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春を聴く会|#シロクマ文芸部

花吹雪が舞う中『春を聴く会』が催された。

今までは涼風さんが幹事をしていたけれど、院に進んでペースがまだつかめていないこともあり、大学2年目の僕が『春を聴く会』の呼びかけをすることになった。日時や集合場所を記したポスターを作って、大学の掲示板や購買・図書館などにも貼らせてもらう手続きをした。ちょっとは役に立っているのかな… 

小鳥遊たかなしくん、いろいろ準備をありがとう。助かったわ。当日は私も参加して案内とかするから!」

「ポスター作りは楽しかったです。涼風さんが案内してくれるなら、僕も安心です」

「去年の『春を聴く会』の様子とか、知らないもんね。参加者がすごいのよ、春だけは!」

「そうなんですね?僕は春だけ行きそびれてたから…
あ、クリスマスもだっけな」

「ふふふ。楽しみにしてて!」

大学の図書館前に集合したが、ついこの間の入試合格発表掲示板前みたいな様相だった。

「うわぁ〜!こんなに集まるんだ」

「うちの大学は桜並木が有名だからね」

大学のすぐそばに川が流れていて、その岸辺に延々と桜が植っているのだ。その桜が構内にも続いていて、学生だけではなく近隣の方々や観光客も混じっているようだ。

「それでは、ゆるゆると参りますか」

涼風さんはいつものように、実験途中から抜け出したような白衣の姿で集団の前に立った。

「今年も『春を聴く会』の季節になりました。たくさんのご参加ありがとうございます。私はこの会の主催をしている涼風と申します。今日は美しい桜を愛で春の息吹を感じ、楽しいひとときが過ごせるよう努めたいと思います。宜しくお願いいたします」

僕は今日のコースを記したパンフレットを配布した。それには桜の種類やエピソード、あとは「この辺でウグイスの声が聞こえる」風なチェックポイントが書かれている。僕も一枚もらった。

初めこそは大人数でゾロゾロと歩いていたが、パンフレットもあるし徐々に人波は少なくなっていき…川辺の桜並木を歩く頃には、皆、思い思いの場所で写真を撮ったりとバラけてしまっていた。でも涼風さんは気にしないで立ち止まって待っていたり「あ、シャッター押しましょうか?」とカメラマン代わりになったりしていた。

そんな『春を聴く会』も涼風さんと一緒に行動しているのは、ほんの数名となってしまったようだ。

「毎年、こんなにたくさん桜を見にくる人がいるんですか?」

参加者が涼風さんに質問した。

「そうですね。今年は去年よりも少し多いかもしれませんが、だいたいこんな感じですよ」

「夏とか冬とかにも、『聴く会』はあるんですか?」

「ありますよ。ポスターとか掲示しますからチェックしてみてください」

ポツリポツリと質問は来たけれど、やがて誰も何も聞かず桜を見たり、鳥の声に驚いたり、花の匂いに導かれて寄り道したり… また、いつものように涼風さんと僕は二人だけになってしまった。

「写真でも撮る?」

「えっ、二人でですか?」

僕の方が恥ずかしくて赤くなってしまった。

「そんなに嫌?」

「いえ、大変光栄であります!」

「私より若いのに、いつの時代の言葉よ」

桜の木の下で涼風さんは笑いながら僕の隣に並び、スマホで自撮りした。花吹雪で、顔がところどころモザイクがかかったように隠れてしまう。

「もう!」

涼風さんは、ちょっぴりおかんむりだ。僕の顔なんかしっかり写っていなくても別に良いのに。そんな涼風さんは目の前の花びらを払っていたら…

「あら、花びらを捕まえたわ。ラッキー!」

「花びらを捕まえると、何かあるんですか?」

「うふふ。秘密!小鳥遊たかなしくんもやってみたら?」

風に舞う花びらを捕まえるのが、こんなに難しいことだなんて知らなかった。涼風さんがいることも忘れて、僕はしばらく格闘していた。

「取れた?」

「なんとか、やっと… 難しいですね。意外と」

「そうね、ふふふ」

「取れると何か良いことかあるんですか?」

「まぁね。じゃあ、写真もう一度撮り直すか!」

「えーっ!?」

涼風さんに突然肩を寄せられて、気がついたらシャッターを押されていた。

「う〜ん、上出来!!では、またね」

桜吹雪の中を颯爽と白衣を翻して立ち去っていく涼風さん。僕はポカンと…佇んでいた。

[約1700字]

進展ありそうでなさそうで…  まぁ、知り合ってあと少しで一周年になる二人です。そのうち何かがあることでしょう。

#シロクマ文芸部
#花吹雪

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