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31歳、はじめての自力アウェイ旅。大宮を『すたすたぐるぐる』たどる旅

31歳の私が、初めて自力でアウェイ遠征に行った。

今までアウェイ遠征はオフィシャルバスツアーで行っていた。
理由は、電車の乗り換えなど面倒がないこと。確実に現地にたどり着けること。旅費が安いこと。試合後は何も考えず一直線で帰れること。
観光はまったくできないが、上記のメリットを考えると「バスツアーでいいや」と思っていた。

しかしこのコロナ禍でオフィシャルバスツアーはすべて中止。
アウェイの地にたどり着くには、自分たちの力で行くしかなくなった。
それでも昨年のアウェイジュビロ磐田戦は、私と同じくヴァンフォーレ甲府サポーターである父の運転で直行直帰で行った。
ツエーゲン金沢戦は感染状況が落ち着いていたために、父と妹の運転で家族旅行も兼ねて行った。
ただ私は服用している薬の影響で、車の免許を持っていない。
父一人に長時間運転させるわけにもいかず、サポーターではない妹を一日連れ回すわけにもいかない。
ということは、行きたいアウェイ戦には公共交通機関を使って自力で行くことになる。
普段アウェイ遠征に行っているサポーターからすれば当たり前の事実だが、私にとってはとてつもない難題に思えた。

そんな折、このOWL magazineのライターたちが書いたサッカー本『サッカー旅を食べ尽くせ!すたすたぐるぐる埼玉編』を手に入れた。

ライターは皆フットワークが軽く、アウェイ遠征には慣れており、その一人であるキャプテンさかまきさんは自転車で埼玉旅を満喫していた。
「みんな行きたいところに自由に行けて羨ましい……」
そのようなことを思いつつページをめくっていたが、突然心の中のリトルリセルが叫んだ。

「あんたもOWL magazineのライターじゃん。自分の殻を破る時は、今なんじゃないの!?」

とっさにヴァンフォーレ甲府の試合日程を確認した。
アウェイ大宮アルディージャ戦、4月9日。行ける。
そしてすぐに大宮アルディージャのホームスタジアムである、NACK5スタジアムへの行き方を調べた。
乗り換えは多いけど、行ける。
大宮の地で見るべき場所は『すたすたぐるぐる埼玉編』に書いてあったので、自分の大宮旅がどのようなものになるかはすんなりと想像できた。
大宮の地をすたすたぐるぐる巡ってみよう。
ライターたちが体感した大宮を私も感じ、私なりの『すたすたぐるぐる埼玉編』を書いてみよう。

「4月9日、一人でアウェイ大宮戦に行ってくるよ!」

家族にそう宣言して、私は一つ自分の殻を破った。
4月下旬の32歳の誕生日を目前にして、初の自力アウェイ旅が決まった瞬間だった。

最寄り駅から大宮駅まで

午前5時40分。父の運転で中央線の最寄り駅に着いた。
「自力アウェイ旅と言っておいて親の車に乗るとは……」と思われそうだが、自宅から最寄り駅までは車で15分かかる。
早朝はバスもなく、徒歩で行くにはあまりに時間がかかりすぎるため、やむなく父の力を借りた。

朝日が眩しい駅舎に入り、ICカードで改札を通る。旅が始まる音がした。
しばらくホームで待った後、各駅停車高尾行きの電車に乗る。
車内ではウォークマンで音楽を聴いていたが気もそぞろで、駅に停車するたびにだんだん故郷が遠くなっていくこと、大宮に近づいていくことを感じていた。
終点の高尾駅に着き、すぐに中央線快速に乗り、西国分寺駅で下車。武蔵野線に乗り換えて武蔵浦和駅を目指す。

武蔵浦和駅では、2年ほど前からTwitterでやり取りをしていた大宮サポーターのNさんと待ち合わせをしていた。
コロナ禍でまったく会うことができず、今回が初対面。Nさんに会うことも大宮旅の目的の一つだ。
午前9時前に武蔵浦和駅に着き、駅構内の書店の前でNさんと合流。一緒に大宮駅を目指す。

大宮アルディージャは当時J2最下位。第8節を終えて一度も勝利していなかった。
大宮駅に行く電車内で、Nさんは今の大宮アルディージャを憂いていた。
ヴァンフォーレ甲府にとって大宮アルディージャはかつて一緒にJ1を戦い抜いた仲間であり、甲府も第8節終了時点でJ2の22クラブ中20位だったので、Nさんの話は身につまされる思いだった。
二人でため息をつきつつ、電車は大宮駅に着く。

大宮駅に着くと、大宮のオレンジが目に飛び込んできた。
改札の上に「大宮アルディージャのある街 ようこそ!大宮へ」というオレンジ色の看板があったのだ。
「『すたすたぐるぐる埼玉編』で中村慎太郎さんが紹介していたお出迎え看板だ!」とにわかにテンションが上がる。
改札を通って外に出る。すると駅前のスペースにリスの銅像があった。

まるで「ようこそ!大宮へ」とお出迎えしてくれているよう。

一瞬、大宮アルディージャの男の子マスコット、アルディかと思ったが、よく見るとそうではない。
後で調べてみたところ、このリスの銅像は「こりすのトトちゃん」というらしく、当時大宮に在住していたあすかけんさんの絵本『こりすのトトちゃん』シリーズにちなんだものらしい。
そして街並みに目を移すと、そこには驚きの光景が広がっていた。

オレンジ色に染まった愛情

ここからは有料公開とさせていただきます。

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視界に必ずオレンジ色が入るくらい、街は大宮アルディージャのオレンジ一色に染まっていたのだ。
街灯には大宮の選手の顔写真が一人ずつ入ったフラッグが、通り沿いにずらーっと飾られている。
去年まで2年間甲府に在籍していて、今年6年ぶりに大宮に復帰した泉澤仁選手のフラッグもあった。

通りの先にも選手フラッグが連なる。
泉澤仁選手は甲府に大きく貢献してくれた偉大な選手。
「ジンくん、大宮でまた頑張って!」と心の中でエールを送りながら撮影。

ちなみに甲府駅では南口のエスカレーターの上に、試合日のみ甲府のフラッグと対戦相手のフラッグが飾られている。またバスターミナルの屋根のポールに、甲府の小さなフラッグが張られる。
しかしこの大宮の街が占めるオレンジの割合には到底敵わない。
どこからどう見ても、ここは大宮アルディージャのある街だ。

Nさんの案内で、いくつかある路地のうちの一つに入る。
路地に入ってもオレンジは続いており、オレンジ色の自動販売機の脇に大宮アルディージャのポスターが貼ってあった。

下にはWEリーグの大宮アルディージャVENTUSのポスターも貼ってある。
VENTUSのサポーターにとっても、きっとこのオレンジの街は嬉しいはずだ。

また駐車場の柵には、大宮のホームゲーム情報の看板も設置されていた。

このパネルを試合ごとに入れ替える人がいることを想像してみよう。
そう、この街には大宮アルディージャを気にかけている人がたくさんいるのだ。

Nさんオススメの「カフェ・セルヴァン」に入り、Nさんがいつも食べているというオムレツを注文し、遅めの朝食を取る。

オムレツはふるふるふわふわで、口の中で溶けていく。
フランスパンには、コクとほどよい酸味のクリームチーズを塗っていただく。

「カフェ・セルヴァン」を出て通りを抜けると、一気に視界が開け交差点に出る。
交差点の角にオレンジ色で彩られた店が見えた。大宮アルディージャのグッズショップ「オレンジスクウェア」だ。

現代的で先進的な佇まいに「オシャレだなあ……!」と驚く。
もちろんヴァンフォーレ甲府の「地元の商店街」感のあるグッズショップも好きだ。

せっかく大宮に来たのだから記念に何か買っておきたいと思い、店内に入る。
「オレンジスクウェア」の店内は、洗練された雰囲気を醸していた。
オレンジとネイビーのグッズはとても見やすく陳列され、交差点に面した壁面はガラス張りになっており、まさに都会のブランドショップだ。
ここで私は大宮アルディージャの女の子マスコット、ミーヤの缶バッジとピンバッジを購入した。

「オレンジスクウェア」を後にして交差点を渡ると、何やら人々がまっすぐな広い道を歩いていく。
『すたすたぐるぐる埼玉編』に書いてある、氷川神社への道だった。
ちらほらと大宮ユニを着た人も見え始め、NACK5スタジアムが近いことを感じさせる。
巨木が立ち並ぶ氷川神社の参道を、Nさんと話しながら歩く。
Nさんは大宮アルディージャの現状を憂い、時に辛そうな表情を見せることもあった。
ただその言葉の端々には、強いクラブ愛が感じられた。

大宮アルディージャが大好きだからこそ、今のこの状況が辛い。

どれほど勝てなくても、次は勝つと信じたい。

信じているからこそ、勝てないと辛い。

でもたとえ辛くても、信じることは絶対にやめられない。

そのような気持ちが感じ取れて、痛いくらいに共感できた。なぜなら、私も同じ思いでヴァンフォーレ甲府を応援しているからだ。
共にJ1昇格を目指しながら下位に低迷している両クラブ。この試合では両者是が非でも勝ち点3が欲しい一戦だ。
その両クラブのサポーターが並んで歩き、共感し合いながら共に氷川神社を参拝する。
本殿に着き、賽銭を納めて今日の勝利を祈願する。勝利を願うクラブは違えど、根っこの部分は同じ「サポーター」。だからわかり合えるのだ。

この日は晴天で、境内はお宮参りの参拝客などで混み合っていた。
家族連れの幸せそうな笑顔を見て、心がほわっとあたたかくなった。

広い境内をぐるりと見渡して思ったのは、スタジアムにこのような大きな神社があることは、大宮サポーターにとって心の拠りどころになっているのではないか、ということ。
勝てばお礼参りをしたくなるし、勝てなければさらに神頼みをしたくなる。
氷川神社は大宮サポーターが前を向くための手助けをしている、まさに大宮サポーターの聖地なのだろう。

参道から入って右脇の道を抜けてしばらく歩くと、ついにNACK5スタジアムに到着した。
ビジター待機列まで一緒についてきてくれたNさんとは、ここでいったん別れる。
この後、Nさんにスタジアムグルメを「密輸」してもらうのだ。

密輸エリアでつながる心

NACK5スタジアムでは、ビジターサポーターが購入できるスタジアムグルメは限りなく少ない。
そこで大宮サポーターであるNさんにお願いして、大宮サポーターのみ購入できるスタジアムグルメを購入してもらう。
Nさんはビジター席の隣にあるエリアで観戦しているため、観客席裏のコンコースにある柵越しにスタジアムグルメを手渡せる、いわゆる「密輸」ができるのだ。
ビジター待機列で甲府サポーター仲間二人と合流し、Nさんに密輸してほしいスタジアムグルメをLINEで伝える。
私は『すたすたぐるぐる埼玉編』で、大宮けんさんがオススメし、中村さんが食べていた、ローストビーフ丼を注文した。
その日のみユッケ風の味付けがされている、甲府戦限定メニューとなっていた。

NACK5スタジアムの中に入り、立ち応援エリアを確保する。
2019年の開幕戦以来、3年ぶりのNACK5スタジアムの光景に、自然と胸が高鳴る。
ピッチの反対側にそびえ立つオレンジのゴール裏に圧倒されつつ「陸上トラックのないサッカー専用スタジアム、良いなあ……。ここで今日、どんなドラマが見られるんだろう」などと感慨にふける。

ピッチの近さにキリリとした緊張感を覚えつつも、目の前で選手たちと歓喜を分かち合える瞬間を想像するとわくわくしてくる。
専用スタジアムは、この臨場感がたまらない。

私のスマートフォンが鳴った。Nさんから「買えましたー! 密輸地帯にいます!」とLINEが来ていた。
甲府サポーター仲間と一緒に観客席裏のコンコースに行き、Nさんからローストビーフ丼を受け取り、代金を払う。
「いい試合にしましょう! 今日はよろしくお願いします!」
お互いにそう言って笑顔で別れる。
これからバチバチ戦う両クラブだが、私はサポーターとして試合以外ではこうありたいと思う。
私たちは考えや価値観の相違でいがみ合って戦うわけではない。
応援するクラブが違うだけで、むしろサポーターの考えや価値観はお互いにわかり合えるところもたくさんある。
きっとダービーとなると話は別だろうし、山梨県内にはヴァンフォーレ甲府以外のJクラブがないので「平和ボケ」と思われるかもしれない。
それでも私は他クラブのサポーターと心が通じる瞬間が大好きなのだ。

立ち応援の席に戻り、さっそくローストビーフ丼をいただく。
ボリューム感のあるローストビーフの上に温泉卵が乗っており、卵を崩して混ぜながら食べる。
ローストビーフは柔らかくて肉そのものの味を感じる。また黄身のまろやかさとユッケの甘辛いタレが合わさって絶品だった。
サポーター仲間も夢中で食べており、自然と黙食になっていた。
ものの数分でローストビーフ丼をたいらげ、容器を指定の場所に捨てる。

さあ、そろそろ臨戦態勢に入ろう。

あたたかな大宮色の街

音楽好きとして外せないのが、NACK5スタジアムで流れる『特攻野郎Aチーム』のテーマソングである。

大宮アルディージャは、YouTubeで調べただけでも10年以上この曲を選手紹介映像に使っており、明るく晴れやかな曲調は大宮の音楽的シンボルだ。
スタジアムDJの高らかな声とともに、大宮の選手たちがビジョンに映し出される。
2016年、2017年に甲府に在籍していた新里しんざとりょう選手のところでは、甲府サポーターから拍手が起こった。

しかし試合が始まると、甲府はその新里選手に先制点を決められてしまった。
ただ前半の終わり頃に甲府の長谷川はせがわ元希もとき選手が同点弾を決め、後半開始直後には甲府のブルーノ・パライバ選手が逆転弾。
その後ブルーノ・パライバ選手がもう一点決め、3対1で甲府が勝利した。

甲府は6試合ぶりの勝利に沸いた。
大宮サポーターのNさんの気持ちを思うと切なくなったが、この時は自分のクラブの勝利を喜ぶことに専念した。
勝者の目線から下手に同情されると余計辛いことは、私もよく知っている。

試合後、甲府サポーター仲間と別れ、氷川神社へと急ぐ。
OWL magazineのライターであり『すたすたぐるぐる埼玉編』の著者でもある大宮けんさん、屋下えまさんと初めて会うからだ。
集合場所に着くと二人ともすでに居て、私は待たせたことを謝りつつ挨拶をする。
そこから氷川神社を背にして参道を歩き、参道沿いの氷川だんごの店に入る。
店の前は氷川神社の参拝客をはじめ、大宮サポーターや甲府サポーターも多数いてかなりごった返していた。
けんさんが並んで購入してくれた2本入りの氷川だんごをえまさんと分け、私は海苔だんごをいただく。

撮影している間も、奥深い醤油と香ばしい海苔の香りが食欲を刺激してくる。
試合で緊張状態が続いていた私の胃袋も、一瞬でこのおだんごを求める。

もっちもちのおだんごに、醤油のほどよい塩味と深い味わい、そして香ばしい海苔の豊かな香りが重なる。
一本でも満足感があり、疲れた体が満たされた。

氷川だんごを食べ終え、大宮駅へと向かう。
「オレンジスクウェア」の前を通って、NACK5スタジアムに行く時に通った道に入る。一の宮通りと言うらしい。
知識量豊富なけんさんとえまさんの地元トークに耳を傾けつつ、私は「二人が甲府に来たら、私は甲府の街を同じくらい熱く語れるだろうか」と考えていた。
私はサポーターになる前まで「山梨なんて何もない」と思っていて、サポーターである今、地元について自分の知識の少なさを痛感している。
しかし視点を変えれば、サポーターになれたからこそ地元のことを意識するようになり、地元の魅力をもっと知ろうと思えたのだ。
「二人が甲府に来た時にきちんと案内できるように、もっと勉強しなければ!」と、心の中で一人誓った。

一の宮通りを抜けると「一番街」のアーケードが目に飛び込んできた。

レトロな雰囲気のフォントは、かつて人々の距離が近かった時代を思い起こさせる。
スタジアムからの帰り道、まるでご近所さんのように「お疲れさま!」と親しげに声をかけてくれたような気がした。

アーケードをくぐると一番街商店街に入り、頭上にはここにも大宮アルディージャの旗が掲げられている。
オレンジ色に染まった街を歩いていると、何だかこの街が愛おしく感じられた。
街を挙げてクラブを全力で応援するという、この情熱が心底羨ましい。
そしてこのオレンジ色の街は、大宮サポーターの気持ちを優しく包み込んでくれる包容力がある。
勝てば「やったね!」と一緒に喜んでくれるし、勝てなければ愚痴を聞いて「また次だよ!」と奮い立たせてくれるような気がする。
今まで、オレンジ色をこれほどあたたかく感じたことはなかった。

旅の終わり

大宮駅に着き、けんさんと別れてえまさんと帰りの電車に乗る。
車窓を眺め、離れていく大宮の地を名残惜しく思った。
不動産に詳しいえまさんは、武蔵浦和駅に着くまでの間、埼玉の民家の特徴について説明してくれた。
たしかに車窓から見える民家は家と家の隙間がほとんどなく、庭がある家も珍しい。ある程度隣の家と距離があり、庭もある山梨の民家とはずいぶん違う。
人口の差や地価の違いもあるが、埼玉と山梨では空間の捉え方がこんなにも違うのだと改めて感じた。

電車は武蔵浦和駅に着き、私のみ電車を降りてえまさんと別れる。
電車を乗り継いで立川駅に着くと、スタジアムで一緒に観戦していた甲府サポーター仲間二人とバッタリ会った。夕飯を買い込んで、甲府方面の特急に乗る直前のようだ。
「次はまた小瀬でね!」
笑顔でそう言い、二人は特急に乗っていった。
私もその後の特急に乗り、スマートフォンを開くと大宮サポーターのNさんからLINEが来ていた。
甲府の選手を称え「大宮サポーターとしてこの結果は辛いけど、応援頑張ります」というメッセージの最後にこう書いてあった。
「また小瀬にも遊びに行きますね! ぜひまた色々お話させてください!」
そのメッセージと、先ほどの甲府サポーター仲間の言葉を、私は座席の背もたれに寄りかかりながら反芻する。

何気ない言葉だが、心があたたかくなる。

おそらく私がサポーターにならなければ、出会えなかったであろう仲間。

サポーターにならなければ、これほどまでに深く知ることがなかったであろう街。

サポーターになって巡り会えたすべてが愛おしい。

サポーターにならなければ、また違う出会いもあったかもしれない。

それでも私はサポーターになったからこそ出会えた仲間や街が大好きだ。

特急は終点の最寄り駅に近づき、私は荷物をまとめてドアに向かう。
すると同じくドア付近に来た中年の男性が、こう声をかけてきた。
「今日は良かったですねー!」
私は思わず顔がほころび「ありがとうございます!」と返す。
「いやあ、試合が気になって仕事中チラチラDAZNを見ていたんですよ。本当に勝って良かった……!」
男性は嬉しそうな様子で、勝利の喜びを噛みしめている。
「声をかけてくださって嬉しいです! 次も絶対勝ちましょうね!」
私がガッツポーズをすると、男性も「勝ちましょう!」とガッツポーズで応じてくれた。
電車は終点に着き、ドアが開く。
「お疲れさま!」
そう言って男性は颯爽と去っていった。

31歳。はじめての自力アウェイ旅は、一生忘れない大切な思い出になった。


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サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…

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