新人看護師に研修生の制度を設ければ、看護師の労働環境はいくぶん楽になるはず

新人看護師のリアリティショックはコロナ禍になってさらに大きくなった


新人看護師が看護学校や大学の看護学部を卒業し、国家試験を合格していよいよ新人看護師として就職する時…

「学校で習ったことっていったい何だったの?」
なんて愕然とします。

新人看護師が学校を卒業し、働き始めたときに感じる差を「リアリティショック」と呼びます。
決して少なくはない新人看護師が1年以内に離職しています。

多くの新人看護師は大きな病院に就職します。
急性期で大きな病院は、、「実習に行ったことがあって職場の様子がわかっている」、「教育体制がしっかりしている」「大きな病院で名前もあれば安心」…など、新人看護師さんたちが卒後就職に気持ちが向かう事情があります。

ですが、大きな病院はほとんどが急性期といわれる時期の患者さんが来る病院です。
急性期の病院は患者さんの入れ替わりが激しく、やることも多い。
命の危険にさらされた患者さん、手術で展開の早い患者さん、スピーディーに臨機応変に、判断も的確に素早く常に動き回っていなければなりません。
早期に退院することができなければ、保険料が減額となるために、入院とともに退院の準備を始めるほどです。

実際に看護師として働きだすと、学校で習った看護技術だけではなく、医師からの指示の確認、書類の確認、点滴や薬は出ているか、医師や医療従事者からの説明や指導の時間調整、準備…、多くの雑務もこなしていかなければなりません。

学校でたった1人の患者さんとじっくり向き合う実習ばかりの新人さんが、就職したとたんに「何から手を付けたらいいかわからない!」「私全然働けない…」「全然ついていけない、私はできない」なんて不安や劣等感、命の現場で多くの恐怖に駆られることでしょう。
このコロナ禍で実習も中止になることも多く、ここ数年の新人看護師さんはとてつもなく大きな壁を感じながら働きだしたのではないかと思います。

このリアリティショックは、20年近く前に筆者が学生の頃から言われていましたし、もっとずっと前から問題とされていました。

学生から看護師として就職する際の差は、年々大きくなっているように感じます。
新人看護師の研修生として各課をローテーションする制度ができるかも…、ずいぶん昔に耳にしたことがあります。

いったいどれくらいの病院で新人看護師の研修制度が始まっているのでしょう。
個人の力ではすぐに確認できませんが、新人看護師さんたちが心を穏やかに研修期間で経験を確実に積むことができれば、新人看護師の離職を防ぐだけでなく、看護師の職場環境はもっと改善されると思うのです。

新人看護師を教育する余裕が現場には残されていない

看護師が働く現場では、患者さんの人数によって看護師の配置数が決まっています。
急性期の病院、療養型の病院、施設など、配置基準はさまざまですが

「どんな病気の、背景の、性格の、患者さんであろうと1人とカウントする」です。
厳密にいえば、治療内容、医療処置の内容や介護認定の重さなど、で受け入れられる患者さん誰でもいいわけではありません。が、基本的には「〇対1」として看護師の配置基準は決められ、診療報酬が支払われるシステムが存在しています。

急性期の病院では「患者さん7人に対して看護師を1人配置する」という「7対1」の看護配置をとっている病院が多いです。
(細かいことを言うとそれはもういろいろ複雑で私自身もよくわかっていないのですが…)

「患者さん〇人に対して1人」で国からお金がもらえる、となると、それ以上に看護師を配置しようとすると人件費がかかるので、ギリギリの人員配置になります。
さらに看護師の経験年数や力量は関係なく、新人からベテランまで「1人の看護師」として換算されるのです。

さらにさらに、患者さん達への対応にも負担が大きくなってきています。

高齢化に伴って、一つの病気だけではなく複数の病気を抱えていて複雑であったり、どうしても筋力低下があって、日常生活の介助も多く必要となります。病気になったとあれば、さらに動けなくなり、お世話が多く必要となったり、治癒にかかる時間も長くなり、退院を迎えられそうになっても体力が回復しきらず、退院のいろいろな準備に時間を非常にとられます。

医療の進歩や制度の変更によっても、常に対応していなければなりません。ほんの少しの間に治療方法や薬、いろんな基準手順が変わります。勉強をし理解をし実践することは当然なのですが、あまりにも変わりすぎるのです。

業務量もどんどん増えています。診療報酬を得るために、患者さんに施した行為に対して、妥当性の証明やきちんと計画を立ててやっていたことを証明するために、膨大な記録を記載するために、患者さんの所に行く時間がどんどん削らざるを得ない現状があります。

「〇対1」の配置基準を満たすために、ぎりぎりの人員配置の中、膨大化する業務量、1人休めばその日1日を乗り切るのに必死です。
それがわかっているから、休むことにためらいが大きく、無理をして働く看護師が多数います。
「私がいなくなればみんなに迷惑がかかる」
まだまだ女性の多い職業です。
お子さんのいる看護師もいるし、女性特有の不調だってあります。妊娠、出産を控えた看護師もいます。
もともとハードな職業ですし、腰を痛めたり、感染症をもらったり、常に危険と隣り合わせ。
心も体も壊して辞めていってしまう看護師を何人も見てきました。

結婚や出産で辞める看護師が多数いる中、年度末までに数カ月程度なら欠員のまま翌年の春を待ち、新人看護師さんで補充するなんてザラにあります。
働けるスタッフが欠員でいっぱいいっぱいなのに、新人看護師さんが入職してきてさらに指導もフォローもしなければならない状況では、命を守るのが精いっぱい、その日必ずやらなければいけない業務をこなすだけ、最低限のことをするだけで精一杯になるのです。
医療ミスをしないか、いつも胃がキリキリさせながら、ストレスフルな環境の中で働き続けなければなりません。

現場では新人看護師さんを指導する余裕がありません。
ストレスマックスの中、ヒリヒリするような思いを抱えて余裕がなければ、弱い立場にある新人さんに辛く当たってしまう先輩看護師も出てきてしまうでしょう。
初めての業務や、なかなかうまく動けない目の前の新人看護師さんにイライラしてしまうのは、新人さんが悪いのではなく、労働環境やシステムが問題だと常々考えてしまうのです。

看護師にも医師のように研修期間を設ければ、看護師の労働環境はいくぶんマシになるはず

そもそも学校で学んでいることや、実習での動きは、実際の看護師の働き方とずいぶんかけ離れています。

実習では1人の患者さんにじっくりと関わる機会がほとんどで、統合実習という実習だけがたった数日間だけ、看護師の現実に即した働き方を間近に見て経験できる唯一のチャンスに思います。

看護師の専門学校や大学を卒業時は、看護師国家試験の受験資格を得た状態になっているだけ。
看護師が実践力を高めるには、実際の患者さんに対応して得た経験とリンクさせながら反復して学び、実践するしかありません。

学校では留年させないように、卒業できるように先生たちは懸命に努力されると聞きます。同じように教育をし、同じような目標を達成させるためには、うまくいく子もいかない子もいてしかり。
だからといって、学校で優秀な成績があったとしても、看護師として働き始めてうまくいくかどうかはわかりません。

看護師の知識や学ぶことは、幅広く、経験してく上で看護師として自信を持って働けるようになるのです。

看護師としての教育していくのに、先輩ナースの行動や患者さんとのやり取りを身近に見せてあげること、先輩ナースが側に付きそって、新人さんが実践するのをフォローすること。
新人看護師が一人でやってもいいと言われても、不安に思う時は先輩ナースがフォローすること。

本来ならば、新人看護師たちに手厚く、時間をかけて指導してあげたいところですが、前述した通り現場はすでにいっぱいいっぱい。
欠員を新人看護師さんで埋めているので、欠員分の仕事を請け負ってさらに指導となると厳しいのです。

新人看護師を人員として配置せず、研修医のように研修生として賃金を受けながら看護師としての経験を積める制度を設けてほしいのです。

そうすれば、春になれば新人看護師で欠員分を埋めるなんて計画はなくなるし、動けるスタッフを確保しながら新人看護師に対応できれば、教育へのゆとりもでき、新人看護師への圧力も多少は緩和されるでしょう。
新人看護師さんとはいえ、できることはたくさんあります。
簡単な技術を確実に安全に自信をもって覚えてくれれば、お願いできることが増え、頭数が単純に増えるので現場の負担も軽減されると思います。

ナースコールの対応、認知症患者さんの見守り、食事介助、手術、検査の送迎…。人手があればあるほど助かることです。
そして新人さんたちがその時点でできることをやって、「ありがとう」と言われれば、新人さんたちの自己肯定感も高まると思うのです。

看護師たちに余裕が出れば、異動や復職してきたばかりのナースへの配慮も増やしやすい。
潜在看護師70万人の中に「できれば復職したい」と思う方も多くいると思うのです。

看護師の研修期間を設けてほしい、もちろんきちんと社会人として、労働者として賃金は支払われる形で。
未来の看護師をしっかりと育てていかなければ、看護の質は下がるばかりです。入院する患者さんたちの安全を守れなかったり、重要な決断をするときに十分な支援を受けられない、入院療養中の居心地の良さも損なわれる可能性だってあります。

なにより、新人看護師さんたちがせっかく得た看護師の資格を本来の意味で活用できず、看護師としての本来の喜びや感動、達成感、やりがいを感じるチャンスをなくしてしまうのが非常に惜しいと思ってしまうのです。

看護師が看護師である喜びを感じられる社会になってほしい

人生の、しかも病気で辛い時期、命さえも危ぶまれる人々の支援をする看護師の世界に、20代前半で社会経験もほとんどない若い方々が飛び込んでいくのは並大抵のことではないと思っています。

想像を超えた環境の中で、学校とはまったく異なるところで、年の離れた先輩たちとの関わり、働くということ、なにもかもが学生時代とは違います。

多くの新人看護師さんたちが、大きな変化に対応するのが難しく、このままやっていけるのか、このまま辛いのが続くのか、先が見えなくて悩み続けると思うのです。
でも業務は待ってくれません、常に時間に追われ、間違いを犯さないよう細心の注意を払い、本当にこれで合っているのか、実行していいのか、常に判断を求められます。

そんな環境の中で、新人看護師さん達を支えてあげられるように、せめて教育できる体制を整えられるようにしていってほしいのです。
現場だけの力では、今を守るので精いっぱい、むしろコロナ禍になり、崩壊しているではありませんか。
現場の状況、時代に即した制度やシステムを考えていってほしいです。

その先に、多くの方々の人生の岐路において、安心できる支援や心の込められた看護を受けられる環境になっていくと思うのです。



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