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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ その三十一

※其の三十からの続きです。気軽にお付き合いください。



 立ち上がる相馬そうまを足払いで私は何度も倒す。

「……がはっ!!」

ゴンッと鈍い音が道場に響く。

剣道には正々堂々というイメージを持つ人が多い。もちろん足払いは学生剣道では反則以外の何者でもないが、たとえば警察剣道大会では足払いも場合によってアリなのだ。試合ではさすがにないが、相馬が四日市よつかいちの面を剥ぐ行為も稽古中ではなくはない。実際、私は幼少の頃、先生同士の稽古中にルール無用で足払いや面剥ぎ行為なども見たことがある。命のやり取り、生き残るため、やられないようにするため、と言えば少しは伝わるだろうか。

「立て! 相馬!!」

立ち上がるのも困難になってきた相馬はそれでも立ち上がる。

「はぁ……はぁ。くそっ。……雪代おまえなんか。……関係、ないだろ」

肩で息をして、構えるのもままならない状態の相馬。隙だらけだろうが私は攻撃を緩めない。彼女たちの因縁の『突き』技で吹っ飛ぶ相馬。こんな状態でも冷静に技を放てる自分に驚きつつも、立ち上がる度に琴音ことね先生から教わった直伝の『突き』技を放つ。何度も何度も。道場では誰も声を上げる者はいない。相馬の転倒する音だけが響く。

(眉間、胸、喉、1、2のサン!!!)

相馬の突き垂れに確実に命中させて放つ。竹刀は綺麗に弧を描き、もう何発『突き』を放ったか。とうとう立ち上がれなくなった相馬に近づき、私は相馬の面を剥ぐ。喉元は何発も受けた私の『突き』技で真っ赤になっている。

「あっ……あぁ、うぅ。がはっ……」

力尽きたか気を失う相馬。

「……宗介そうすけ。水だ。バケツに水を汲んで来い。早く!」

言われた宗介は慌てふためきながら、滝本たきもと前田まえだとバケツに水を汲んできた。そして私は思いっきり相馬の顔に水をかける。

「がはっ、がはっ。……ゲホッ! ゲホッ!」

私の行動にみんな驚く。心配そうに弟の宏樹ひろきが私を見つめる。

「……大丈夫。お前の大事な姉だ。悪いようにはしない」

一言だけそう伝えた。意識を取り戻し、体をゆっくり起こす相馬。

「……わかったか。相馬。四日市や宏樹の気持ちが。なにより、やられて苦しい思いをした自分に」

ここまでやられて惨めな思いをしたからか、悔しさからか、相馬も泣き出した。

「くそっ……関係、ねぇ……だろ。お前ら……なんか……うぅ……あぁぁ」

宏樹も再び泣き出す。これで決着したとは思えない。形だけは一連の騒動から終わりを告げたのかもしれない。だが、私たちは高校生。まだまだ子供だ。これで終わるわけがない。相馬は泣き続けた。そこに強がっていた彼女の姿はどこにもなく、哀しい惨めな思いをした女子高生を剣道部員わたしたちはただただ黙って見守った。

「……おい。立てるか?」

一頻り泣いた後、八神やがみが間を取って、相馬に手を差し伸べる。その手を払いのけて相馬は自分で立ちあがる。すると。

「相馬ー。ウチら、お前と縁切るわ~」

相馬とつるんでいた3人の不良グループの1人が再び相馬をドンと押し倒した。

「もともと気に食わなかったんだよ! 相馬おまえなんか!」
「たいして強くねーのに四日市との喧嘩に巻き込みやがってよ!」
「バーカ!!!」

突き飛ばされた相馬は3人を見上げる。

「……な、なにっ」

真っ赤に腫れた泣き顔に、真っ赤に腫れた喉元。今の相馬に威厳などありもしなかった。

「……弟。大事にしろよ」
「たまには応援あそんでしてやるよ」
「じゃあな」

そう言って3人は道場から出て行った。静けさを取り戻す道場。私は最後に言わなければならない。相馬と四日市に。

「……わかっているな。相馬。四日市。私が勝ったらなんでも言うことを聞いてもらうと」

二度と剣道部に絡むな。道場に足を向けるな。剣道のことで喧嘩するな。何でも良い。その言葉を言って終わりを迎える。剣道部員なかまもようやく安堵と言ったところだ。だが、私は2人に言った。絶対、許さない・・・・と。

「相馬、四日市。剣道部に入部・・しろ! 宏樹を含めた今回の件、この総武学園そうぶがくえん剣道部で罪を償え!!」

一瞬の間。おそらく、剣道で言えば相面打ちでどちらが1本になったかの間。一瞬、シーンと静まる道場。

「「「はぁぁぁ!?!?!?」」」

剣道部員なかま全員の声が驚きをも通り越す。

「き、貴様! 正気か!!」
「な、なに考えてんだ!!」
「そ、そうだよー、危険すぎるー!」

藤咲が、八神が、日野が罵声に近い声を私に浴びせる。ひかりですらそんなことを言うとは思わなかったのか驚き、男子に至っては開いた口が塞がらないのか呆然としている。

「勝ったのは私だ!!! この件については誰にも文句を言わせない!!!」

全員を見やる。私の本気が伝わったのか罵声が止む。

「相馬、四日市。このままでは、いずれお前たちはまた傷つけあう。それも今度は最悪な形で。そうなる前に総武学園剣道部ここでで今までやってきた自分たちの愚かな行為を反省しろ! 言ったはずだ! 私はお前たちを許さないと!!」

そして最後に一言だけつぶやく。

「……だが、剣道部ここでで反省するならば、許してやらなくもない」と。


                 続く

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