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除菌

この冬、最新の超大型空気清浄機エレファントが発売された。
この清浄機エレファントには、その名どおりゾウの大きな鼻のような、巨大な吸い込み口がついており、人体に悪影響がある菌やウイルスを見つけると直ちにゾウの鼻がそれを吸い込み、それらを除菌する。
それだけではなく、人体に悪影響があると予測したモノは何でも吸い込み、除菌したあと室内に戻してくれる。例えば、帰宅してスマホに菌が付いていたらスマホごと吸い込み、除菌したあとスマホを室内に吐き出すというわけだ。またどうしても除菌が不可能な場合は、その部分を分離し屋外のゴミ箱に吐き出すことになる。排除する対象は菌やウイルスにとどまらない。現在は人体の影響が明確になっていないものでも、搭載された人工知能のアルゴリズムが近未来を予測し、悪影響が出ると判断すれば即座に屋外のゴミ箱に放り出す。

エヌ氏は早速購入した。購入したのは自身のためでもあり、家族のためでもある。
1人娘は小学6年生、エヌ氏のアドバイスどおり、そろばんやピアノ、水泳など複数の習い事に取り組み、夜は毎日学習塾に通う。これらの経験は娘の人生を豊かにするはずだ。
妻はいつも優しく、会社員として働きながら家事をこなし、私を支えてくれている。
エヌ氏は幸せであった。この幸せな生活を絶対に守りたかった。
娘の成長を阻害するものは排除したいし、妻の健康を害する可能性のあるものも完全に排除したかった。

今日の夕方、清浄機エレファントが家に届いているはずだ。妻は帰宅後にエレファントを設置し、塾から帰った娘とともに私を待っているはずだ。

「ただいま」エヌ氏が帰るとリビングにそれは設置されていた。エレファントの鼻は予想より大きく、ゆらゆらと揺れる姿は、排除すべきものを品定めしているようだった。
エレファントの鼻の動きが止まった。
鼻はご主人様を見つけたかのように、ゆっくりとエヌ氏に近づいていった。エヌ氏が穴の中を覗いた瞬間、轟音が鳴り響き、鼻はエヌ氏をまるごと飲み込んだ。
エヌ氏は突然のことに呆然としていたが、鼻の中で全てを理解した。鼻は今、エヌ氏の体を丸ごと除菌してくれているのだ。

しばらくすると、エヌ氏の体は再び動き出した。チューブの中を抜けて、エレファントの体内から飛び出した。

エヌ氏は目を開けた。そこは予想外の場所であった。エヌ氏がいた場所は、家の裏のゴミ箱の中である。エヌ氏は何が起きたのかを理解した。エレファントは吐き出す方向を誤ったのだ。
エヌ氏はゴミ箱から這い出し、玄関へ向かった。この不良品を返品する手続きをはじめなくては。
玄関はオートロックされる。
カードキーの入ったサイフを取り出そうとしたとき、エヌ氏の動きが止まった。

ポケットにあるはずのサイフは無くなっていた。

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