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大津絵節と柊原郷土芸能保存会

※当記事は、垂水市の市報(2024年5月号)の「たるみず歴史・文化散歩」のコーナーに掲載したものを加筆したものです。

大津絵節

「大津絵節」の大津絵とは、江戸時代近江の国(今の滋賀県)の大津と京都を結ぶ逢坂関(おうさかのせき)で、旅人の手軽な土産物として売られていた民画・護符です。
中でも、藤娘・鬼の寒念仏・雷公・外法大黒・鷹匠・座頭・瓢箪鯰・槍持奴・弁慶・矢の根男という代表的画題は「大津絵十種」と呼ばれ、この画題にちなんだ歌詞の音曲や俗曲、および舞踊もうまれ、これを大津絵節とか大津絵踊りと言います。

大津絵節と一口に言っても、時代の変化や各所に伝播するうちに、曲や歌詞にはいくつかの派生が生まれるようになりました。 
特に有名なのは嘉永年間から明治にかけて流行した曲節で、近松門左衛門作の浄瑠璃「冥途の飛脚」(※「梅川忠兵衛」とも呼ばれる)」の物語を歌い込んだ「大阪を立ち退いて」がよく知られています。

大津絵節は特に幕末から全国的に流行し、日本の各地に多くの替え歌ができました。鹿児島では「おちえ節」とも呼ばれ、桜島の大正噴火を歌った「鹿児島大津絵節」なども作られました。

柊原郷土芸能保存会

柊原地区では明治時代から大津絵節が歌われており、昭和初期になって、関西に働きに出ていた若い女性たちが帰郷する際に柊原に持ち帰り、再び大津絵節が広まり踊られるようになったと伝えられています。

しかし時代の移り変わりとともに大津絵節は忘れられていきます。踊り手もほとんどいなくなった二〇〇九年に柊原在住の森山稔氏が発起人となり、地域の有志と「柊原郷土芸能保存会」を立ち上げます。以降、地区の文化祭や垂水市内外の各種イベントで踊りを披露し、老人ホームなどにもボランティアとして年間十数回訪問したりするなど、市内の伝統的舞踊からすると新しい芸能文化団体でありますが、精力的に活動しています。

柊原郷土芸能保存会がレパートリーとしている大津絵節は5演目あり、上記の「大阪を立ち退いて」で始まる『大阪』、忠臣蔵の物語において、赤穂浪士の吉良邸討ち入りを支援した義商天野屋利兵衛が登場する『泉洲堺』、同じく忠臣蔵の早野勘平と千崎彌五郎が出てくる『天罰』、歌舞伎「加賀見山再岩藤」の内容を歌った『加賀見山』、陰陽師安倍晴明の出生説話をもとに、浄瑠璃や歌舞伎「しのだづま」の話を歌にした『くずの葉』、実話の心中事件を題材とした歌舞伎「明鳥花の濡衣」のあらすじを歌った『明けがらす』が伝わっています。

現在保存会は会員数10名、月2回柊原公民館で稽古をしており、大津絵節のほか、茨城県の民謡「新磯節」、東北の民謡「三下り」を踊り、発表会などの総踊りでは「おはら節」や「炭坑節」も披露します。

柊原郷土芸能保存会はこれからも大津絵節などの踊りを通して多くの方に笑顔を届けていきます。
催事の折には、ぜひ柊原郷土芸能保存会をお呼びたてください。

中谷潤心
二〇二四年三月十日記す


▼各5曲の歌詞

●大阪
大阪を立ち退いて
二人の姿が目に立てば
かり籠で人目を忍ぶ
奈良の旅屋(はたご)や三輪の茶屋
一日二日と月日を送る
廿日余り四十五両
使い果たせし二分残る
(※森山久子さんの筆記では「果たして」)
金より大事な中兵衛が
とが人と致しましたも皆妾(わた)し故
さぞかし腹も立ちましょうが
因縁づくじゃとあきらめ下しやんせ

●泉洲堺
泉洲堺の賑やかさ
諸国港は入船出船
名も高き天野屋利兵衛(あまのやりへー)は鎌倉方の
お屋敷に送る荷物の数ある中に
あるいはにわかに担ぎ込む
長持ちともにみなぎるしょうじ欲で
目ばかりの頭巾で十手を振り上げる
利兵衛は長持ちの上に飛び上がる
五分も引かせぬ
男利兵衛を見込んで頼むが大石蔵之助

●天罰
天罰当たる二ツ玉
かんぺぃや見るよりこれは旅の人
名もさんも死なしたり
薬はないがと懐中に
さがし果てたる金財布
道ならぬ事なれば
手に取る吾(わ)れのありしこの金を
無理なる一つの分別に
懐に収めて駆け出す元の道
矢五郎殿に渡します
五十両の金じゃと急ぎ行(ゆ)く

●加賀見山
加賀見山 七ツ目 岩藤 御殿の務役(つとめやく)
ちょろり 尾上(おのうえ)殿(どの) 草履で頭(かしら)を叩かれる
もはや無念と吾家(わがや)へ急ぐ
自害と決めし身の覚悟
下女のお初(はつ)は文使い
宿屋使いの道すがら
カラス鳴くどうやら気になる文箱を
開けにゃびっくり
(※森山久子さんの筆記では「開けたや」)
自害の書き置き
お初は剣の加賀見山

●くずの葉
恋しば恋しさに訪ねてきてみよ泉なる
信田(しのだ)の森の恨み
くずの葉が
吾家(わがや)の本証は
白(しろ)狐(ぎつね)きいて
保名(やすな)びっくり仰天し
たとえその子が狐でも
今まで吾子(わがこ)と生み育て
もう一度逢いたい顔見たいさに起き上がる
くずの葉も今更 名残は薄けれど
親子の契り 早やこれまでと
故郷(ふるさと)さしてぞ急ぎゆく

●明けがらす
雪はさらさら降り積もる
お客と女郎衆(じょろしゅう)はけん座敷
そばじゃや 芸者が三味(しゃみ)を引く
浦里 涙で顔かくす
今宵一夜は中休み
好いた主(ぬし)となら
妾(わし)やどこまでも
何か惜しかろ
露の縁(えん)
浮世じゃなー
浮川 たけの務(つとめ)の身体(からだ)
あらゆる涙は雪とかす
今宵はまもなく明けからす

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