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インパクト投資家になれば、ガバナンスが効く形で社会課題の解決に貢献できるーー。寄付とも違う、新しい投資の方法。

株式会社LivEQuality大家さんです。住まいをかりづらい困窮世帯のシングルマザーなどを対象に、住みやすい物件を提供する「ソーシャル大家さん」事業に取り組むスタートアップです。

わたしたちは、インパクトボンドを活用した資金調達を行っています。これは金利のリターンを低めに抑え、ソーシャルリターンという社会的インパクトを最大化するよう設計した投資の仕組みです。一般的な投資と比較するとまだ事例が多くありません。

そこで、インパクト投資家のみなさんに参画の背景や期待することについてお話しを伺い、noteにまとめていくことにしました。このシリーズを読んでインパクト投資に興味関心をもってくれる人が増えたらうれしく思っています。

一人目は、日本最大規模の弁護士事務所である西村あさひ法律事務所の執行パートナーで、グループ全体のマネジメントも担う中山龍太郎さん。

M&Aやコーポレート・ガバナンスを中心に企業法務全般に豊富な経験をお持ちです。日本最大手の教育NPO、認定特定非営利活動法人カタリバの監事も務めています。


初期段階から課題解決のレバレッジポイントが明確だった


ーーー最初に話を聞いたときは、LivEQuality大家さんの取り組みについてどのような印象をもちましたか?

中山龍太郎さん(以下、中山さん):LivEQuality大家さん代表の岡本さんから「シングルマザーの住まいを支援する取り組みを広げるためにインパクトボンドの仕組みを考えている」と連絡をもらって話を聞いたのが最初でした。

この事業を通じて、どんな課題をどのように解決しようとしているのか。初期段階でレバレッジポイントが非常に分かりやすいモデルをしっかりつくられていて、さすがだなと思いました。

LivEQuality大家さんが支援するのは、困窮しているシングルマザーの方々です。安心で快適な住宅を市場よりも低い価格で提供しながら、NPOとも連携して日々の暮らしにも伴走しています。

親の所得が子どもの学力や体験、生涯賃金を含めた将来に渡る経済力に影響を及ぼすことは、様々な調査結果から明らかになっています。特にシングルマザーの方々とその子どもたちがチャンスを奪われやすい環境にあることも。この課題が解決されることは、とても重要なことです。

私はプライベートで2016年から教育NPOのカタリバの監事を務めています。カタリバはさまざまな教育支援に取り組む団体ですが、困難な状況にある子どもたちの居場所をつくり、食事や生活指導、教育を届ける取り組みもしています。

現場を知るほどに課題が複合的で深刻であることを感じました。それと同時に、子どもたちの未来のためには親に対するサポートも非常に重要である、ということが分かりました。

特に日本は何をするにも住所主義。住むところが不安定だと行政支援すら受けられず、社会から取り残されてしまいます。LivEQuality大家さんが「困窮するシングルマザーの住まいを支援することがレバレッジポイントになる」と考えた背景はとてもよくわかります。

そもそも日本は行政の指導や制度の範囲外にある非公式なセクターが少ない国です。世界を見渡せば、定住先がないことが特別ではない国や戸籍が機能していない国もあります。問題も多くなりますが、そういった国ではさまざまな支援策があったり多様な生き方が許容されている部分もある。

ところが日本では、一度公的な制度上からこぼれてしまうと、途端にさまざまなものから取り残されてしまいます。しかもこの課題は制度上にいる人は気付きにくいので、分断が加速してしまう。

そんな日本で民間の立場から、住まいの提供から支援を始めるというのは、とても根源的で効果的な取り組みだと感じました。

困窮するシングルマザーの自立を妨げる負のスパイラルの図。 LivEQuality大家さんは、母子の自立に向けたレバレッジポイントを住まいに置いた。

インパクト投資は、ガバナンスが効く社会的なお金の使い方

ーーー法律や金融のプロフェッショナルである中山先生からみて、インパクトボンドという仕組みについてはどのように感じていますか?

中山さん:インパクトボンドには非常に大きな可能性を感じています。

ソーシャルな取り組みをするにあたって寄付は重要な手段ですが、大きな金額を集めるには限界がある手法だとも感じていました。元々、日本には寄付の文化が余り根付いていないこともありますし、寄付をするにしても、少しずつたくさんのところに・・・と考えがち。どうしても寄付は小口化しやすいように思います。

それに寄付は「あげた」と思えばガバナンスが効かないけれど、どう使うかにオーナーシップを持ちすぎると口を出しすぎてしまいます。このバランスが難しい。

インパクトボンドであれば、お金を集める側が投資家に対して果たすべきアカウンタビリティが明確なので、ガバナンスが効く形でお金をだすことができます。きちんとモニタリングができるし、出資した資金が目減りしていくわけでもない。

このガバナンスが効く仕組みというのが、法律や金融の世界にいる私にとっては馴染みもあるので、参画しやすい部分がありました。

世の中が良くなることに貢献したいと考えていますが、時間的な課題もあり、自分ができることは限られます。お金を通じて価値があると思える社会的インパクトに貢献できるというのは、とてもいい仕組みだと感じています。

LivEQuality大家さんのインパクトボンドの仕組み。
金利のリターンではなくソーシャルリターンを追求する。

こういった投資の形は、今後日本で広がっていくと思っています。かなり資金が集まるようになるんじゃないでしょうか。

企業も単に株価を上げるだけではなく、社会にどう貢献するかが問われています。本業を頑張ることで世の中に貢献しますというのは正しいけれど、もっと多様なルートで社会的なインパクトに示すことが求められている

インパクトボンドであれば、寄付でお金を出して終わりということではなく、投資家として自分たちもコミットしている事業として発信していける。そういう意味で、企業にとってもこの仕組みはかなり効率的で効果的な形になっていくと感じています。

特にLivEQuality大家さんのように、定量的なインパクトが見えやすい取り組みは相性がいいと思いますよ。

今後は税制優遇がついてくるとよりいいですね。金銭的リターンを目的とする投資ではないものの、税務上の優遇はありません。その部分で優遇が受けられれば、インパクト投資家になることへのハードルはさらに下がります。あとは開示基準であるとか、インパクトボンドにおけるスタンダードな仕組みを構築することも必要だろうと思います。

企業や富裕層も「自分の資産を社会的インパクトに使いたいけれども、規律ある使い方をしてほしい」というニーズはあるはず。寄付という枠組みだけではアプローチしにくいニーズです。

インパクトボンドの仕組みは、ガバナンスのきいた社会的なお金の使い方として、非常に大きな可能性をもっていると思います。

今後より大きな社会課題を解決できる可能性を秘めている

ーーーインパクト投資家の立場から、今後のLivEQuality大家さんの取り組みに期待していることがあれば教えてください。

中山さん:これはインパクト投資家として参画してから気づいたことなのですが。LivEQuality大家さんの取り組みが「単に安く家を貸すことではない」というのが、社会的インパクトを生み出すために大きな効果があると理解して、期待が高まっています。

先に物件に入居していた方が、先輩として新しく入居する方のサポートをしたり、入居者同士で交流をしたり。LivEQuality大家さんは、家というハードを貸すだけではなく、ソフトのつながりをつくることでハードが有効に使われるサイクルをつくっているんですよね。これはとてもいいモデルだと感じています。

契約のときだけ会って、じゃあこれから頑張ってくださいというのと、普段から関わりがあるのでは全く違います。私生活が見える関係性が身近にあって、周りの目や期待を感じやすい環境のほうが自立につながりやすい。

NPOと連携し、入居者につながりをつくる様々な取り組みを実施。
8月には入居している親子向けにイベントを開催して、レポート記事を公開しました。
https://livequality.co.jp/hub/about/news/230828

よい住まいを安く貸すだけでもレバレッジになるけれど、継続的な接点があることでさらに高い成果がうまれている。物件全体の稼働率も上がっていると聞いたので、売上にもつながっているのだと思います。

要はソーシャルキャピタルをつくっているんですよね。孤立していた人たちに対して、住まいを軸にソーシャルキャピタルを積み増していく取り組みになっている。子どもたちにとっても、親以外の関係性が身近にあるというのはシェルターになります。

生活拠点を提供して、そこで社会資本をつくりながら自立を支援する。このモデルはシングルマザーだけでなく、ソーシャルキャピタルが薄いあらゆる方々の支援モデルに展開できる可能性を持っていると感じています。

もっと言えば、都市部も含め、空き家が全国的な問題になっています。空き家を快適な住まいにして、そこに住んでもらうことで社会関係資本を育むコミュニティができて、農村や地方の人手不足の解消にもつながるーー。

理想でしかありませんが、そんな風により大きな社会課題を解決できるモデルになっていく可能性もあるんじゃないかと期待しています。


株式会社LivEQuality大家さんの取り組みに関心をもっていただけた方は、ぜひこちらのページもご覧ください。


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