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日本語翻訳の功罪

よく日本の文化は「翻訳文化」と言われる。

実際のところ、明治時代にものすごい勢いで、主にヨーロッパ文化の書物なんかを翻訳しまくったので、ほとんどすべてのことが日本語だけで学べるようになってしまった。

その点、例えば東南アジア諸国なんかだと母国語しか知らないようではある程度高度な専門的な学問を勉強することはできない。
なぜなら、教科書が翻訳されてないから、原語で学ぶしかない。

それに対して、ある日本人ノーベル物理学賞受賞者も、自分は英語は全然できなくてずっと勉強する気もなかったと言うコメントをして話題になったことがあるけど、それぐらい翻訳の範囲が広がりまくっている。

ただし専門的なことをする場合、分野にもよるんだけれども、原語がちゃんと理解できてないと、全く違う意味とか、かなりずれた解釈をしてしまうことが多々ある
いや、それどころか全く真逆の解釈をしちゃうことすらあるので非常に危険なんだよね。

特に最近ではAIによる機械翻訳が、多くの翻訳者がどんどん失業しちゃうほど超優秀になってきているから、みんな気軽にネットとかの翻訳サービスを利用しているはず。
簡単な内容ならそれでいいかもだけど、よっぽど気をつけないと今言ったようなリスクが、待ち受けている。

その 一例として、昨夜たまたま読んでいたバートランド・ラッセルのエッセイ集からちょっと面白いと思ったパラグラフを引用すると、

Psychologically there are two dangers to be guarded against in old age. One of these is undue absorption in the past. It does not do to live in memories, in regrets for the good old days, or in sadness about friends who are dead. One's thoughts must be directed to the future, and to things about which there is something to be done. This is not always easy; one's own past is a gradually increasing weight. It is easy to think to oneself that one's emotions used to be more vivid than they are, and one's mind more keen. If this is true it should be forgotten, and if it is forgotten it will probably not be true.

”Portraits from Memory and Other Essays”

これを、ある翻訳ソフトで訳してみると、

心理学的には、老年期には2つの危険がある。そのひとつは、過去への過度の傾倒である。思い出に浸ったり、昔を懐かしんだり、死んだ友人を悲しんだりするのはよくない。人の思考は未来に向けられなければならない。自分自身の過去が徐々に重みを増してくる。昔は自分の感情が今よりもっと生き生きとしていた、自分の心がもっと鋭かった、と自分で思いがちだ。もしそれが本当なら忘れるべきだし、忘れたとしてもおそらく真実ではないだろう。

DeepL

ま、だいたいこれで内容はわかるかな。
でも、なんとなくおかしいところが散見する。
そこで、きっちり訳してみると、

精神的な面で言うと、老年期には警戒すべき二つの危険がある。そのひとつは、過去への過度のこだわりである。旧き良き昔を懐かしんだり、亡くなった友人たちのことを思って悲しんだりと、過去に浸って生きていくのはよくない。人の思考は未来や今なすべきことに向けられるべきである。しかし、これはそう簡単なことではない。と言うのも、自らの過去というものは徐々に重みを増してくるものだからだ。昔は自分の感情は今よりもっと生き生きとしていた、思考力ももっと鋭かったなどと思いたいのは人の常である。だが、もしそれが本当だったとしても忘れるべきだし、忘れられるぐらいなら多分実際にはそうでもなかったのだろう。

景丸 Jr. 訳


ね、こんな短いパラグラフでも、AI訳は結構省かれてたり文脈がぶち切られていたり曖昧だったりするのがわかるでしょう。

チャットGPTなんかでもよく感じるけど、今のAIってすっごい知ったか的だよね。
堂々と知ったかぶりして見事に本当らしい嘘八百を並べ立ててたりする。w


一時期、SNSとかハウツー物系動画なんかで、全部AIにお任せしてタダで記事が書けまくれる!的なおめでた情報が流れまくってましたが、大丈夫だったのか、ああいうの信じ込んで実行してた人々?マジ。

拙者も一度試してみたけど、基本知識からして間違っているのがあったりでプルーフ修正しまくらなくてはいけなくて、かえって時間と手間がかかってしまって、こりゃ使いもんにはならないわと思い、AIにコンコンと正確な情報を教えてやりましたが、再度やってみても大してお利口にはなってなかったす。

AIがテクニカルな文章以外の人間的な文章を完璧に訳せるようになるまでにはまだまだ時間がかかりそう。
ただし、おおまかな内容を掴むには機械翻訳はすごい便利。
特に日本語というのは、ざーっと内容を見るには最も優れた言語じゃないかと思う。(英語やフランス語で概略を掴むのは、日本語の何十倍も面倒くさいw)

ということで、あなたも翻訳されたものを丸呑みしないよう、お気をつけくだされば幸いです。

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