見出し画像

【読書と私】⑤マチネの終わりに:単行本で読む理由


序 読むきっかけ

平野啓一郎氏の本を似たようなタイミングで2冊読んだ。(『本の読み方 スロー・リーディングの実践『死刑について』)読む前に、3冊くらい読んだら“平野啓一郎フェア“だわなんて思っていた。読むとしたら、あとは『マチネの終わりに』かなと思いながら、どことなく二の足を踏む気分だった。そう、外食でメニューを決める際、イチオシメニューを避けて選び、失敗する私。どこかひねてる私が頭を出す。

そんな折、離散的にやりとりした人が、メール文に“数年前に「マチネの終わりに」を読んで「未来で過去は変えられる」というメッセージに出会えたことがここ最近の最大のヒット”と記して、“映画は絶対ダメで本も単行本をおススメします。文庫じゃなく”と付け加えられていた。
 あ… やっぱり読まないとならない本だったんだ。決断できた。


単行本と文庫の違い

だけど、なんだそのこだわりは。なんとなくわかる気もするけど、単行本と文庫の違いは何だろう。そもそも、本をおススメしてくれる人って、文庫本でなく単行本を貸してくれることが多い。「単行本」ってことば自体、私の口からはすっと出てくることばじゃない。どちらかと言うと「ハードカバー」って言ってしまいそうだけど、今や「ソフトカバー」だもんね。
単行本と文庫の違いって何だろう。。。
ちなみに、「単行本」というのは「全集」に対しての表現で、「単行本」と「文庫」は対表現ではない。


自分なりに浮かぶことと、検索して出てきた内容を挙げる。
・価格
・大きさ
・手にする感覚、フィット感
・新刊かそれ以降か
・あとがき
・加筆、修正
・しおり
・あらすじ
・字の大きさ  …

まず、浮かぶのは大きさ、価格。だから、リーズナブルにしたいと思ったら文庫になるのを待つ。持ち歩きには文庫。しっかりした手ごたえを感じたいなら単行本、でも手が小さいから文庫という意見もみかけた。
刊行されて早く読みたいなら単行本。だから、おススメされる場合は、早速読んでみてよかったの流れで単行本貸してくれることが多いのかな。

あとは、本の仕様として、あとがきがついてる(文庫)加筆、修正されてることがある(文庫)ひものしおりがついている(単行本)あらすじがついている(文庫)など。
「字の大きさ」と挙げられているのも見た。手持ちの本を見てみると、字の大きさは結構様々で、確かに大きめの字もあるけど、単行本だけど文庫とそんなに変わらない感じのもある。字の大きさより、行間の幅は目につく。そして… 
あ。。。大きな違いを感じたのは周囲の余白。
余白大事… 余韻につながるから…
これは、結構与える印象、影響に違い出る。今まで意識してなかった…。

ちょっと話がずれるけど、仕事で文書を作る。理想はA41枚に納めたいのだけど、惜しいところで収まらず、余白を詰めることになる。目いっぱい内容を詰め込んだ文書も味わいはあるけど、余白がしっかりとれた文書、どことなく品質の良さ、価値が高いように見える。


『マチネ… 』を読んでみて

さぁ、平野啓一郎の書籍3冊目にして初小説です。Amazonで購入単行本です。開けてすぐ目についたのは「毎日新聞出版」の文字。新聞小説だったんだ。新聞小説は昔、まさに毎日新聞で途中から興味を持って読んだものあった。挿絵に惹かれて読み始め、限られた場面、文章だけど面白いと思った。その状態で『マチネ…』を読んでいたらどうだったかなとも思いながら、本を開く…

 ◇

もう、今までの2冊とは文体が違って… 使っている言葉が違って、これはスロー・リーディングでないとと襟を正す気持ちになる。古語のような漢字の並びや「ユーゴスラヴィア」などのカタカナの綴り、文章の佇まいに、平成令和の文豪か…とも思う。スロー・リーディングの極意よろしく、ゆっくりと、わからない言葉は調べて(その機会の多い事!)立ち止まって考える。先に行きたい気持ちもなくはないが、今日は1章まで、と区切りながら、夜寝る前にやっとこの時間が来たと本を開く。その時に開くのは、やはりこのサイズ、この手ごたえの単行本が適切かも。
宝箱を開けるように本を開きページを繰る。余白もそうだけど、紙の色が違うことにもふと気づく。『舟を編む』でやっていた。色や紙の厚さ、手で擦る感じ。装丁に合わせてなのか、黄色味のある紙。色の名前をつけるなら何と言うのか。

 ◇

noteで『マチネの終わりに』が読めることも気づいていたから、夜は部屋で単行本で読んで、翌朝電車の中でnoteで読み返すのもありかしらとふと思いつく。試しにやってみて、「序」はいけたけど、本編入ると(要は初めから)ダメだった。やはり単行本で読もう。

 ◇

1章ずつの日々から中盤を過ぎると、1章ずつでは区切れなくて、今日はもう少し…と就寝時間のずれを気にしつつの読書になる時が来た。展開も何かUターン、急旋回をするように、やや強引ともとれなくない進み方。意外さがある。でも、章のタイトルにその不自然さは回収されているし、キャラ設定然りで十分布石は打たれている。流石です。そして、手にした左右のページ幅を見て、残あとこれだけでこの物語が終わるんだと気づく。この残りページで終わるの?の思いと終わってほしくない気持ちが交差する。

読み終えて

本当に美しい物語だった。2人の物語だったけど、何か普遍というか、心を揺さぶられるようなものがあった。話の中では「あり得ない」ようなことをする人の存在もあったが、その人の正義(もう少し違うことばを使いたいですが)ゆえだったりで、許しや裁きのようなことがあって、悪人のいないドラマになっていた。
対談の中で平野氏自身「美しい話を書きたかった」とか、自分が見たかった、ことを言われている。誰かは忘れてしまったが、画家の方が「自分の視覚を満たすため…」と創作の理由を言われていたことがあった。あらためて小説家、画家って凄いと思う。(作中でみた語彙の数々に対して、こうとしか言えない自分の語彙が泣けてきます)でも、自己満足を楽しむという点ではnoteで書く私も一緒になれてるでしょうか。

美しさを感じた一つは、恋愛の導入部分。話が合う、わかるということで生まれた関係性。話が通じ合うことの純粋な喜びを感じられるって素敵だなと思う。

印象に残ることば

本をすすめられた時に存在を知っていたことばだったけど、序盤に早々に出てきた。主題が早くも出てきて、繰り返される期待があった蒔野のセリフ

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実施は、未来は常に過去を変えているんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。」

第一章 出会いの長い夜 より

「過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

同上

後半に続く部分が、物語の中では、大事な部分のように思えるが、前半の部分は、それのみで人生に希望を持たせてくれることば。私が以前の記事でとりあげたことば

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」

カナダの精神科医  エリック・バーンの言葉

これも自分を前にすすめてくれるいい言葉なのだけど、ここに違う視点の存在があったことがうれしい。

ちょっと色合いが変わりますが、私の最近のヒットになるのか、気に入ったことばに 岡田斗司夫YouTubeで見た「20代、30代は60代の伏線回収」というのがありました。コインの表裏のように、蒔野のセリフに重なるかなとも思ったのですがどうでしょう。洋子との会話に当てはめると、ちょっと違うかとも頭をよぎりましたが、「出来事AはBの伏線ではなくてCの伏線だった」と二段階(あるいはそれ以上)と思うとありかなとも思えます。

スロー・リーディング実践

小説中、語彙の多様さには本当に舌を巻きます。流れから何となくはわかる気がしますが、調べながら読みすすみます。今見ると、ことばだけ見てもわからないものもありますが、一例挙げるとこんな言葉が出てきました。
 
 阿諛あゆする 醇化 馴致じゅんち 屹立 なぶ
 逸楽 墨守 韜晦とうかい 隘路あいろ 斥力
 ブッキッシュ あまねく 些か  …

もう、漢検準1級はないと駄目でしょうか。
純化でなく、醇化なところなど意味深い。
自分が記事書く時も最近は「言い換え」を調べることが出てきた。細かいニュアンスを伝えるために、語彙はあるに越したことない。



そして、一回読み終えてリリーディング。時期を置いての再読は少ないながらもありましたが、直後の再度は初めてです。でも、最近はドラマも
好きなシーンを繰り返し見ることもあり、同様の気分です。作者が埋蔵しているお宝や、そこまで拘っているかという仕掛けや工夫をみつけたくて、二週目に入りました。
ストーリーを気にして逸るはや気持ちはもうないので、安心してなめるように読んで行きます。その中で私の気にしたポイント。登場人物の名前が気になります。作品によっては安易につけているものもあるかもしれないけど、「蒔野聡史」は書き出しのところより独特さやインパクトがあって、「小峰」も然り、「三谷早苗」はなんと左右対称なんだろうと、そんなところを気に
しながら、「蒔野」たる所はみつけた気でいます。リリーディングはまだ終えていないので、さらに何かみつけたいです。

読み終えてから

一読目を終えてから、書店で文庫を探してみました。単行本読み終えた後、文庫で読むのはどうなのかと思って。手にしてまず思ったのは「ミニチュアみたい」でした。画集とポストカードのような違いにも見えて、この本に関しては、自分にとっては、本当に単行本がいい。装丁の感じも良く、画集を手にするように、喧噪でない静寂の時間の中浸りたい。それが、空間場所を超えて読んだ人と同じ空の下つながるような気さえしてくる。しばらくリリーディングを楽しみながら、その後は、本棚の一等席に置いて、時おり宝箱を覗いてみたいと思います。

もちろん、その人のシチュエーションにもよるので、文庫もありと思う。
私の好きな本で言えば『ボールのようなことば。』(糸井重里)は文庫なのが良い。携えながらさっと好きなところを開いたり、開いたところのことばを楽しむ。

 *   *   *   *   *

ちなみに、今日4月28日は 小倉昭和館と言う名のレトロ感ある映画館(行ったことはない)で、『ある男』と『マチネの終わりに』の上映と、平野啓一郎さんトークショウがあるのを知りました。
そんな頻回に行ける場所でないから無理ですが行きたかったな。あ、でも、映画はそれとして見る覚悟を持ってかな…。本の世界があまりにも良かったので。小倉昭和館自体にも興味があるので、機会みて行きたいです。

作品はもちろん、「マチネ」って言葉がまず美しい。「マチネ」と「ソワレ」ってあるんですね。昼公演と夜公演
人生の中~後半は、「マチネ」の方がその後の時間も併せてスローに楽しめそうでいいですね。
漢字当てはめるとどうかなと考えると
「待音」
それだけで「マチネの終わりに」と同義になりそう。


とにかく、読んでよかった本です。


☆画像はソルトさんの写真をお借りしました。

  『マチネの終わりに』平野啓一郎 2016
       
 📚他に読んだ本
『本の読み方 スロー・リーディングの実践』
             2006/2019
『死刑について』2022
『私とは何か「個人」から「分人」へ』2012




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?