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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二

※其の一からの続きです。気軽にお付き合い下さい。



 教室から空を眺める。雲がゆっくり動き、私はその気持ちよく流れる雲をペンでトン、トンと小さな音で机を叩く。トンッと叩いた時、カッターで紙を勢いよく裂くよう脳内でイメージする。

(うん。……面あり1本)

太陽が雲に隠れていく。私は立ち止まった相手が次になにをするか予想する。

(太陽が……。消える。……来る!)

相手の飛び込み面だ。予想していたので竹刀で受け止めることができた。

(次は……。そうだよね)

太陽の日差しがゆっくりと教室に差し込む。

(それだと、私には勝てないよ)

フフッと1人で笑う。

「なに1人で笑ってんだよ。雪代ゆきしろ

急に話しかけられて、現実に戻る。

「……あっ」

脳内から剣道のイメージが霧散して、私は話しかけられた方を振り返る。

「……。なんだ、宗介そうすけか」

やれやれと言った表情で宗介が呆れる。

「またいつもみたく空を見て。一体なに考えてるんだよ」

私はクラスで、これと言って人と話すことはない。当然、友達なんかも中学時代にはほとんどいない。高校に入学してからゴールデンウイーク前まで一緒に遊んでいた子たちとも、あまり気が合わずに今は必要な時以外は話さなくなった。ただ、最近はちょっとずつ私の中でも変化が訪れた。

「あっ! おはよー、雪代さん! 宗君もおはよー!」

明るく元気な声でクラスに入ってきたのはひかりだ。

「おはよう、光」
「お、おぅ、おはよう、月島つきしま……」

既にクラスの人気者の月島光つきしまひかり。頭を丸めている割には、ちょっと自分に自信なさげな男子の北馬宗介ほくばそうすけ。そして、周りからは陰キャ?みたく思われているだろう私、雪代響子ゆきしろきょうこ。はた目から見れば、何故この3人は普通に会話するのか疑問に思うだろう。だが、私たち3人には共通点がある。

「ひっかりー! おっはよ!」
「今日は朝練ないの?」
「ねぇ、雪代さんたち、今度の日曜日って剣道部練習あるの? ないなら光貸してよー」

そう。私と光と宗介は同じ剣道部員だ。なので、アンバランスな私たちが会話をしていても周りは不自然には思わず、むしろ自然に話しかけてくる。それには理由がいくつかある。

「あー! ごめん! 今度の日曜日は大事なインターハイ支部予選があるんだ~」

光は、「私は出ないんだけどね」と両手で謝りを入れつつ。

「3年生の先輩を応援しなきゃ!」

その理由の一つが、高校の方針『文武両道』だ。私が通っている総武学園そうぶがくえん高校は、大なり小なり文系の部活だろうが運動部だろうが、部活に所属しているものは大会や練習をサボるという概念がほとんどない。むしろ、積極的に参加するのを良しとしている風習で、しかし、それはガチガチな規律なんかではなく、総武学園うちの高校はあくまで自主性を重んじる。ようはメリハリのある高校なのだ。

「そっか~。じゃあさ、大会終わったら付き合ってよ!」
「おいしいクレープ屋さん見つけたから、一緒に行こ」
「雪代さんや北馬君も来る?」

と、言った感じで私たちのクラスは変にギスギスしておらず、さっぱりしているので私はとてもやりやすい。

「うん! 行く行く。雪代さんや宗君もおいでよ!」

光がクラスメイトと話している間に、宗介も同じ思いをしてたようで。

「まぁ~、とりあえず。俺の高校デビューも上々だな。クラスメイトも良い奴ばっかだし、このクラス、結構可愛い子も多いしな」

その可愛い子の前ではオドオドするくせに、私の前ではなんで素なんだよ。なんかムカつくな。

「今度の日曜日の試合! 俺は頑張るぜ! 入部してそうそう、先鋒せんぽうにレギュラーとして出場するからな。選んでくれた大徳だいとく先生や3年の先輩たちを支部予選で引退させちゃ、俺のプライドが許さねぇ!」

理由のもう一つが、剣道部の活動だ。総武学園剣道部は伝統ある部活で、男子顧問の大徳先生が赴任してから30年以上の歴史がある。平成の初期に、総武学園高校が男女共学校になってからは、女子の部員が急増。その流れは途切れることなく、女子は都内でも一時は強豪高校として名を馳せていたらしい。ここ7~8年は都内で団体、個人ともにベスト16が最高成績で、春に行われる関東高等学校剣道大会の出場も遠のいている。元号が変わったばかりでまだ読み慣れない今は令和3年。総武学園剣道うちの実力は中堅クラスの高校という位置づけだ。

「見てろよ! さっそく大会で結果を出して、バカ姉貴にLINEしまくってやるからな!」

なんだか個人的な私怨?みたいなのも感じるが、意外と姉弟仲は良いのかな。私はゴールデンウイーク明けに剣道部に入部したので、入部してからまだ日は浅い。けど、クラスではありがたいことに光や宗介と同じクラスなので彼らと話すことも多く、中学時代とはまったく違う生活を味わっていて、なかなか新鮮だ。


                 続く




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