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笑顔のままで

着ぐるみの笑顔はそれでも笑顔で
だけど目の前で素の姿を晒すから私はどうしたらいいんだろう?

御伽話のユートピアの様なところでぬいぐるみが頭の上を取ってしまったらそこは夢の国では無くなる。それをしていいのは舞台裏だけだ。スタッフオンリーの絶対の秘密だ。
しかし私の親はそれをやる。
私の前でだけ被り物の笑顔を繰り出し、兄や姉が隣に来た途端に頭を取る。それを全て見せた上でまた私に向き直ると頭を取り付ける。
幼い私は本音から取り残された様に思っていた。私だけが借りてきた親戚の子みたいに違う席に座らされている。

本音の際どい世界の方が気持ちのやり取りがされていると思った。ただし、子供が入り込めなさそうに思った。言葉は激しく辛辣だった。

バッタもんの安いプリンセスの母は
私を騙してくれる気もないのに毎日そうやって近づいてくる。

父親は被り物をしていない。そこまで器用ではない。いつの間にか私の顔面には誰からも褒められる笑顔があった。複雑な家庭を渡り歩くために手に入れた綺麗な笑顔、この笑顔の裏にしっかりと私の本音は仕舞われている。上の兄弟から歳離れた私は親にとって癒し担当だった。年頃の息子とバトルした後は小さな子供に子供騙しな笑顔を向けて疲れた心の帳尻を合わす。しかし私はそこに巻き込まれてはならない。私にとっては笑顔では無いが世間が喜んで帰っていってくれるなら笑顔Aのエキストラで霧の様に霞みたい。トラネキサム酸笑顔、あなたの傷を私は欲しくない。

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