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WRC 2023 Rd.12 Central European Rally


初の欧州3カ国跨ぎ

WRC史上、国境を跨いでラリーをやる。という事は案外珍しくない。
スウェデッシュラリーでは一部ノルウェーに入ることもある年があったし、モンテカルロラリーは基本的にモナコとは銘打っているが、サービスパークそのものがフランス国内に設置されてたり、何なら殆どモナコを走らない年だってある。
ただ、そうした色々な事情にせよ、WRCのホスト国というのは基本的に1戦1国という暗黙の了解がある。先述の通りスウェデッシュラリーもモンテカルロラリーもそれぞれノルウェーとフランスにステージが跨っていても、開催国はスウェーデンとモナコなのだ。

そう考えると、今回の欧州3カ国跨ぎはかなり新鮮。大々的にチェコ、オーストリア、ドイツと跨いでいるのだ。しっかりイベントプレートにも三カ国の国旗が踊っているので、サービスパークはドイツのパッサウでも、しっかり開催エリアとして国の扱いは同列であることが分かる。
セントラルヨーロッパなので、媒体によってはEU旗があしらわれていたりするので、そういう意味ではF1のヨーロッパGP(欧州内をちょこちょこ転戦してたと言いつつほぼニュルGPコース)みたいなものだろうか。いや違うか。

今回のセントラルヨーロッパラリーは、木曜と金曜をまるっとチェコで走り、土日はドイツとオーストリアを行ったり来たりという具合
4日間で三カ国の紅葉深まる晩秋に、SSは18本、合計310.01kmの設定。リエゾンまで含めた総走行距離は1690.70kmとなった。


波乱の金土

本格的なラリースタートとなった金曜日、全くコンディションが定まらないようなフルウェット+泥パッチまみれの路面で飛び出すはロバンペラ。
このチェコで行われる金曜日に30秒のリードを築いて走り抜ける。
後方では絶対に負けられないエバンスも食い下がるが、ヌービルが割って入りややロバンペラ優勢で事が進む。
しかし、翌土曜日、トヨタ勢の2台、ロバンペラがSS10でオーバーシュート、幸運にもスペースの広い場所ですぐに復帰。マシンも壊さずに済んだ。
だが、続くSS11で僚友のエバンスがコースオフ、こちらは完全にマシンを壊してしまいデイリタイア。
このSS11を走る前にエバンスのリタイアについて一報を受けたロバンペラは、このラリーを完走目標に切り替えた。結果的にこの土曜日でラリーはほぼ決着、ヌービルがトヨタ勢2名をパスしてそのまま今季2勝目。
ただ、遅すぎた感の否めない2勝目であり、完走後のインタビューでも笑顔ではあったがサルディニアで勝った時の彼の笑顔では無かったように思う。
ターマックでは高パフォーマンスを見せるヌービルにとって、このイベントがシーズン半ばにやって欲しいという気持ちは多分あるに違いない。

タイトル連覇を喜ぶロバンペラとハルットゥネン
画像出典:トヨタGR公式HP

セントラルヨーロッパラリー 2023 最終結果
1位:ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ(ヒョンデ)
2位:カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン(トヨタ)
3位:オイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ(フォード)
4位:セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ(トヨタ)
5位:勝田 貴元/アーロン・ジョンストン(トヨタ)

6位:テーム・スニネン/ミッコ・マルックラ(ヒョンデ)
7位:グレゴワール・ミュンスター/ルイス・ルッカ(フォード) 
8位:アドリアン・フォルモ−/アレクサンドレ・コリア(フォード) ※WRC2
9位:ニコラス・シャミン/ヤニック・ロシュ(シュコダ) ※WRC2
10位:ピエール=ルイ・ルーベ/ベンジャミン・ヴェイラス(フォード)


全てのタイトルが決着

このセントラルヨーロッパラリーを2位完走で終えたロバンペラは、自身初のドライバーズタイトル連覇に加えて、フィンランド人としてはなんと24年ぶりの2連覇となった。過去の達成者はもちろんT.マキネンで彼の96年~97年での連覇以来となる。意外だがM.グロンホルムは00年と02年なので連覇はしていない。
新たなる複数回の王座獲得者という点で、ロバンペラはオジェ以来ともなる。とはいってもオジェの初連覇も13年~14年のこと。本人も最終日インタビューでそれについて聞かれた際に、大分昔のことだね。と答えた程だ。

考えてみるとトヨタはこれで3年連続とトリプルタイトル獲得。完全に93年~94年の頃になし得た連続制覇を更新してみせた。もっと言えば、トヨタ所属のドライバーによって5年連続でドライバーズタイトルが紡がれており、マシンとドライバーがセットで強いことを示していると言える。

筆者は、ドライバーズタイトルが"速さ"の指標で、マニュファクチャラーズタイトルが"強さ"の指標だと考えている。なぜならば、ドライバー自身の成績は一切の繰り上げ措置等は無く、純粋にラリーのリザルトとパワーステージの結果のみで積算されるからだ。すなわち速くなければポイントは積み上がらない。ロバンペラはSSベストタイム獲得数の多さもさることながら、パワーステージでのポイント積み上げ量もライバル達を圧倒している。彼の速さの結果であろう。

対して、マニュファクチャラーズタイトルは強さと書いたが、これはマシンの信頼性やチームとしての戦略やパフォーマンスによるところも大きいからだ。現に2017年はMスポーツがタイトルを総なめにしたが、翌18年はトヨタが早々に3回目のメイクスタイトルを奪取している。勝てるドライバーが必要なのはもちろんだが、その勝てるドライバーに引けを取らない速いドライバーが複数名必要なのも確かだ。
そしてそのドライバー達のドライビングを受け止めきるクルマも必要なのだ。故に、メイクスタイトルを獲るというのはチームの総合力が必要で、ドライバーの速さを支える信頼性、戦略性、決断力などが試されている。

そしていよいよ来年は、13年~16年にかけてVWが果たした4年連続完全制覇のタイ記録にトヨタ陣営は挑むことになる。
おっとその前に、モリゾウさんもイベント後のコメントに書いていたけれど、今年はラリージャパンで地元優勝を絶対に成し遂げて欲しい限りだ。タイトルも全部決まった事だし、全力で忘れ物回収に挑む時が来た!

チャンピオン獲得のポーズはしっかり打ち合わせ済みだったようだ
画像出典:トヨタGR公式HP

各チーム其々の週末

◆トヨタガズーレーシングWRT
セントラルヨーロッパラリーで惜しくも9勝目とはならなかったトヨタ、これで最後のラリージャパンを制覇したとしても年間9勝までということになってしまった。ただし、年間10勝というのはあくまでおまけで、ロバンペラにとってはしっかり完走して2年連続のチャンピオン確定の方が遥かにプライオリティが高いことであるのは明白。ここで無理にヌービルと競って、ロバンペラもデイリタイアしていたとしたらそれはそれでせっかくの祝賀ムードも台無しなので、ロバンペラとチームの賢明な選択は至極当然と言える。

なにはともあれ、今季のポルトガルまでロバンペラはやや不発か、なんて言われていたがそうした"早まった"意見は全くの的外れだったと言えよう。

ただ一つ、このセントラルヨーロッパの残念でならなかったのはこうした初モノイベントで強さを見せるオジェがいきなりパンクで後退してしまったこと。本当にこういう雨に濡れたステージでピレリとGRヤリスRally1の相性は良くない。去年のラリージャパンでも最終日にエバンスがパンクしており、一体原因が何なのか筆者にはわからないが、もう来年からミシュランにしてほしい気持ちでいっぱいだ。
いや、今年のクロアチアでもいきなりオジェとロバンペラがドライ路面でパンクしてたわ……思い出したらムカついてきた。
ピレリにはホトホト筆者の個人的愛想が尽きている。ミシュランに前倒しで戻ってきて欲しいという気持ちは隠すつもりは無い。正直、来年もピレリを履かされるなんてとんだ拷問だ。2025年からなんて待てないよ。ミシュラン早く帰って来てお願い。

◆MスポーツフォードWRT
前回のチリではタナックの2勝目に沸いたが、その後タナックの離脱も明らかとなりややお通夜ムードのMスポーツ。しかし、このセントラルヨーロッパに向けて離脱が判明しても尚、タナックを別のターマックラリーで走らせて精力的にマシンの改善を図ろうという老舗の意地も見せている。
結果的にこのセントラルヨーロッパでは3位表彰台を獲得してみせたが、僚友のルーベはこのトリッキーなラリーに手を焼き、際立ったパフォーマンスとはならなかった。なんならセルデリディスの支援を受けて3台目のプーマを走らせたミュンスターの方がリザルトでは上回っていたほど。
ラリージャパンではルーベではなく、フルモーが復帰することが明らかになっており、来期のドライバーズラインナップについてもMスポーツに関しては正直どうなるか分からない。

◆ヒョンデ シェル モービス WRT
土曜日に崩れたエバンスと、オーバーシュートを起こしたロバンペラの合間を縫ってヌービルが首位に立ち、今季2勝目を挙げた。しかし、すでにメイクスもドライバーズも彼らの挑戦権は終了した後での今シーズン2勝目は遅きに逸したというものであった。
残るは次のラリージャパンで連覇を目指して走ることになる。昨年はアウェイのラリージャパンで1-2フィニッシュを飾っているだけに、今季もそのパフォーマンスはトヨタに立ちはだかる唯一の存在となるだろう。
何よりも来年は再びタナックが加入し、ダブルエース体制復活となるが、ヌービルにしてみると正直な話、メイクスタイトルは19年と20年に大願成就しているので長年の絶対的エースとしてはそろそろ自分のためだけに事を進めたいハズだろう。あくまで筆者の想像ではあるけれど……タナックが戻ってくるということは、ポイントの奪い合いになることも予想される。昨年はそれでバチバチした雰囲気が漏れてたこともあるので、一体どうなるやらである。


セントラルヨーロッパラリーのおわりに

【シートはどうなる?】
益々WRC参戦メーカーとして最強の名を磨くトヨタと、その若さで2年連続の王者奪取となったロバンペラのコンビはまだ数年続くものと思われる。現在まだ公式にトヨタチームのドライバーはだれも契約について発表はしていない(10月31日午前現在)
だが、競合相手であるヒョンデはすでにヌービルとフォードから出戻ることが決まったタナックについて発表されているので、3人目としてトヨタ陣営から誰かを引き抜くというケースはとても考えづらい。
むしろ勝てるGRヤリスを捨てて、わざわざイベントによってはシートがスキップされるヒョンデの3rdシートにロバンペラはもちろん、エバンス、オジェが座る事は無いだろう。当然、トヨタお抱えの勝田もトヨタ以外にシートを求める理由も無い。
一時、オジェが"FX"氏(VW時代のポロWRC開発を率いた名エンジニアであるフランソワ=グザビエ・ドゥメゾン氏の愛称)のヒョンデ入りと併せて、誘いがあったらしい。みたいな報道も一部の媒体で見られたが、後で本人が特にトヨタ以外に活路を見出す理由が無いと否定している。
オジェとしては今の家族の時間とラリーの時間でバランスを取れることに満足しているようだ。
ロバンペラも夏の頃、トヨタ以外と交渉か、なんて言われたがヒョンデは椅子が決まっているし、わざわざMスポーツへ行くことも無いだろう。というと2連覇を決めた以上、焦点はトヨタと何年契約で更新をするか。というのが筆者的目下の関心事項だ。ロバンペラ程の逸材であれば、5年契約でバーンと高年俸を提示して絶対確保して欲しいと思う気持ちは多くの諸兄が理解してくれると思う。
また、エバンスについても古巣のMスポーツがエース待遇を提示したとしても、ドライバーズタイトルを狙うのであればGRヤリスRally1から降りてしまったら血迷ったと言われるだろう。ロバンペラを倒すのは並大抵のことではないが、不振に終わった22年に比べ、今シーズンは2勝を記録、このセントラルヨーロッパでもパワーステージ優勝は奪取するなどパフォーマンスは22年比で大きく改善した。その点で行くのならば、彼も概ねトヨタと契約を更新すると思って良いだろう。

【ラッピの来期に暗雲?】
エサペッカ・ラッピ、EPと呼び親しまれる彼だがちょっと来期のシートについては確定していない。本来であれば、多分だが今のヒョンデからのフル参戦シートを2年契約ぐらいのハズだったかもしれないのだが
どういう解除条項が設けられているか筆者は解り得ないものの、チリとセントラルヨーロッパラリーと2戦連続のラリーリタイアは明らかに具合が良くない。リタイアするまでは良いパフォーマンスであっても、リタイアしてマシンを壊してしまうのではまるで意味が無い。トヨタにおけるエバンスの様に優勝を何度か果たしているのであれば、まだ弁解の余地もあろうが
ことヌービル以外の扱いには冷淡なヒョンデのことだ、ラッピが来年Mスポーツで再びステアリングを握ったり、GRヤリスRally1をプライベーターとしてレンタルしてても、驚く人は多くないのではないかと思う。
特に同じフィンランド勢のスニネンがチリこそ同じくリタイアであったが、セントラルヨーロッパを含めて内容的には良く。特にラッピに期待されていたであろうフィンランドなどのパフォーマンスも発揮できなかったことも彼にとっては風向きが悪い。タナックの再加入で良くて3人目としてのシートシェアの扱いか、それで折り合いがつかなければ荷物をまとめて出ていくことになると思われる。

【フォードもちょっと読めない】
23年のタナック加入はフォードにとって明らかにビッグニュースであり、その期待通り、タナックはここまででフォードに2勝を持ち帰った。だがそんな彼が早くも引き上げてしまう状況にあって、来年を考えるミルナー監督とマルコム御大の心中は青色吐息だろう。
やるからには勝ちたいと思うのが心情だろうし、勝たねばスポンサーも来ない。であるからして、勝てるドライバーが居なくなるということは、Mスポーツにとって来期はドベを這いつくばる展開が想像できる。
トヨタとヒョンデがまとめて6台消え去る展開なんぞサファリラリーぐらいでしか期待できない。それどころかそのサファリで自分達が何も無く生き残るなんてもっと想像しにくいだろう。
現在、Mスポーツでフル参戦するとしたら、ルーベとフルモーかといったところ。ミュンスターはまだ荷が重かろうし、冷たい言い方になるが勝てるドライバーは一人もいない。
では外部から招聘するか?となると、ヒョンデでぐらつくラッピか、オリバーやミケルセン等のWRC2勢を引き上げるかというとこになる。だがいずれにしても中々険しい選択だ。

Mスポーツはそもそも懐事情も潤沢ではないので、もしかすると1台はペイドライバーで済ませたいぐらいかもしれない。一応規定上メイクス対象車が2台は必要なので、2台体制では走らせるだろうが、その内の1台をチームが費用を持ち、もう1台をペイドライバーに割り当てて走らせればメイクスの要件は満たしつつ、懐事情はやや楽になる。なんて方法も考えられる。
そうするとセルデリディスがどの程度ミュンスターを支援できるかにもよるが、ちょっとそれはセルデリディスへの勝手な期待が過ぎるというものか。

後は、これもウルトラCだが、スポンサーのバッティングを何とか言いくるめて、フルモーとオリバーでそれぞれレッドブルカラーとモンスターカラーで共存させてしまえば話題性のあるメンツになる。レッドブル側とモンスター側がそんなの認めるとは思えないが、もし実現出来たらある意味でモタスポ史に永遠に刻まれるであろう珍事として記録されるかもしれない。


次戦は最終戦の我が国ラリージャパン!

次戦ラリージャパンは11月16日~11月19日で愛知・岐阜で実施される。昨年から早いもので2回目の開催が迫ってきた。
もちろん筆者もラリージャパンは観戦に行く、去年はSS観戦チケット争奪戦に敗れてしまい、泣く泣くサービスパークでサービス風景を眺め、サービスに帰ってくるマシン達を出迎えるだけだったが、今年はちゃんと額田の森SSをゲットしたので見に行く予定だ。
今年こそはトヨタ勢の地元優勝が見たいし、絶対に勝って欲しい。年間9勝を目指してロバンペラ!エバンス!勝田!オジェ!頑張ってくれい!!!

去年のラリージャパンでの1枚、サービス中の勝田号
撮影:筆者
WRC2勢のサービススペースは人が少なくて見やすかった
撮影:筆者
帰りは名古屋駅で豪華にしつまぶし!美味しかった
撮影:筆者


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