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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』 (27)麻美が豹なら、俺は龍である。

物語は禁断の兄妹対決に向かってクライマックスを迎えようとしています。
デビュー戦で惨敗の兄と圧勝の妹。対照的ではあったが、その後は兄妹揃って快進撃が続いてゆく。

龍太は総合ルールでも打撃ルールでも圧倒的な強さで満天下に“堂島龍太あり!” を示してきた。それは、幼い頃からやってきたKG会空手、中学から始めた柔道をバックボーンに、父も所属していた格闘技ジムで名トレーナー、今井(継父)、岩崎に指導を受けてきたことが大きいのかもしれない。
その全方位的に対応できる技術は、将来のMMA王者と噂されるほどだ。
麻美も運動神経の良さ、その圧倒的なスピードから繰り出される技の数々はまさに
女豹という異名そのままの強さで相手に何もさせない。多くの男子格闘家を震え上がらせていた。今では鎌田桃子、奥村美沙子を超え、NOZOMI、シルヴィア滝田に次ぐNLFS No.3と言っても過言ではない程だ。

NOZOMIはこの兄妹の想像以上の成長力にそろそろ自分に近付いてきたのかもしれない、、と、脅威を感じていた。
NOZOMI自身は自分が最盛期でいられるのもあと数年だと思っている。彼(彼女)らにしても衰えた私と戦うのは不本意だろう?
その前に、あの兄妹の真の実力を見なければならない。そのためには、それに見合う相手、ビッグマッチが必要だろう。

そこで実現したのが、堂島龍太vsシルヴィア滝田。堂島麻美vsダン・嶋原。
この試合の模様は、本編『女豹の恩讐』でもあまり触れていませんね?

龍太は大学2年の20歳、麻美は高校2年の17才になろうとしていた。二人の父、源太郎がNOZOMIに敗れ亡き者になってから10年。当時、17才だったNOZOMIも27才になっておりあまり時間もない。NOZOMIは公に30才で引退すると宣言している。
そんな時、龍太のもとにNOZOMI直々にある打診があった。

 「うちのシルヴィアと、MMA70㎏以下級王者植松拓哉への挑戦権をかけ戦ってみない? シルヴィアも、いつか龍太君と戦うことになる宿命を感じているみたい…」

それは龍太も同じで願ってもないことだ。 
シルヴィア滝田を超えずして打倒NOZOMIなんて有り得ない。
シルヴィアは女子ながら日本MMA男子70㎏以下級2位の酒井篤に一度は敗れながらも再戦でリベンジを果たしている。軽量級ならばともかく? この階級で女子が男子上位ランカーに勝つことは驚異的、、否、ミラクルといってもいいだろう。実質、彼女はこの階級では植松拓哉に次ぐ実力者との見方が多い。そこに登場してきたのが堂島龍太であり彼またその階級なのだ。

ちょうどその頃、キック界のスーパースター、ダン嶋原のもとに、マッチメーカー沼田を通じてあるオファーがあった。
あの小天狗と言われた嶋原も30を目の前にしてあと数戦したら引退を考えていた。

「故堂島源太郎さんの娘さん、、ASAMIと総合ルールで戦ってほしい…」

嶋原にしてみれば一番戦いたくない相手。彼にしみれば、弟のように自分をかわいがってくれた恩ある堂島源太郎の娘。
まだデビュー間もない頃、堂島源太郎の家に遊びに行くと、当時小学校入学前の麻美の姿があった。赤いスカートの似合うかわいい女の子だった。抱き上げて高い高いしてあげるとキャッキャ言って喜んでいた。

“そんな麻美ちゃんと、俺はリングで拳を交えるのか? 真剣勝負しろっていうのか?堂島源太郎さんの娘を俺は殴れるのか?”
しかし、堂島麻美はダン嶋原との試合を熱望しており、嶋原にしてもマッチメーカー沼田に睨まれれば逃げられないことは分かっていた。これも宿命なのだ。

龍太vsシルヴィア、麻美vs嶋原を仕組んだのはNOZOMIであった。この兄妹の真の実力を試してみたいというのが理由であるが、正直、現段階では龍太も麻美も勝つのは難しいと思っている。そうなったら、
かわいそうだけど、私との一戦は実現しないだろう。どちらか一方が勝ったなら、いよいよ私も腰を上げることになる。

そして、どちらも勝ってしまったなら?

ふと、NOZOMIの脳裏に植松拓哉の顔が思い浮かんだ。パウンド・フォー・パウンド、不敗を誇るこの男は、その冷酷無比な戦いぶりから氷点下の男と形容される。
(作者のイメージでは和製ヒクソン、和製ヒョードルを思い描きました)
堂島龍太とシルヴィア滝田の試合は、この植松への挑戦権をかけたもの。どちらが勝っても植松拓哉には絶対勝てないだろう。それはNOZOMIにも分かっている。彼女だって植松に勝てる自信はない。だけど、、NOZOMIにはある目論見があった。


そして、その日を迎えた。

まずリングに上がったのは堂島龍太とシルヴィア滝田。この異色の対決に場内から大声援が飛んだ。龍太にとっては、あの柳紅華戦以来の女子との試合である。
試合前の計量では龍太177cm69㎏、シルヴィアは177cm69.5㎏。ほぼ同体格だ。

この二人の試合をリング下でNOZOMIが、そして植松拓哉がジッと見ている。

麻美が豹なら龍太は龍である!


この試合(次の麻美vs嶋原も)の模様は本編ではあまり描いていないのでもう少し詳しく書こうと思います。

さて、この『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』 も、当初の予定よりだいぶ長くなってしまいました。次作のヒントになればと書き始めましたが、ミックスファイト物の新作は難しく、この物語の続編(その後)的なものになっていくと思います。

よろしければもう少しお付き合い下さい。

続きます。







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