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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』 (24)女豹の咆哮!お父さんとお兄ちゃんを侮辱された!

堂島龍太18才の夏。
遂に念願のプロ格闘技戦デビューを果たそうとしていた。全国から格闘技自慢の高校生8人が集い、ワンナイトのトーナメント。
優勝するためには一晩で3人から勝利を奪わねばならない過酷なもの。この大会にはレスリング、柔道、空手等の格闘技経験者が集まり、高一1人、高二1人、高三6人が参加する。最も注目を集めているのはNLFS所属練習生の紅一点、韓国からやってきた柳紅華という少女であり、まだ16才(高一)の大会最年少。彼女の一回戦相手はなんと堂島龍太と組まれていた。

柳紅華はあのNOZOMIがわざわざ韓国から連れてきたのだから、相当な実力者だと覚悟して戦わねばならない。龍太は女子相手とはいえ油断することなく気を引き締めて戦おうと自分に言い聞かせた。試合前、控室で気持ちを集中させていると、妹の麻美が天海瞳と共に訪ねてきた。

「お兄ちゃん、柳さんは強いよ。甘く見ているとやられちゃうよ…」

麻美も兄のデビュー戦が心配なのだろう。
柳紅華は麻美より一つ年上だが、NLFS入校したのは同期。共に道場で練習してきた仲間でありその強さはよく知っている。相手が女子だからと甘く見ないで、、と、兄に忠告しにやってきたのだ。

そしてリングに向かうとゴングは鳴った。

この試合の詳しい模様は、本編『女豹の恩讐』(43)ワン・ナイト・トーナメント 〜
(44)立ち直れ!龍太。にあります。

ファースト・コンタクト。

それは、お互い相手の様子を窺うように手四つの力比べから始まった。
柳紅華はテコンドーと韓国相撲(シルム)の猛者だという。打撃系格闘技であるテコンドーのことは龍太にも知識がある。しかしシルムのことは何も知らない(作者である私も殆ど知識がないので深くは触れません)。
手四つで組んだ紅華の力強さ、体幹に龍太は驚いた。龍太とて柔道でも全国大会の常連であり、相手を倒せば勝ちというシルムのスタンディングでの強さは想像していたが女子に負けるはずはないと思っていた。しかし、力負けしそうだ。それに、紅華は水着であり道着を掴んで投げる柔道とは勝手が違う。龍太は一旦組手を外した。拳を構え打撃戦に持ち込もうとする。紅華もそれに応じテコンドーの構え。

拳を構えた龍太は “ 女子をガチで殴ってもいいのだろうか?” という違和感に襲われていた。女子とは、シルヴィア滝田、天海瞳と戦った経験はある。でも、あれはあくまでスパーリングであり、ヘッドギアを付けてのものだ。この試合はヘッドギアなくオープンフィンガーグローブでの総合ルールなのだ。”本当にガチでいいのか?“
幾多の男子格闘家が、NLFS所属女子相手にに悩んできたことだ。この男としての躊躇いが、格闘技男女対抗戦で女子選手に圧倒されてきた最大の原因だろう。

紅華は龍太の心の隙を見逃さなかった。

再び組み付くと龍太の首をホールディングする。その身体を腰に乗せ豪快な首投げ。そのまま袈裟固めの体勢になった。グギギギ! 龍太を締め上げる紅華。このまま、固め技で龍太はタップしてしまうのか?
とはいってもシルムに寝技はなく、いくらNLFS道場で寝技練習していても、グラウンドの攻防では柔道の猛者である龍太が一枚上。ジワジワ反撃の態勢になる。

紅華はサッと龍太の身体を離すと立ち上がった。龍太も立ち上がろうとする。

ズドッ! ビシッ!
起き上がろうと中腰になった龍太に、紅華のテコンドー流蹴撃。その蹴りは龍太の全身を容赦なく襲ってきた。
踏み付けられ蹴倒された龍太はカメ状態になる。このままではレフェリーに試合を止められる、、、と焦る龍太。

グギッ! 肋骨にヒビが入った感触。

肋を抑え蹲る龍太に、尚も紅華はキックを見舞おうとする。レフェリーが間に入ると大きく手を振った。
茫然自失でレフェリーに目をやっている龍太のもとへ、セコンドに就いている今井が飛び込んできてその身体を抱えながらコーナーへ連れて行った。
信じられない、、、もう、試合は終わりか?
という表情で龍太は今井に目をやった。今井は “お前の負けだ、もう終わりだ” という表情の目を返し首を横に振った。

龍太はそのデビュー戦でTKO負けした。
しかも、高3男子である龍太が、高1女子である紅華に何も出来ず一方的に完敗したのである。あまりにも無惨な屈辱的敗戦にショックのあまりコーナーの隅から立ち上がることが出来ない。そんな龍太に今井も黙って見守るしかない。

反対側のコーナーでは、龍太を倒した紅華が喜びを爆発させ、祝福にリングに上がってきたNOZOMIと抱き合っている。

”おれは弱い。自分より二つも年下の女の子にKO負けしたのだ、、何が打倒NOZOMIだ!
父のリベンジ? 笑止千万だよ。自分には格闘技は向いていない。お終いだ“

そこへ、ツカツカNOZOMIがやってきた。
龍太はNOZOMIが自分を笑い?軽蔑しにやってきたのかと思った。

「龍太くん、負けはしたけどデビュー戦おめでとう。まさか、一度負けたぐらいで、もう格闘技は辞めようなんて思ってないわよね? 年下の女の子に負けたからって、決して恥ずかしいことじゃないのよ。もうそういう時代じゃないの。アナタはきっと立ち直る! 今夜勝って慢心する龍太くんよりドン底を味わった龍太くんの方がずっとNLFSにとっては怖いのよ…」

慰めのつもり? 何を言ってやがんだ!
龍太はそう思いながらもNOZOMIの目を見ることが出来ない。

“ 俺は父の代わりにNOZOMIへのリベンジを誓い、この8年間必死に格闘技に心血を注いできた。そして、やっとプロの舞台?に立てたというのに、そのデビュー戦で負けてしまった。しかも、相手は二つも年下の女の子。高校一年ということは去年まで中学生じゃないか! 俺は弱い。打倒NOZOMI?
なんて、浅はかな夢を見ていたんだ ”

一回戦を勝ち上がった柳紅華は、龍太を蹴り上げた際、足を痛めたとのことで準決勝を棄権した。が、しかし、本当のところは分からない。NLFSの方針として選手に無理はさせない。優勝したのは迫田宗光。彼は龍太と高校柔道全国大会で準決勝進出をかけての試合で勝っている。全国柔道3位の実力から優勝候補で順当な結果であった。

迫田は感想をマスコミの前で語った。
「準決勝の相手は堂島だとばかり思っていたのにあいつは女に負けた。なんて恥知らずなんだ! 同じ柔道のライバルとして情けない気持ちでいっぱいだよ。柳紅華とかいう女が棄権しなかったら、俺の方が棄権していたよ。女なんかとリングで戦うのはごめんだね。堂島は父子二代に渡って女に負けたんだな?みっともない」

この迫田宗光のコメントを伝え聞いた麻美は怒りが込み上げた。

お父さんを、、お兄ちゃんを侮辱された。
迫田さんは絶対許せない!
それに、”女なんかと“ とも言ったのね?

女豹の咆哮である。

麻美がデビューするのは、この一年後になるのだが、その時の対戦相手こそ迫田宗光になるのだ。

デビュー戦で女子に敗れた龍太は、傷心の日々を過ごしていた。もう、格闘技は辞めようと思っていた。夢は諦めた…。

そこへ妹の麻美がやって来た。

つづく

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