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作家の間に立つ。伝統工芸ディレクターとしての役割|山崎伸吾さん(京都 / 40代)

LIVE DESIGN School の23年度メンバー同士が、根掘り葉掘りするインタビュー企画! 各地で活動するメンバーたちが日々考えていること、そして、LDSの参加を経て見えてきた展望とは...?

プロフィール
 
ディレクター/キュレーター。京都を拠点に、音楽・美術・工芸・デザインの分野で多様な人たちと協働し様々なプロジェクトを手がける。
 地域に根ざしたものづくりに強い関心を持ち、主に伝統工芸の分野で作り手と使い手の接点が生まれる企画を行っている。2023年、場「山 山」を開設。京都伝統産業ミュージアムのディレクターとしてリニューアルディレクションを担当。
 その他、若手職人の人材育成プラットフォーム事業「京都職人工房」、ホテル型の工芸の展示会「Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE」、工芸を通じた国際交流を創出するプロジェクト「KYOTO KOUGEI WEEK」等でディレクターを担当。伝統工芸のウェブメディア「KYOTO CRAFTS MAGAZINE」の編集長。アートスペースの運営、音楽家として様々なタイプのダンス/パフォーマンス作品に参加。現代美術家の金氏徹平とともに領域を超えたフェスティバルも主催する。京都精華大学伝統産業イノベーションセンター特別研究員。一般社団法人Linked Artisan共同代表。バンドGTSVLのドラマー。
 福井県鯖江市で活動するリードデザイナーの新山直広さんと以前からの知り合いで、彼のSNSの投稿を見て開校を知る。これまで、京都府のプロジェクトの中で職人のコミュニティづくりの仕事を長く続けてきたこともあり、新しい学びや仲間を求めて参加を決意。

━━ 山崎さんは10年以上にわたり、地域や業種を超えたコミュニティづくりをされてきたとお聞きしました。具体的にはどんなことをされていたんですか?

2012年から、京都府・染織工芸課が主催する若手職人の人材育成プログラム「京都職人工房」の企画運営をしていました。そこでは、30代・40代を中心に、修行期間を終えて独立して間もない職人さんや事業継承を考えている方など、若手の伝統工芸に関わってお仕事されている方々を対象に、自分たちの今までの仕事や活動を、客観的に見て理解を深めるプログラムだったり、地域内外からバイヤーやデザイナーなどの専門家を招いて、さまざまなジャンルの人たちとの交流・マッチングの場を作ったりしていました。

伝統工芸の職人さんのように、何十年と一つの分野で仕事を続けてこられている方々は、自分たちの仕事を一般の方に説明したりする機会が少ないんですよね。なので、まずはじめには、自分たちのプロフィールを書く講座から開いてみたりして、そこで、自分の仕事の強みはどこか、それを一般の人に伝えるにはどうしたら良いかを考え、意識してもらえるようにしました。

━━ 職人さんを対象としたそのような取り組みは、あまり聞いたことがない気がします。

これまでも「伝統産業×クリエイティブ」のような取り組みはたくさんあったんですけど、東京から地方に有名なデザイナーがやってきて、彼ら、彼女らがしたいように商品やブランドのデザインをして、それでおしまい、となっているケースがとても多くて。一時的に話題になるだけで、結果ものは売れなかったり、ブランドは長続きしなかったり、伝統産業の作り手側にノウハウが蓄積されない状況が続いていました。

だったら、主体的に考えて動くのは職人側にしたらいいと。デザイナーが作りたいものを、職人がその通りに作るのではなく、職人が自ら作りたいものを考え、それに対してデザイナーなどの専門家がアドバイスをする。そんな学校のゼミのような形式を「京都職人工房」では取り入れていました。

━━ 昨年あたらしく構えられた「山 山」という場も、そういった職人育成や伝統技術の更新を意識して始められたんですか?

そうですね。京都の二条城の近くに構えた「山 山」という、仕事場でもあり、集合場所でもあり、発信拠点でもある場も、工芸や伝統産業の試行錯誤が見えてきたり、浮かび上がってくることを意識して運営しています。

かつてのように、伝統工芸が生活必需品で、職人たちは大量に作ることによって技術を向上をさせていた時代でなくても、3Dプリンターのような新しい技術や、使い手・伝え手などの異分野の視点を掛け合わせることで、全く新しい表現を生み出したり、先人たちが繋いできたものづくりや伝統を更新することができるんじゃないかと思っていて。

昨年の秋には、京都・清水で青磁を中心に器づくりを行う陶芸家の蘇嶐窯さんと、京都を拠点に活動されている写真家の町田益宏さんがコラボレーションした展覧会を企画しました。

━━ それはどんな展覧会だったんですか?

その展覧会は、蘇嶐窯さんが4代にわたって受け継ぎ、大事にしている「青」の表現をテーマにしていて、写真家が街や自然の中で撮影した「青」の写真を陶芸家に共有し、写真家から届いた「青」の写真を陶芸家が陶板で制作したり、その陶板を写真家が撮影する。そんな往復書簡のようなやり取りを繰り返しながら生み出された作品を展示・販売しました。

同じ陶器でも見る人や切り取り方によって全く違った表現になるので、陶器の知らない一面に気付けたり、「青」の色んな表情を見て取れたり、お互いの創作領域が広がるような、有意義な実験の場になりましたね。

━━ ディレクターである山崎さんは、今回のように全く違う専門性を持った二者の間に立たれるときは、どんなことを意識されてますか?

自分が間に立つときは、それぞれの言語化されていない感覚的な部分をよくよく聞くようにしたり、親和性や相互性のヒントとなるようなテキストを探してシェアしたり、共通点や違いを認識してもらうことを特に大事にしていて。

今回のように、形を作る人と形を作らない人といった、全く違った手法を持つクリエイター同士がコラボする場合は、お互いの仕事を知るワークショップから始めたり、一緒に色んな場所へ訪れて、そこで感じたこと・気付いたことを意見交換してもらったり、共有や対話の機会を多く設けるように意識していました。

━━ そのような経験を通じて、いまの地域にはどんなスキル・人材が求められていると思いますか?

その地域にしかない特有の素材とか資源を見つけて、それを組み合わせたり、分類したり、誰かに届く形に変えられる能力を持つ人がいたらいいなと思います。

例えば、昔から続く商店街には必ずお惣菜屋さんやクリーニング屋さんがあるように、デザイナーやコーディネーターが通りに1人いると面白いだろうなと思っています。

一つのエリアや組織には、そこの魅力を可視化して具体的に示せる人がいることが重要で、地域には、すでに間違いなく多くの魅力があるので、それを引っ張り出して、再解釈して、あたらしい価値を見つけられる、編集的な目を持った人が必要だなと思っています。

━━ 最後に、「LIVE DESIGN School」は今後どういった形になるとより面白くなると思いますか?

異分野・異業種同士が混ざり合うことって、常日頃重要だなと思っていて、「LIVE DESIGN School」はデザインの学校といっても、行政の人やファッション関係の人が参加していたり、本当に色んな人たちが集まっているので、この環境を武器にできる新しい環境が生まれるといいなと思います。

あと、色んな人たちの次の一歩を後押しできるのが、このスクールの良い所だと思うので、何かをやめちゃいたい人とか、何かから逃げ出したい人とか、また、運営やリードデザイナー以外に、参加者の交流を活発化してくれる人とか、誰かと誰かをつないでくれる人がいたら、もっと面白くなるんじゃないかなと思います。

参考リンク
青を探して
山 山 yamayama
木と暮らすデザインKYOTO
読むふるさとチョイス

(聞き手:中野裕人さん)

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