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《お題もの・17文字前後のものを繋いで綴った物語》①                    


※以前挑戦させて頂いた17文字のお題作品と14文字のお題作品で構成された連作のまとめとなります。 


      ◇連作タイトル◇
    『 煙草が嫌いになったおんな 』
 


※①の作品は主人公のセリフを三人称一元視点で表したもの。②の作品からは、一人称視点にて、ヒロインと主人公の視点とが交互に切り替わってゆきます。


           ①

  #さよならを17文字以内で表現する

   『出征だ。預けた煙草は、捨ててくれ。』
 


(互いに1夜の恋のつもりだった。戦地へ征く前のお別れに、戦地に征く人への慰めに、儚き媾合こうごうをした。しかし、其処から想いは始まった──)


         ②

  #眠れぬ夜を17文字以内で表現する

 『遠きひと想いて陰膳かげぜん終夜よもすがら無事を祈る』
 


       ◇ヒロイン◇
(戦地に向かうあの人へのお別れ代わりのつもりだった。1度だけ身体を許した、煙草好きだった昔馴染のあの人。気がつくと、家族でもないのに陰膳を作ってしまう私がいる。「無事に帰りますように」夜空に向かって祈る。星月は、あの人の上にも輝いているのだろうか。終夜、そんな事を考えて独り待つ時を過ごしている)


         ③

   #冬至を17文字以内で表現する

 『冬の真ん中にて佇み、六華りっかに君を思う』
 


       ◇主人公◇
(まるで此処が戦場だとは思えぬ美しさの雪原。見たこともないような1面の銀世界。その中心に毅然として立つ。仲間が無事に逃げられるよう。俺を囮にして、できるだけ遠くに行けるように。
俺には待つ者は居ないからこれで良いんだと自分に言い聞かせる。ただ何故か、降りしきる雪片の奥にあの夜の君の顔ばかりが浮かんだ)


         ④

   #長閑のどかを17文字以内で表現する

 『麗日れいじつに流行歌。恋知り鳥が庭で鳴く。』
 


       ◇ヒロイン◇
(あの人の帰郷を、日々ぼんやりと待ち続けていた。気づけば、もう春だ。暖かな陽射しが心地好ここちよい。向こうの通りから聞こえてくるのは、流行りの軍歌だ。あゝ。何故私は、こんなにもあの人の事が労しいのだろう。恋しいのだろう。遥か遠くで鶺鴒せきれいが鳴いている。恋を教える、小さな鳥が。)


        ⑤

  #月下美人を17文字以内で表現する

  『短夜の夢のように生き急ぐ純白の花片』
 


       ◇主人公◇
(ひと夜しか咲く事のできぬ花があるらしい。そんな話を耳にした。「まるで俺の人生のようだ」と思った。生き延びたとて夢幻ゆめまぼろし、再び前線へ。長恋ながこいは思いを遂げられたが、それもはなからひと夜だけ、諦めありきの話だった。駆けるが如く生き、そうして、花が散るように死ぬのだ。再び前線へ行かされる事を知る前に彼女へと送った葉書は、もう届いた頃だろうか。)


        ⑥

    #勝利を14文字以内で

   『真珠星がと皓々こうこうと輝く夢人の吉報』
 


       ◇ヒロイン◇
(青白いスピカが眩いぐらいに輝いている。あの人から葉書が届いた。彼の部隊が勝ったのだ! 生きて帰って来ると書いてある。あの人が生きて帰って来る。私の元に……私と同じ土の上に)


         ⑦

  #言い訳を17文字以内で表現する

 『空言そらごとを孤月に吐きて霞の奥に君を見る』
 


       ◇主人公◇
(捕虜収容所の窓格子の隙間から覗く物寂しい月を見上げながら、「できるだけ早く帰るから……」と呟く。その誓いは最早もはや果たせぬものだと解っていながら。何も知る術のなき君から見るならば、僕はとんだ嘘つき野郎という事になるのだろう。せめて夜霞よがすみの向こう側に君の幻を見たいと切望し瞳を凝らす)


         ⑧

  #浅瀬色を17文字以内で表現する

  『くるぶしに寄せてはくすぐる薄青の波、船遠く。』
 


       ◇ヒロイン◇
(あの人が『帰るよ』と葉書に書いていた日に、港でずっと待っていたけれど、船から降りてくる人は身も知らぬ兵隊さんばかり。朝陽が月影に姿を変えるまで独り港に佇み待っていたのに、遂に彼は現れなかった。その日から私は、毎日砂浜で船を眺めている。「あの船は、港に近づく船なのかしら──?」寄せては返す蒼波そうはが幾度も私の足を擽ってゆく。あゝ。今日も、船が1隻遥か遠くで汽笛を鳴らしては去ってゆく)


        ⑨

 #エイプリルフールを17文字以内で表現する

 『不義理の日、義理を通して、吐いた嘘』 
    


(命を失う直前で仲間の手を借り抜け出せたが、同郷の友より聞かされ、親類縁者の計らいにより彼女の嫁ぎ先が決まったという話を知った。今日は、4月1日。母国では不義理の日だが、この地ではエイプリルフールと呼ぶらしい。俺は、現在間違いなく誰より俺が不義理を働いている彼女ひとの事を考えた。「故郷くにの誰かが、俺と彼女の関係を察したのかもしれん。俺は厄介者だからな。急いで引き離そうとされるのも無理はない……」俺は、この先も真実は一切伝えず嘘つきのままでいる決心をした。)


        ⑩

  #昔の記憶を17文字以内で表現する

 『夫婦杯めおとさかずき花の雨、くすぶる恋をたもとに隠す。』

  


       ◇ヒロイン◇
(あの人は死んでしまった、だから永遠に帰って来ないのだよ──と、周囲の誰しもが口にした。絶望を抱え、皆に促されるようにして良く知らぬ相手の元へと嫁ぐ。三々九度の盃の上には、まるで神様の涙のような山桜の花びらが美しく降りしきっている。埋もれたおきの如き恋の記憶を隠したまま、私は盃を傾けた。)
 



※Twitterのモーメント機能内に粗筋を綴っていたのですが、その機能がサービス終了となり、恥ずかしながら粗筋の再確認ができぬ状態となってしまっておりまして……記憶頼りで再構築いたしましたゆえ物語は推敲後の状態となっております。