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新作 『Genderless 雌蛇&女豹の遺伝子』(3)救世主か?その後のNLFS。

雌蛇NOZOMIに敗れた植松拓哉は彼女へのリベンジをマスコミの前で誓った。このままでは格闘技にすべてを賭けてきた男の人生が全否定される。いくら、パウンド・フォー・パウンド最強の男といっても女子に失神させられ敗れてしまったのだから過去の実績なんて何の意味も持たない。
しかし、燃え尽きたNOZOMIは堂島麻美戦を最後に引退すると表明。その時の彼女の表情を見た植松は、もう自分と戦ったあのNOZOMIではなく抜け殻だと感じた。
世間ではNOZOMIの “勝ち逃げ” という声もあったが、女相手に「逃げるな!」も何もないだろうと植松は思う。シュートマッチは命のやり取り、最初の一発勝負で負けてしまえばその後はないのである。

NOZOMIが燃え尽きたのは本当だ。

“このままでは堂島麻美と戦う資格が自分にはない。彼女(麻美)が目指してきたのは父である堂島源太郎を倒したNOZOMIであってこんな抜け殻(私)ではないのだから… ”

しかし、その麻美も兄との死闘で燃え尽きていた。あの死闘で頭から危険な角度で落ちた兄龍太は命こそ取り留めたものの車椅子生活を余儀なくされた。麻美は戦うことの意味が分からなくなり、まるで憑き物が落ちたかのように “女豹” という魔物は内部に宿ることは二度となくなった。

ASAMIも引退表明。

それでも二人の引退試合は行われた。それはシュートではなくNOZOMI&ASAMI W引退式の一環としてエキシビションという形で行われたのである。

その後の引退式の模様は『女豹の恩讐』(72)ドージマコール にて。

NOZOMI、ASAMIが去ったあと、NLFS最強となったシルヴィア滝田が植松拓哉に挑戦してきたのは、NOZOMI&ASAMI引退式の半年後だった。シルヴィアは植松と同じ70㎏以下級であり注目されたが、勝負は呆気ないものだった。ゴングと同時に植松に襲い掛かりロープに追い込んだシルヴィアだったが気が付けば首を取られフロントチョーク。たまらずシルヴィアはタップ。
強い! たった 1R 1分20秒であった。

植松拓哉は明らかに変わっていた。
NOZOMI戦での敗戦が、彼の内部に何かをもたらしたのは間違いない。氷点下の男が更に研ぎ澄まされ殺気さえ漂う。
その後は連戦連勝、NOZOMI戦前よりグレードアップされたのは誰の目にも明らかで又、あの無敵 植松拓哉が甦った。

植松拓哉の快進撃は続き、念願の全米進出を果たす。植松は過去にも本場で数戦戦った経験があったが、その時はイージーな相手ばかりであり、今度狙うのは王者ドナルド・ニコルソンの首である。
植松がリングに登場すると「女に倒された男!」と観客から野次が飛ぶ。それでも上位ランカー数人破るとニコルソンも無視出来ない存在になった。“女に敗れた男” という汚名に耐えながら、植松はやっとドナルド・ニコルソンと同じリングに立った。
NOZOMI戦から3年…。植松拓哉も32才になっていた。これが最後のチャンスだろう。

全米王者ドナルド・ニコルソンのオーラは流石だった。氷点下の男と異名を持つ植松も呑み込まれそうだ。
試合は序盤こそ一進一退の攻防が続いたが地力に勝るニコルソンがジワジワ植松を追い込む。それでも、NOZOMI戦で学んだのか? NLFS女子ファイター譲りの意表を突く間合いで王者を追い込む場面もあった。
この5年間負け知らずのドナルド・ニコルソンはやはり強かった。フルラウンド戦った末、大差の判定負け。最終ラウンドはKO負け寸前まで追い込まれたが、植松は最後までリングに立っていた。

この試合を最後に植松拓哉は引退発表。
彼は22才で総合格闘技の世界に飛び込み、日本最強の称号をほしいままにしてきた。

38戦36勝(KO&タップ勝 33)2敗
植松の引退会見が世間に物議を醸した。

「格闘技にすべてを懸けてきたこれまでの人生でしたが引退を決意しました。まだ数年はやれる自信はありますが、やり尽くしたと思います。最後に目標だったニコルソン氏と戦えたことは誇りに思います」

そこで、一人の記者から「悔いのない格闘技人生でしたか?」の質問。

植松はその質問に、目を瞑りしばらく何かを考えている様子だ。

「自分の出来うる限り、すべてをやってきた誇りに思う格闘技人生だからこそ、私は悔しいのです! あのNOZOMIという女子選手に負けたことが、、、悔しくて悔しくて、未だに悪夢を見る思いです。どんなに誇りある格闘技人生であっても女子に負けた屈辱は残ります。自分の格闘家としての栄光なんて何も意味がない。でも、私は思う。もし、ドナルド・ニコルソンに彼女が挑戦していたら勝っていただろうと…」

記者の間から声が飛んできた。
「女子に負けたことがあるからといってアナタの格闘家としての輝きは決して汚されるものではない!それこそ、差別というものではないでしょうか?」

植松は  “そんなこと頭では分かっているが格闘技もGenderless だと? オレは女に負けたのだ。それは差別問題とは全然違う。それとも同じことなのか?”  そんなことを考えたが、あとは押し黙ってしまった。

そして、植松の「NOZOMIはドナルド・ニコルソンより強い」というコメントは、日本にとどまらず、海外にも伝えられニコルソンも激怒したとの噂だ。

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山吹望(NOZOMI)と堂島麻美のW引退式から10年の年月が流れていた。

NLFS(NOZOMI ladies Fight school.)を運営しているのは榊枝美樹である。もう、この女子格闘スクールを立ち上げたNOZOMIこと山吹望は完全にこのスクールを彼女に任せている。山吹望は引退後、ファッション関係の会社を興し、ファッションの世界でもジェンダー・レスを広めてきたが、今では海外に移住し新たな何かを構想中らしいが、年に一度は来日しこのNLFSの道場に顔を出すようだ。堂島麻美は山吹望の会社でファッションモデル等で手伝っていたが、大学を卒業すると教員試験を受け今では地方の女子校教師をしているとのことだ。山吹望39才、堂島麻美も29才になっている。

あのNOZOMI&ASAMIの引退式を演出したのが榊枝美樹である。彼女は堂島麻美と同期のNLFSのスクール生だったが、格闘家としては芽が出なかったが、運営する側としての有能性を山吹望に認められ今ではこのスクールの代表になっている。女子による女子の為のスクールであり、男子のスタッフは置いていない。10年前には選手だったシルヴィア滝田、奥村美沙子も既に引退しており、今ではスクール生の女の子を指導する立場である。

山吹望が男子格闘技界に殴り込むをかけ、
あれだけ格闘技界に旋風を起こしたNLFSだったが、、かつては異性対抗戦で男子を圧倒してきたNLFS女子ファイターも次第に勝てなくなってきた。
それは、かつて山吹望も心配していたように、NLFS流女子ファイトスキルを男子に覚えられてきたことに原因がありそうだ。
このままでは運営が立ち行かなくなると、榊枝美樹は頭を悩ませていた。このスクールを立ち上げた山吹望は言っていた。

「格闘技を通してジェンダーレスの意味を世の中に一石を投じてきたのは確か。それでもいずれ男子に勝つのは難しくなってくると思うけど、そんな時に必ず救世主がやってくる。美樹が限界だと思ったら畳んでもいいけど、もう少し辛抱してみて…」

それでも限界かと思っていた頃だった。

一人の美女がNLFSの道場に現れた。
最初にその女に対応したのはシルヴィア滝田。シルヴィアは女の顔を睨むようにジッと見つめた。スクール練習生希望にしてはちょっと大人だ。それにどこかで見た顔である。20歳は超えていそうだ。

「何の用? アナタの名前は…」

「〇〇大学4年、植松あかねと申します。卒業したらこのスクール入校を希望したいのですが、、、入校試験はいつですか?」

う、うえまつ  あ、あかね。。。

シルヴィアはそのビッグネームに目を見張った。あの植松拓哉の一人娘である。

つづく。

次回は1週間後ぐらいになります。







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