水増しを始めたら、メッセージの発信者は介助者へと切り替わり、FCと化していく。「あかさたな話法」と呼ばれるものと化す。もはや有効な聴覚走査法ではない。

AACとFCの違いを Travers et al. (2014) は以下のようにまとめている。

  • AACのゴールは他者から自立し機能的コミュニケーションを達成すること。FCのゴールは他者に依存すること。機能的コミュニケーションとは、本人が言いたいことを伝えられ、ニーズを満たせることであり、他者に依存するコミュニケーションとは、他者がメッセージの発信者となり、本人による機能的コミュニケーションに至らないこと。

  • AACの土台となる理論は確立された科学的コンセンサス。FCの土台は奇跡や神秘などであり非科学的。(実は無効な)コミュニケーション介助法を得た障害者が、突如として高度に知的で複雑な言葉の表出が始まる様子が奇跡的・神秘的トーンで語られるものの、エビデンスも学術的に確立した理論も示されないのがFCの特徴。

  • AACのテクニックはエビデンスに基づく。FCのテクニックは不透明で漠然としており、再現性がない。

  • AACの成果は機能的コミュニケーションであり、その進展はゆっくりではあるが、可変性があり、真正のもの。FCの主張するところによると、FCは即時に効果を成すとするが、その主張には信ぴょう性もエビデンスもなく、合成された偽のもの。

FCの定義と分類基準が追いつかないところに無効な介助法が入り込む

そういう状況であれば、「FCや類するもの」(FC and its variants) などというまどろっこしい表現をせずに、それら全てを包括する新たな名称を作るとよいのではとも思われる。障害者の声であると主張しながら介助者がメッセージを紡ぎ、無効で有害で、障害者が自らの本当の声を伝える権利を侵害するコミュニケーション介助法を一括して呼ぶ言葉が必要だ。FCを巡る用語と分類基準に関する問題は、政策や個人といったあらゆる決定の場において、エビデンスに基づいた慣習を浸透させていく上での障壁となり得る例のひとつであることが、既に指摘され問題視されている。

This same issue may also occur in communication practices where EBPs such as functional communication training sound relatively similar to unsupported or dangerous practices such as FC. This may be exacerbated by deliberate rebranding of unsupported practices such as FC to “supported typing,” “typing to communicate” and so forth (see Travers, Tincani, Thompson, & Simpson, 2016). Thus, terminology and classification issues can present barriers to the dissemination of EBPs across decision-making levels.

Paynter et al., 2022

実際のところ、FCに関するあれこれが深刻な問題として認識され始めたのがFCを発端としてのことであり、そのためFCという名称が無効なコミュニケーション介助法を指すものとして認識され比較的広く使われるようになっている。似非科学が入り込む隙間を与えないためにも、不当なコミュニケーション介助法とエビデンスに基づくコミュニケーションを鑑別する基準は、名称とともにもっと洗練される必要がある。

References

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Biklen, D., Morton, M. W., Gold, D., Berrigan, C., & Swaminathan, S. (1992). Facilitated communication: Implications for individuals with autism. Topics in Language Disorders, 12(4), 1.

Boynton, J. (2012). Facilitated Communication — what harm it can do: Confessions of a former facilitator. Evidence-Based Communication Assessment and Intervention, 6(1), 3–13. https://doi.org/10.1080/17489539.2012.674680

Heinrichs, P. (1992, February 15). Suffering at the hands of the protectors. The Sydney Morning Herald. https://www.smh.com.au/national/suffering-at-the-hands-of-the-protectors-20090821-esuq.html

Hemsley, B. (2016). Evidence does not support the use of Rapid Prompting Method (RPM) as an intervention for students with autism spectrum disorder and further primary research is not justified. Evidence-Based Communication Assessment and Intervention, 10(3–4), 122–130. https://doi.org/10.1080/17489539.2016.1265639

Hemsley, B., Bryant, L., Schlosser, R. W., Shane, H. C., Lang, R., Paul, D., Banajee, M., & Ireland, M. (2018). Systematic review of facilitated communication 2014–2018 finds no new evidence that messages delivered using facilitated communication are authored by the person with disability. Autism & Developmental Language Impairments, 3, 239694151882157. https://doi.org/10.1177/2396941518821570

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Lang, R., Harbison Tostanoski, A., Travers, J., & Todd, J. (2014). The only study investigating the rapid prompting method has serious methodological flaws but data suggest the most likely outcome is prompt dependency. Evidence-Based Communication Assessment and Intervention, 8(1), 40–48. https://doi.org/10.1080/17489539.2014.955260

Mostert, M. P. (2001). Facilitated Communication Since 1995: A Review of Published Studies. Journal of Autism and Developmental Disorders, 31(3), 287–313. https://doi.org/10.1023/A:1010795219886

Mostert, M. P. (2010). Facilitated Communication and Its Legitimacy — Twenty-First Century Developments. Exceptionality, 18(1), 31–41. https://doi.org/10.1080/09362830903462524

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Schlosser, R. W., Balandin, S., Hemsley, B., Iacono, T., Probst, P., & von Tetzchner, S. (2014). Facilitated Communication and Authorship: A Systematic Review. Augmentative and Alternative Communication, 30(4), 359–368. https://doi.org/10.3109/07434618.2014.971490

Schlosser, R. W., Hemsley, B., Shane, H., Todd, J., Lang, R., Lilienfeld, S. O., Trembath, D., Mostert, M., Fong, S., & Odom, S. (2019). Rapid Prompting Method and Autism Spectrum Disorder: Systematic Review Exposes Lack of Evidence. Review Journal of Autism and Developmental Disorders, 6(4), 403–412. https://doi.org/10.1007/s40489-019-00175-w

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Wehrenfennig, A., Surian, L., & Wehrenfennig, A. (2008). Autism and facilitated communication: A review of the experimental studies. Psicologia Clinica Dello Sviluppo, 12(3), 437–464. https://doi.org/10.1449/28487

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