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ドイツの年越し

ドイツ人は年越しの少し前から、花火の規制に関するルールをネットで読み始める。基本的に(ベルリンでは)花火を年越しにかけて放てる場所が制限される。日本の手に持つ花火とは違って、ドイツの花火は打ち上げるタイプが多く、それで指を無くしたり、火傷を負ったりする事故が後をたたない危険なものと認識されている。しかも、花火を放った後は片付けなどお構いなく、そのまま放置だし、中には人の家のアパートのバルコニーに投げ込んだりする輩もいるものだから、人の多く集まる場所では規制されることが多い。

ドイツの年越しは花火の音に驚き、花火の危なさに怯え、そして年を越した瞬間から次の日の朝までは花火のお祝いムードに感謝して、その次の日の朝からはまだ花火を放っている輩たちに文句を言うドイツ人たちを見る、という、毎年恒例のエンターテイメントだ。
大晦日から新年へかけて花火をそこらじゅうに放ちまくって街をゴミで溢れ返させる行為に文句を言うドイツ人の姿は、何度見ても、ああ、これこそが年末年始の風物詩、とでも言えるだろう。

大晦日には、ドイツではそれぞれがそれぞれの場でパーティーをして、ビールやワイン、その他強いお酒を飲みに飲みまくり、次の日の朝には二日酔いになったり、お酒に強い人たちは二日酔いもものともせず、次の日にはどこの店も開いていない街に繰り出して、ドイツ人お得意の散歩を楽しむのだ。

私はといえば、大晦日に文化的な生活をして楽しんだ年末だった。今年はパートナーの友人がとってくれた演劇に行った。ドイツ人っていつもは真面目だし、特にベルリンの人々はドイツの北に位置するからか、どこかいつも距離を感じるし、あんなに面白い演劇ができるなんて驚いた。Ursonate [Wir spielen, bis uns der Tod abholt] という、Kurt Schwittersの代表作の一つを見た。英語ではsound poetryというジャンルらしいが、演劇というよりも確かに、詩的なミュージカル、という方が適切かもしれない。Kurt Schwitters彼も北ドイツのハノーファー出身らしいから、北ドイツもそこに住んでいる人々もまだまだ私の知らない魅力があるようだ。

演劇を見て家に帰り、出かける前に小麦粉から作っておいたパスタとワインを味わいながら、年越しのカウントダウンが始まる前から打ち上げられている花火に小言をいいつつ、シャンパンを片手にカウントダウンを待つ時間はとてもいい時間だった。
年を越すだけなのに、そんなに何か大きく変わるわけでもなんでもないのに、何かをワクワクした気持ちで、しかもグループで楽しみにして待つ時間は1人では味わえないタイプの期待と高揚感を与えてくれる。今までのアルバイトをして過ごしたクリスマスや、働き漬けで迎えた年末を思い出すと、同じイベントなのに、全く違う思い出や気持ちを与えてくれるものだ。

しっかり休んで、しっかり働く、そんなメリハリが社会のシステムに組み込まれているドイツは自分を大切に、人を大切に、人との時間を大切にできる文化だと思う。

カウントダウンが終わって年を越してから寝るまでは、手のひらを返したように花火を見て楽しんで、次の日になったらまだ打ち上げられている花火の音に散歩をしながら文句を言うまでが本物のドイツ人。彼らの小言を言い続ける文化は大抵は筋が通っているけれど、時々よくわからないロジックなのが愛おしいところでもある。

魅力ある国ドイツと魅力的なドイツ人。これだから何度も戻ってきてしまう。こんなに天気の悪くて暗い冬なのに。

ドイツの演劇に興味ある方はぜひ。


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