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「チームラボリコネクト:アートとサウナ」はアートなの?サウナなの?

会期終了間際の「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ」に行ってきた。

サウナと冷水シャワーを体験して「ととのう」という状態になってから「アート作品」を鑑賞するというコンセプトで、そのサイクルを3回繰り返し、3作品を見るという趣向。

チームラボは2001年から活動している「アートコレクティブ」。テクノロジーを駆使してアートを作るグループ(企業)だ。存在はだいぶ前から知っていたが、まともに見に行ったのは初めてかもしれない。

TikTokとはARの新作でコラボレーション。その作品はアプリで見ることができる。

結構前に日本で流行したサウナとくっつけちゃっただけ?と思いつつ、日時指定予約をして、東京・六本木のやや怪しい(?)寂しい通りに設置された会場へ向かった。

洗脳みたいな

QRコードを提示して屋外での受付を済ませ、屋内に入ると、アート体験の仕方を説明する動画をモニターで見る(日本語音声と日本語・英語字幕)。

こういう言い方はよくないかもしれないが、この時点でナレーション音声や背景音楽(が流れていたような?)がすでに新興宗教のよう。洗脳されて「ゾーン」に入っていく予感を覚える。

フェイスタオル、バスタオル、水着、水着の上に着る簡易な服(館内着)、マスク、防水袋(スマホが入る大きさ)が支給されるので、手ぶらで参加できる。ウォーターサーバーの水が飲めるので、それで水分補給をする。

更衣室は男女に分かれており、更衣室ではロッカー、トイレ、温水シャワー(ボディーソープ、シャンプー、コンディショナー、女性にはクレンジング)を利用できる。ドライヤー、使い捨てのくし、化粧水、乳液もある。顔を洗ってメイクしたい人や、髪が濡れた後に整えたい人は、そのためのグッズは持参する必要がある。

いつ以来かわからないサウナ体験

子どものときにどこかで少しサウナに入ったことがあるかもしれないが、大人になってからは初めてかも?というくらい久々のサウナ。

サウナは7つあり(1つは貸切、1つは女性専用)、80度、90度、100度のものがある。光や香りも異なる。1回目は80度、2、3回目は90度のサウナにした。ここで各回10分過ごすことが推奨されている。

熱い。熱いが、いられないほどではない。床に近い席と天井に近い席が階段状に設置され、上の席の方が熱い(熱い空気は上に行くからか)。定期的にスタッフが入ってきて、ロウリュ(サウナストーン=香花石に水をかけて蒸気を発生させること)をする。その直後は香りが強くなる。体の芯から温まる感覚はある。

冷水シャワーは1、2分浴びてくださいとのこと。冷水に耐えるのに必死で、そのエリアにあるというアートを見る余裕はなかった(忘れていた)。更衣室を出た所、サウナエリアにある、天井からつるされたランプのアートは見ていたが。

頭から冷水を浴びるのは無理だったが、肩のあたりから浴びられるシャワーヘッドもあったので助かった。

体を拭いて、水分補給をして、アートエリアに入る。各作品10分の鑑賞がおすすめだそうだ。

3つの「アート浴エリア」

降り注ぐ雨の中で増殖する無量の生命 - A Whole Year per Year / Proliferating Immense Life in the Rain - A Whole Year per Year
teamLab, 2020, Interactive Digital Installation, Sound: Hideaki Takahashi

部屋の中央に長いベンチがあり、その両側の壁に花のデジタルアートが映し出される。部屋は鏡によって広く見える(ほかのアート部屋でも同じ演出がなされていた)。咲いてしおれて消えて、また咲いて。技術的にすごいのかもしれないが、内容としては初期のデジタルアートっぽい。

生命は結晶化した儚い光 / Ephemeral Solidified Light
teamLab, 2021, Interactive Installation, Sound: teamLab

天井から幾筋もの水が落ちてくる。細い水の柱、水の林のよう。ほかの作品も同じだが、光と音楽があふれている。水柱を正面や側面から床に座って眺めることもできるし、水の中に入っていくこともできる。水の合間を縫って歩くこともできる。水に打たれないようよけながら歩くと、少しダンスのステップを踏んでいるみたいになる。

空中浮揚 / Levitation
teamLab, 2021, Digital Installation, Sound: Hideaki Takahashi

部屋の中央のスペースに大きな丸い球が1つあって、ふよふよゆっくり動いている。照明で赤く照らされており、太陽を思わせる。たまにスタッフが球をつついて、スペース内に球がとどまるようにコントロールしているらしい。参加者がそのスペースに入り込むのは駄目らしい。サウナ状態に温かい(熱い)木のベンチに座って鑑賞することができる。冷水シャワー後の身体にはありがたい。

「ととのった」か?

さて、私がいわゆる「ととのった」状態になったかというと・・・。

わからない。サウナと冷水の繰り返しで、眠くなったのは確かだ。最後に球の部屋でベンチに座りながら寝そうになった。

アート?サウナ?どっち?

1回目のサイクルから、「これはアートなのか?」という疑念や不信感でいっぱい。よく言われることだが、テーマパーク?期間限定の観光地?

いや、サウナだろう。まぎれもなく。私にとっては、アートよりもサウナの印象の方が強かった。

技術的には、光でも音でも熱でもデジタル映像でも(双方向であるなしにかかわらず)、「アート」になり得る。しかし、この会場のインスタレーションはアートとは思えない。

たぶん、作り手の思考や姿が見えてこないから?集団でアートを作る人たちはたくさんいるが、これは特色がないというか、透明な感じがする。結果、何も受け取れない。

チームラボがサウナで何かするのは今回が初めてではなく、「超自然現象的アート:万有引力に逆らうなど、自然界の法則を超えた現象を意味する『超自然現象』と、それによる認知そのものの変化をテーマにしたアート作品」というコンセプトもあるらしい(プレスリリースより)。

しかし、それなら、照明を当てられたボールを眺めるより太陽光を浴びたり月をめでたりしたいし、映像の花の盛衰よりも生花のそれを観察したいし、人口の水の柱よりも雨を浴びたい(うそ。浴びるのは嫌。傘を差すか室内から見る)。ロウリュもいいけど、花の香り、土の香り、夕飯のおいしそうな匂いをかぎたい。私の動きに電子(とは言わない?電気的な何か)が反応するよりも、本物の風を切ったり、草を揺らしたりしたい。

「人工は自然に勝てない」と言っているのではない(私は普段むしろ人工物に取り囲まれている)。ただ、それらの作品がその提示方法であらねばならない必然性が感じられなかった。サウナと冷水という「非日常」を経た後でさえ、何かを感じたり心が動いたりすることはほとんどなかった。

「体験型アート」「没入型アート」という言葉があるが、参加者たちは(私も含め)アートを体験していたのだろうか?このご時世なので、「(サウナ以外は)マスクを着用し、会話はお控えください」と指示されたので、おしゃべりに興じる人は多くはなかったが、話していた人たちも、たまたまなのか「アート」について話してはいなかった。その場所は、友人やカップルと遊びに行く口実にしかなっていないように見えた。

「伝統的」な美術館に行って、一緒に作品を鑑賞しながらそれについて(簡単な感想でも何でも)語り合う方が、よっぽど「体験型アート」ではないだろうか。

チームラボ 廃墟と遺跡:淋汗茶の湯 - ジーシー」はもはやサウナと風景がメインでアートが添え物な感じがして、いっそのことそれならよいのではないかと思えてしまう。

主催者側が暗に参加者を限定

こういう「最新型」みたいな風情を装っていても、更衣室は男女別の2つがあるのみ、というところから違和感が始まって、サウナやシャワーのために眼鏡を外したときにあまりに暗くて歩くのが不安で違和感が増大し、日英バイリンガル表記を見ながら最大限に達した。でも実は、訪れる前から、「水着着用必須」と知ったときに、気持ち悪さを感じていた。

欧米では高齢者も堂々と水着を着ているが、日本ではいまだに抵抗感があるのではないか。私はまだ高齢者ではないが、十代を過ぎたら水着を人前で着るなんて無理という感覚だ。それは特殊にしても、中年以上の年齢の人が都市の文脈の中で喜んで水着を着るとはやや考えづらい(「館内着」も、ショートパンツは予測以上に短くて脚の大部分が露出するものだった)。その考え方自体がステレオタイプかもしれないのだが、おそらく実際、客層は若者が多いのではないか。

水で濡れて滑りやすい床、暗い照明、方向感覚がわかりづらくパニックになりそうな会場の造り。説明書きに英訳はあるが、そもそも日本語も英語も文字が小さくて、会場が暗くて読みづらい。目の見えない人、耳の聞こえない人へのガイド(機会でも人でも)などはなさそうだ。

そう、「若く」て「健康」な人をターゲットにしていることが、あまりにあからさまなのだ。

もちろん、企業が商品やサービスのターゲットを絞ることには何の不思議もない、というか、その方が「常識」だ。これもその一環と捉えれば、わざわざ指摘することでもないのかもしれない。

しかし、例えばある特徴を持つ人々が関心を持ちそうな作品が美術館に展示されており、実際に見に来るのはその人たちが多かったとしても、そうでない人たちが見に来ることは、今回の企画よりは行いやすいだろう。もっとも、チームラボの会場は美術館ではなく、市民が訪れやすくする義務を負ってはいない。

「体験型」というのはこれに限らず、「没入型演劇(イマーシブシアター)」などでも、参加者を限定するものになりがちなのかもしれない。テーマパークの絶叫マシンのように?(身長、年齢、度胸、心臓の強さなど。サウナも妊娠中の人や高血圧の人には危険だそうだ。また、11歳以下の子どもなどは来場不可となっている)

もし滑りやすいのが障壁になる人が参加したいと希望したら、主催者は例えば滑り止めマットを敷くだろうか?そうした要望が出る余地が入り込む隙間すらないかもしれない(そもそも、このご時世にこうした場所に来ようとするのは、若くて健康に自信のある人だけかもしれない)。あるいは、実際にそうした要望があり、対応したのかもしれない。

暗いのが苦手な人がいたら、照明を明るくする日を設けるだろうか?美的コンセプトに合わないから、できないだろうか?ミュージアムの展示室では作品保護のために照明が暗く、キャプションも読みづらいこともあるが、照度は上げられない。その場合は何ができるだろうか?

「アートとサウナ」での対応がどうなのかはわからないが、「排除」の雰囲気を強く感じる場所だった。だが、従来の美術館を「敷居が高い」として一部の知識層・富裕層のためのものとみなす向きもある。その意味ではチームラボの「作品」は親しみやすいのか?いや、入場料は高額(平日 4,800円/土日祝・特定日 5,800円)であり、やはり来場者を選ぶと言えるのではないか。

一方、こういう記事を見ると、作り手は「境界がない」世界を実現しようとしているらしく、でもその「境界」の意味はまた別であって・・・。

いろいろな思索が交錯して、「ととのう」境地には到達していない。

サウナと冷水のセット体験が身体感覚に何かをもたらすことはあると思うので、そこから面白そうなアートの試みはできそうな気もするが、私には今のところ思い付かない。

開催概要

チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木
所在地:東京都港区六本木5丁目10-25
会期:2021年3月22日(月)- 8月31日(火)※11月23日(火)までに会期延長。
時間:10:00 - 23:00(最終入館 21:30)※11月以降。例外あり。
休館:不定休
料金:平日 4,800円/土日祝・特定日 5,800円
主催:チームラボリコネクト実行委員会
協賛:TikTok

※日時指定は30分毎。滞在時間に制限はない。最後にシャワーを浴びたらすっぴんになってしまうし髪を乾かすのも面倒と思っていたが、終わってみたらやはり温水シャワーを浴びたくなってしまった。それで浴びて、髪は生乾きで済ませた。全部で2時間半弱の滞在になった。

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