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「啓発」。その人が行き詰ってから障害を取り除いてやる。手助けする―『論語』

「性相近し、習い相遠し」

 社会人として、人をどう育てていくのか。

自分で気づく。
自分で考える。
それが行動を変える、考え方を変えることにつながっていく。

 中国古典の言葉をもとに、人としてのあり方、仕事の進め方などを考えてもらう。それが、私が行っている人間力育成の基本方針です。
 何かの気づきを得てもらえばいいし、これまでの人生や考え方を見直すきっかけとなればいい。そこから、なにかしらの指針や考える軸を見い出してもらえたら、研修の成果としては最高です。

 さて。
 人間育成の達人とも言われた孔子は、どういう教育方針をとっていのでしょうか。その考えを端的に語っているのが、次の言葉です。

「性相近し、習い相遠し」

 生まれたときには人の持つ能力にそう変わりはない。その後、どういう教育を受けたかによって、大きな開きが生じるのだ、と孔子は考えていました。

 行政官として栄達し、理想の国づくりに尽力することが孔子の人生最大の目標でしたが、その一方で、国づくりは人づくりから始まると考え、教育者として、有為な人材育成にも多くのエネルギーを割きました。
 やがて、孔子を教育者と仰ぐ有意な若者たちが集まり、孔子塾、孔子学園と言われる集団ができあがっていきます。

 エリート養成学校である「孔子塾」に集まってきたのは、頭が切れる秀才でしたが、孔子は、彼らを頭の良さという点だけで、評価しませんでした。
 孔子が重んじたのは「仁」。優れた指導者になるには、人としての道を踏む外さない、徳を備えた人物になりなさい、と。

憤せずんば啓せず。悱せずんば発せず

 彼らをどう育てるのか。
 弟子からの問いかけには答えるけれど、わかりやすくは教えない、自分で徹底的に考えさせる。それが孔子の指導の特長でした。
 自発的に学ぶ姿勢を重視した、といったらいいでしょうか。

 それを物語る一例がが、「啓発」の語源ともなった言葉です。

子(し)曰(いわ)く、
「憤(ふん)せずんば啓(けい)せず。
 悱(ひ)せずんば発(はっ)せず」
。  

 『論語』述而篇

「啓」=理解に向けて導くこと
「発」=はっきりと理解させること
ここから、「啓発」という言葉が生まれたのですが、その意味について、あ。「論語と算盤」の著書でも知られる渋沢栄一氏の『論語講義』にある訳出がしっくりくるので、紹介します。

自ら取り組んで行き詰ったときに、はじめてその障害を取り除いてやる。
また、意味が少し理解できかかってきたけど、うまく言葉で伝えられないときに手伝ってやる。

 渋沢栄一氏はこう解説を加えています。

これは師が人を教える方法を示したものである。
教えるということは、なんでも注入して弟子に説明するものではない。本人にやる気がないのなら、(手とり足取り一から)教えても無駄だろう。


 比較的若いスタッフを対象にした人間力研修では、この「啓発」について、考えてもらったところ、上司と部下の関係だけでなく、仕事のやり方やスキルを先輩から後輩に伝授していく関係で考えたコメントが出てきました。

・自分の仕事に対する信頼・信用を得ていないと、先輩から大切なことを教えてもらえない。普段からの仕事を積み重ねて、信頼や信用を築いていく。

・教える側と教わる側との間には、ベースに信頼関係がないといけない。
教える側の人間が、教わる側がどの程度の技量があるのか、理解ができているのかを、ふだんの仕事ぶりや会話から把握をしておく。そのうえで、教えるときには、全て与える(教える)のではなくて、相手の実力にあわせてハードル設定する。そうすると、教わった側は自分で考えるようになり、それが成長を促すことになる。

・学びたい、教わりたいという自分の情熱、熱量を伝えることも大事。それだけでなく、チーム・部署の状況やことや、教えてくれる先輩がどういうキャリアを積んできたかということもアタマにいれておくこと。

 こういう意欲に溢れる若い人なら、「啓発」の意味を理解し、いちだんと成長たちしていくことでしょう。




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