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〜第5章〜 アルバム全曲解説 (9)B面-3 Counting out Time

歌詞はこちら

アルバムのB面冒頭からはじまった回顧3部作の最後は、レエルの初体験を回想する歌です。この曲は、Headly Grangeのセッションにピーター自身が原案を持ち込んで作られたものです。つまりこの曲は、アルバム中唯一の、歌詞も曲もガブリエルが作った曲とされています。Headly Grangeのブートに当時のセッションが残されていますが、仕上がったバージョンはこのときのセッションとはほど遠いコミカルな雰囲気となっており、途中段階で相当な変更が加えられていることがよくわかります。またこの曲は、アルバムに先だってシングル盤としてリリース(*1)されました。



【テキスト】【歌詞】とその内容

この曲についての【テキスト】は、前のインストゥルメンタルHareless Heartの説明の最後に、たった1文しか書かれていません。

The palpitating cherry-red organ was returned to its rightful place and began to beat faster as it led our hero, counting out time, through his first romantic encounter.
脈打つチェリーレッドの臓器は本来の場所に戻され、主人公を導くように速く鼓動し始めた、彼の最初のロマンチックな出会いを、時を数えながら。

【テキスト】

あとはすべて【歌詞】となるのですが、さすがにこれでは消化不良だったと思ったのか、ピーターはライブの【MC】ではこんな語りをしているのです。

Which brings him to the memory chambers of his first romantic adventures: exciting subject. This particular hero, Rael, had purchased a book entitled ‘Erogenous Zones and Difficulties in Overcoming Finding Them’. After many months of serious study, the moment of realization came; and he found himself an opposite number and completed his entire numerical motions in a mere 78 seconds. This magnificent piece of masculine performance left his opposite number a little less than titillated – I’ll rephrase that – a little less than extremely excited.
そこで彼は、初めて恋愛の冒険をした、あの部屋のことを思い出したんだ。エキサイティングな件だ。この特別なヒーロー、レエルは「性感帯とそれを見つける難しさ」というタイトルの本(2)*を購入していた。何カ月も真剣に勉強した後、ついに理解の瞬間が訪れた。そして彼は相手を見つけ、わずか78秒ですべての動作を完了させたんだ。この見事な男性的パフォーマンスは、彼の相手役を興奮させたとは言い難かった。いや、言い直そう。全く物足りなかったのだ。

【MC】The Annotated Lamb Lies Down on Broadway

このときの【MC】はいろいろバリエーションがあったようで、ピーターは、ちょっと卑猥な仕草をしたり、ステージ上のマイク・ラザフォードやフィル・コリンズをいじったりして、笑いをとっていたようです。

また、この歌詞はシングルカットする曲としてよく練られているのだと思います。つまり、レエルのストーリーのことを全く知らなくても、よくある初体験の失敗を、ちょっとコミカルに(アメリカを意識していたにしては、かなりのイギリス流ユーモアだと思いますが…)表現した歌として解釈できるようになっているわけです。【歌詞】には78秒とか、買った本のタイトルとかは全く出てこないのです。

Found a girl I wanted to date
Thought I'd better get it straight
Went to buy a book before it's too late
Don't leave nothing to fate
I studied every line
Every page in the book
And now, I've got the real thing here
I'm gonna take a look, take a look
(This is it, Rael)
デートしたい女の子を見つけたよ
はっきりさせようと思った
手遅れになる前に本を買いに行ったよ
運命に任せてはいけない
一行一行全部
本のすべてのページを勉強したさ
そして今、本物を手に入れた
見てみよう 見てみよう
(これがそれだよ、 レエル)

【歌詞】

Look, I've found the hotspots, figures one to nine
Still counting out time
I got my finger on the button
Don't say nothin'
Just lie there still and I'll get you turned on just fine
ホットスポットを見つけた、図1-9
まだ時間を数えてる
ボタンに指を置いて
何も言わずに
そこに横たわれば君のスイッチを入れられるんだ

【歌詞】

Honey, get hip! It's time to unzip
To unzip, zip, zip-a-zip-a-zip
Whipee!
ハニー、腰を上げて! ジッパーをおろす時が来た
ジッパーを下ろして、 下ろして、下ろして…
ワオー!

【歌詞】

こう歌われて、いよいよ「行為」に及ぼうとするところで、あのスティーブ・ハケットの、なんともいえない気の抜けたような音色のギターソロが入り、そして結果が歌われるのです。あのギターソロは、そういう意味だったんですねえ…(笑)ギターソロの間に挿入されるかけ声みたいな歌詞も、まあ相当な皮肉ですね。

Take it away Mr. Guitar
Move over Casanova
ギターさん、ヨロシク
カサノバ以上だぜ

【歌詞】

I'm counting out time
Reaction none too happy
Please don't slap me, I'm a red-blooded male
And the book said I could not fail
I'm counting out time
I got unexpected distress from my mistress
I'll get my money back
From the bookstore right away
時間を数える
リアクションはあまり嬉しくない
お願いだからひっぱたかないでくれ、俺は血の通った男なんだ
本には失敗しないと書いてあった
時間切れだ
彼女から思いがけない苦情を受けた
金を返してもらおう
すぐに書店に行って返品だ

【歌詞】

そして、本の通りにやったのに、上手く行かなかった、裏切られた、金返せ!という感じのオチで終わり、リフレインされるわけです。

Erogenous zones, I question you
Without you, what would a poor boy do?
Without you, what would a poor boy do?
Without you, mankind hand kinds through the blues
性感帯よ、オマエに問う
オマエ無しで、どうすりゃいいんだ?
オマエ無しで、どうすりゃいいんだ?
オマエがいなかったら、人類は憂鬱だぜ

【歌詞】

シュールで超自然的なレエルのストーリーをずっと語ってきて、その中で「夢」を見たという設定で、アルバム中でもちょっと異質なコミカルな歌詞、曲調を入れ込む。そしてそれはシングルカット用の曲であるというわけです。これはなかなか高度な技だと思うのですが、こうやって営業的な要請を上手いこといなしたのでしょうね。こういうことができるのが、ある意味ピーター・ガブリエルのすごいところだと思うのですが、この曲はストーリー内でもそれほど重要なパートでもなく、歌詞の言葉にもそれほど深い意味が込められているわけでもないわけで、「78秒」や「図1-9」(また9が登場していますがw)にもキリスト教的な意味をほじくる人もほとんどいないのでした。ただ、結果的にこのシングル盤は、イギリスでも I Know What I Like には遠く及ばず、あまりヒットしなかったのです。


【音楽解説】

このアルバムの中で、最もキャッチーでわかりやすい構成の曲で「典型的なロックミュージック」という評価が定着しているようです。

  • 1950年代のドゥーワップ・ソングを思わせる下降するベースとコード進行

  • この曲のハーモニー進行と下降するベース・ラインは、プロコル・ハルムの1967年のヒット曲 A Whiter Shade of Pale(邦題:青い影)に似ている

等と指摘されています。プロコルハルムのA Whiter Shade of Paleも、元は黒人ソングにインスパイアされている曲でして、ここはオーティス・レディングの大ファンだったピーターが、そういう曲を作ったのではないかと思います。

[2:28]から始まる、例のスティーブ・ハケットのギター・ソロはEMS Synthi Hi-Fliというギターシンセで作られた音だそうです。

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【注釈】

*1:イギリスでのシングル盤の発売は、1974年11月15日(11月1日という説もあり)で、アルバムに先立ったリリースでした。これはそれまでのジェネシスとしてはほとんど初めてのことでした。(デビューの時だけシングル盤が先行しましたが、以後は常にアルバムが先でした)B面にカプリングされたのは、Riding the Scree 。(よくこんな曲を選びましたね…w)

*2:1970年代初頭に、Eric Weberという著者の How to Pick Up Girls、How to Make Love to a Single Girl というベストセラーをきっかけに「How to 本」のブームがあったようで、ピーターはこれを念頭に「本を読んだ」という歌詞を書いたようです。そういえば、日本でも医学博士 奈良林祥 先生の「How To Sex - 性についての方法」という書籍がベストセラーになったのが1971年ですので、これは世界的ブームだったのかもしれません(笑)


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